「素人政治」の時代へ
小泉元首相がぶっ壊したものは、自民党ではなく、政権担当能力の持てる政治家を育む仕組みそのものじゃなかったかと思う。
相変わらず時間がないので、多少途中の議論は端折るけど。
● 政治家は技能者
一口に「大物議員の落選」というけれど、その中には年齢や地盤の問題で次の選挙で仮に風が吹いても勝てない議員が出てくる。引退に追い込まれるのは仕方ないにしても、自民党であれ国民新党であれ、省庁操縦法だけでなく、議会日程や政策に強い議員は基本的に議席を守れない傾向が顕著になっている。
それら大物議員を叩き落すのは、風に乗った新人議員で、経歴を見るに必ずしも政策に詳しくなく、特定の利害を代弁するようなスペシャリストが起用されているケースが多い。彼らがそのまま民主党が新しく作る政治システムに組み込まれ、副大臣などを経て政権担当能力を担う立派な議員になってくれれば、日本にとっては「投資」で納まる。
ただ、これって次の選挙では別の風が吹いたら容易に落選することを意味する。小泉チルドレンの無残な選挙結果を見るに、必ずしも若くて新鮮であれば議席を守りやすい、とはならない。小選挙区+比例代表のいまの制度だと、ちょっとした得票率のズレが何十議席もの当落の差を生み出す極端な政治構造を作りやすい、という事情はある。でもそれ以上に、熟達した職業政治家の育成が困難という状況だと、仮に次の選挙が反民主の風が吹き荒れたとき今度は民主の大物が次々落選という体たらくになる危険性すらある。
これは、結果として民主党が目指した脱官僚依存、政治家が政治を取り戻す、という掛け声とは逆の現象を惹起するだろう。なぜなら、経験の足りない政治家が閣僚となり、現場を取り仕切る官僚が政治家を手玉に取ることは容易に想像できるからだ。民主党は、民間からの積極的な任用で、職能の足りない政治家の補助をしようと考えているけれども、率直に言うならばいま以上に政治と民間の癒着が進む可能性だって否定できない。
● マニフェスト選挙について
民主党はたぶん掲げたマニフェストのうち重要な幾つかの演題を守ることができない。中央突破で実現しようとするかもしれないけれども、結構大変なことになるんじゃないかと。
まだ情勢調査の内容はきちんと読み込んでないけれども、有権者の3割強は、マニフェストを重視し、同じく3割ぐらいは政権選択を重視したという。マニフェストもある意味で政権選択のことであるから、有権者の6割が政党本位の投票行動であり、ここから「民主を選択したというより、反自民の風に乗って民主が大勝した」と報じられるのは至極真っ当なことなのだろう。
問題は、過去にも公約を守れなかった与党が酷評に転じてきた経緯があったことだ。マニフェストは過去の政治における公約と同義か、それ以上にコミットする性質を帯びてる。両立しない政策が山盛りで、おまけに鳩山代表は選挙戦の最中に赤字国債は出さないと宣言してしまった。本当に、実現できないと思うんだ。「実現できない」と指摘する選挙戦を展開した自民に言われるまでもなく、まあ無理な政策も含まれておるよね。どうするんだと。
これらのマニフェストの実現状況を確認、把握し、実現へ向けて統御するのは国家戦略局なる新組織であるという。ここに、重大な権限が付与されるのはまあいいんだけど、そこで実務を取り仕切る人間は民間人ということは、必ずしも国民の請託を受けたわけではなく、高級官僚のように特定の方面の政策に熟達したわけでもない人々が任用されてしまうということだね。
これが機能するように仕切るためには、相当努力しないといけない。
国交・農水省が概算要求発表、民主は見直し方針
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20090831-OYT1T00831.htm
[引用]新政権発足後に設ける首相直属の新組織を中心に予算編成を進める考えだ。
● 「お手並み拝見」がむつかしい
官僚なんかと話していると、選挙前から「民主政権になっても、一年持たずに分解する可能性が高いから、長くても二年我慢すれば嵐は過ぎる」と見る向きが多い。まあ、民主はずっと脱官僚依存を掲げてメディアシフトを敷いた作戦を続けてきたわけだから、当然官僚はしばらくの冷や飯はやむなしという考えになるだろう。
