【シリーズ現場】改正銃刀法 実用ナイフも規制 カキ養殖業者ら困惑2009年7月3日
5日から罰則を適用36人が60本 県警に提出ダガーナイフなど、両刃で先のとがった刃物を規制する改正銃刀法の施行から間もなく半年。五日からは罰則規定が適用され、「殺傷能力の高い刃物を禁じ、犯罪を防ぐ」ことを狙う。また、カキ貝の殻むきやダイバー用といった形の似た実用ナイフも規制の対象になるだけに、カキ養殖業者らは「使い慣れていたのに…」と頭を抱えている。(中村文人) 「急にだめと言われ、どうすればいいのか」。カキを養殖する県漁協七尾西湾支所の運営委員長、瀬上毅さん(72)は戸惑う。 殻をむく「むきこ」と呼ばれる人たちは、先端が鋭く、両刃で長さ約八センチ、幅約二・五センチのナイフを好んで使う。貝柱の位置が分かりやすく、差し込んで斜めに傾けると殻を素早く外せるからだ。ところが、このナイフの形が改正法の禁じる“刃物”に当てはまった。 組合の指示で瀬上さんは六月十日ごろ、七尾署に四種類のカキの殻むきナイフを提出した。二十日後、七尾署から「改正法に抵触するナイフが一種類ある」と返事が来た。瀬上さんは「早く対応しないと処罰される」と焦る。 慣れないナイフで、殻をむくスピードが遅くなることも考えられる。それでも、瀬上さんは「使いにくいが、先端を丸くするか長さを短くしたナイフを使うしかない」と肩を落とし、「改正のときに、私たちの意見をもう少し聞いてほしかった」と嘆いた。
改正はダイバーにも影響している。サンゴ礁や海流の速い場所では、先のとがったナイフを岩のすき間に差し込んで体を支える。サンゴや体を守るためだが、このナイフで両刃のものが禁止になった。 野々市町でダイビングショップを経営する森山知明さん(48)は「いざという時に使いにくいなど支障がある。自分の店では規制対象の商品は扱っていなかった。今後も誤解を避けるため鋭くとがっていないナイフを主に使っていく」と話す。 ◇ ◇ 改正法の施行以降、半年間は罰則の適用が猶予された。県警はこの間にナイフの提出を呼び掛け、二日までに三十六人から六十本が集まった。回収に応じたのは、ダイバーや漁業関係者が中心という。県警は「殺傷目的で、人体に甚大なダメージを与えうる刃物が、犯罪に使われている」と訴え、提出に応じるよう呼び掛けている。 一方、金沢大の振津隆行教授(59)=刑法学=は、カキ業者など個々の事情にかかわらず、規制することに疑問を感じている。「無差別殺傷事件などが起きて、過剰反応している側面もある。例外規定をもっと考えるべきではないか」と話す。 ◇改正銃刀法◇ 昨年6月、ダガーナイフなどで17人を殺傷した東京・秋葉原の無差別殺傷事件などをきっかけに成立。1月5日施行。刃渡り5・5センチ以上▽左右が均整▽両刃▽先端が鋭い−の特徴を持つ刃物を「剣」として、原則所持を禁止した。違反すると、所持の場合は3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる。
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