中村吉右衛門が9月の歌舞伎座で昼夜の4演目に出演する。昨年まで3年間、9月には初代吉右衛門(秀山)の芸を顕彰する「秀山祭」が吉右衛門を中心にして行われていた。今年は「さよなら公演」期間中のため「秀山祭」と銘打たないが、吉右衛門は「演目選定には思いを引き継いでいただけた」と語る。【小玉祥子】
昼が鶴屋南北作「時今也(ときはいま)桔梗旗揚(ききょうのはたあげ)」の武智光秀(明智光秀)。光秀が謀反を決意するまでの「饗応(きょうおう)」「馬盥(ばだらい)」「連歌」の上演。「秀山を偲(しの)ぶ所縁の狂言」の副題が付くように、初代が光秀をあたり役とした。
光秀は小田春永(織田信長)の命令で、額を割られ、馬が足を洗うたらいで酒を飲まされ、困窮した際に妻が売って金に換えた切り髪を見せられる。度重なる恥辱に、ついに堪忍袋の緒を切る。
吉右衛門は「この立場に置かれれば、誰でも謀反を起こすのでは。気持ちの流れが自然で好きな人物です。お客様に早く『謀反をやっちゃえ』と声援していただけるように努力します」。
夜の部は最初が「鈴ケ森」の幡随院長兵衛。襲いかかる雲助を次々と切り倒した白井権八(中村梅玉)を、長兵衛が呼び止める。「人を切るのですから本当は残忍ですが、そこを面白くしてしまう。歌舞伎ならではの雰囲気を味わっていただける芝居です」
次が「勧進帳」の富樫。「七代目松本幸四郎没後六十年」の副題が付き、七代目の孫である幸四郎(吉右衛門の実兄)の弁慶、ひ孫の市川染五郎の義経だ。「富樫は途中で義経主従の正体に気付きますが、自分が腹を切る覚悟で見逃してやる。そういう気持ちでいたします」
最後は「松竹梅湯島掛額」の紅屋長兵衛。こちらも初代のあたり役だ。木曽軍が攻めてくるので、人々は吉祥院へ避難している。そこに来た長兵衛は、体にかけるとぐにゃぐにゃになる不思議な「お土砂」を委細構わずにかけまわる。「肩の力を抜いて見ていただける喜劇です」
9月2日から26日まで。問い合わせは03・5565・6000へ。
毎日新聞 2009年8月31日 東京夕刊