ただ、官僚が二年ぐらいの一回休みと割り切ったとしても、国民生活からすると二年って結構長いよ。ましてや、民主は単独でも安定多数で、当初は彼らの理想の国づくりのために、いろいろと頑張って既成のシステムを変えようとするだろう。現段階で、民主党にはこれといった青写真もないまま大勝してしまったので、子供手当てとか福祉分野以外で明確な政策目標を作り上げないまんまの状態になってる。
で、政策課題としては、結構待ったなしになってる分野はかなりある。財政はもとより、金融、とりわけ銀行行政や、地方財源、薬価など医療費、安全保障(ソフトパワー系)、知的財産、他国との租税協定や税制のキャッチアップなど。どれも、国民生活に関係はあるけど国民には直接知り得ない重要な事案ばっかりでね。そりゃあむつかしすぎるから選挙対策のたの字にもならないから無視され放置されてきた事案ばっかりだけれども、この辺を担当しうる人材が民主には見当たらなかったので、どうしても民間から連れて来ようという話になる。
そうなると、実名出してもしょうがないかもしれないが、有識者として榊原英資氏とか取り沙汰されるようになるってわけで… 彼が良いか悪いかは立場によって評価も変わるとは思うけれども、彼は元大蔵官僚でいろんな思惑もありつつもミスター円とか言われてた元財務官。本人や周辺の思惑はどうであれ、一度は自民政権中に財務官を歴任した官僚サイドの人で、民間に転出すれば元官僚であっても官僚依存ということにはならない、という便法になるのだろうか。
それ以外には… まあ、いろんな立場や考え方の人がいるとは思うけれども、カタカナ系コンサルティング会社の人たちや、メディア系企業あがりのジャーナリストなどが、国家戦略局なる枢要部門の人員として登用される可能性は高まる。当然、国家公安委員会や、証券取引等監視委員会といった保秘が前提のポジションに対しても、情報開示や提供を求めてくる。
このあたりの要諦というのは、とりあえずやってみました、お手並み拝見では済まない規模の情報が国家から流出することが確実なんであるよ。なぜなら、任期が決まってるし、民主もいずれは下野するわけだから。じゃあいままでが良かったか、と言われると襟を正さねばならない部分も多々あるけれども、少なくとも紐のついた人物を土足で上げるようなことはなかった。はず。
逆に、その辺の土地勘に優れて差配が自在の逸材がここに押し込まれて権限を与えられれば、修羅の如き活躍が見られることだろう。そのぐらい、このあたりの部門には手付かずで様子見判断のまま放置されてきた事案が多すぎるんだろうと思うんだけれども。お手並み拝見でリスクを減らせないんだから、民主執行部が相当運が良いことを期待するほかないと思う。さもなければ国難ということで。
さてさて。
(追記 15:30)
主が変わって、私たちも環境に適応しようと努力することを怠らずに頑張っていくほかないと思うんですよ。政治の安定が国益に資すると考えて、毎日精励していくほかないと。はい。
(追記 16:46)
「素人政治」という表題がピンと来ないというメールをいただいております。そうかもしれません。極端な類例ですけど、事実そういうことのようなので、これでも読んどいてください。もちろん調査しますけど、与党になっちゃったんで、経歴に問題がなければ何事もなく次の選挙まで彼女は「選良」ということになります。
【43歳無職女性】 9時~22時勤務・無休のバイト先で名簿に名前を書いたら代議士になっていたでござるの巻
http://birthofblues.livedoor.biz/archives/50901575.html
Comments
「お兄ちゃんやめて!民主政権は国難だから!」
まで読んだ。
Posted by: みかん | 2009.08.31 at 15:54
>お手並み拝見では済まない規模の情報が国家から流出することが確実なんであるよ。
こんなに改革しましたなんていっても結局関係者が儲けるだけなんじゃないのか。
Posted by: はげ | 2009.08.31 at 16:09
本当に熟考してるなあ
官僚批判→結果として官僚主導に成らざる得ない
とか
赤字国債発行しない→そんな絵空事アホか
とか
「素人政治の時代へ」なんかセンス感じるよ
悲観もしないし楽観もしない。現実に寄り添って向き合うだけやね。
Posted by: 経理 | 2009.08.31 at 16:09
よくわかんないんだが。。。
そりゃそうなんだろう。
でもさ・・
じゃあ自民にそんな逸材いたのかね?
