12回を戦い終えても、整った顔には傷ひとつなかった。採点はジャッジ3人が大差の3−0。理詰めのボクシングで34歳が新王者に輝いた。
「ここまでこられると思っていなかった。ホンマにうれしい。今はとにかく寝たいです」
1回、相手の右カウンターを浴びた。前に出たい気持ちをこらえて、左ジャブに徹した。相手の出鼻をたたいては下がり、相手を翻弄。ポイントを重ねて大差判定に持ち込み、国内歴代2位となる年長王者となった。
大阪の名門・興国高3年時に選抜ライト級で優勝し、近大でも活躍したが、ボクシングへの熱い思いはなかった。「プロでは食っていけない」と競技を離れ、児童福祉施設「若江学園」の職員になった。働きながら布施北高のコーチに就任。高校生を教えているうちにボクシングへの思いが再燃し、金沢ジムに入門して才能を開花させた。
昨年9月に挑戦者決定戦と銘打ってこの日破ったアベンダーニョに判定勝利を収めた。だが、交渉が難航し、世界戦が決まらない。ストレスで、体重は80キロを超えた。先輩で元WBC世界スーパーフライ級王者・徳山昌守氏に「辞めたいです」と泣きついた。だが徳山氏から「お前にはオレにはなかった才能がある」と励まされた。金沢会長に「先につながる試合ができなければ、ボクシングを辞めます」と伝え、臨んだ一戦で、力のすべてを出し尽くした。
「世間に認められたい気持ちはある。次は正規王者。そうなれば号泣すると思います」
長男・慈穂(しおん)くん(5)と長女・咲良(さら)ちゃん(3)をリング上で抱きかかえ、まばゆいばかりのフラッシュを浴びた。34歳の本領発揮はこれからだ。(大沢謙一郎)