けっきょく官僚丸投げ依存だっただけでしょ。
Posted by: infos | 2009.08.31 at 16:28
私の師匠も、「アーバン化が進みすぎて、顔の善し悪しで選挙が戦える時代になった。これからは写真ならべて、東京で通る顔、東北で通る顔、山陰で通る顔で候補を決めれば良い」と憤激されておられました。
でも、ノックや扇千景の時代からタレント候補というのは昔からあったわけで、それが今やタレントが議員になるのではなく、国会議員がタレント化した、おニャン子クラブかモーニング娘。かAKB48か分かりませんが、まぁ、時代が進んだってことじゃないかと思います。
彼らの大成を願ってやみません。(棒読み)
Posted by: Kei_N | 2009.08.31 at 16:35
Gayoで、映画「デーヴ」を今見終わったけど、素人政治家のできることがよく描かれていたよ。自民党の弱かったのは、スタッフがいなかったんだよ。「デーヴ」でも描かれていたけど、その人のためなら死ねるってことだね。自民党の課題は、これからの民主党にものしかかっていることは確か。あと、単純に、政治家がお金の重みがわからなくなって浮かれていたんだろうね。ちなみに、頭がいいとか、金を持っているとかいうのは、それだけなら、そんな人のためには誰も死ねないってことだ。(なんで、そんなつまらない人になろうとするのか、ネットの人には????だけど。)
自民党は、一度、複数に割れた方がいい。そして、また再結集して一つの党になるという流れがないとダメだろうな。自民党自身、リストラと、金銭的経営を再構築できなければ、消えるしかない。市議会、区議会からしっかりやりなおさないとね。そこに、優秀な人材が眠っていると思うし。
ま、人間は、生温い環境より、苦境に強い生き物だから、新しい成長のための、種が蒔かれたと、オレは期待しているよ。
あと麻生君には、しっかり責任をとって、自民党全体のために謝罪してもらいたい。できれば、最近の歴代総理で、総選挙を経験してない人も同時に。そして、支持してきたものと、いっしょになって泣けることができないなら、もう、完全に終ってしまうのだよね。
とにかく、前には進んだ。楽しみだ。円高だし。困難を乗り越えよう! 楽して美味しい思いなんて、どうかしているのだしさ。
さ、9月はどうしようかな。どっちにしろ、国際経済の底がまたきそうだしさ。嵐がガンガンやってくるんだろうし、わくわくしてくる。
Posted by: | 2009.08.31 at 16:43
今の民主じゃリスク管理ができないってことでしょ
出来ないというか何がリスクとなり得るのかが予測できないというか
Posted by: 名無し | 2009.08.31 at 17:03
小泉はなんだかんだ言いつつそれぞれの分野での専門性を持った職人の間に素人を織り交ぜた布陣で、選挙後にある程度の仕事が可能なようにしていたけど、今回の小沢チルドレンはみごとに素人の連合体。
どうするんだよこれ。産廃以上の何物でも無いだろ。
Posted by: | 2009.08.31 at 17:18