宮川光治氏(08年9月就任。67歳)=最高裁提供
(1)最終審であることの重さと法の発展に寄与するという役割を自覚し、事件に真摯(しんし)に取り組み、分かりやすい論理と言葉で、判断を示したい。
(2)権利の的確・迅速な救済と実現、そのことを通して法の支配を確立すること。
(3)広い視野、多様な思考力、自省力(悩む力)、そして自由な精神。出身母体や出身別の割合はいまより少し流動的でよい。
(4)弁護士としてのこれまでの人生を含め、法曹人として、そして人として、信頼できるかどうか。
(5)現行の方式は、国民審査がリコール(解職)制であり、罷免を可とする投票の多寡を知る制度であることに相応している。的確な判断ができるよう、裁判官についての情報開示の充実により努めることが大切である。
(6)十分であるとはいえない。裁判員制度の実施に向けての活動で変化がみられるが、最高裁は国民に向けて明確な情報を発信し、個々の裁判官も顔(個性)が見える努力が必要である。
(7)裁判官・検察官・弁護士がそのマインドとスキルをわかりやすく発揮し、裁判員の市民常識と感覚が存分に表れるということが鍵である。職業人と市民の対話・協働は、新しい司法を創造すると思う。日本ほど、司法への市民参加が成功する条件がそろっている国はないと考えているので、危惧(きぐ)や不安は抱いていない。
(8)最近の内閣府の調査では、7割を超える人が参加意向を示している。若い人ほど参加意欲は高く、20代では87%という。陪審制度が根づいている各国における参加意欲関連の調査と比較しても、高いデータである。今後、裁判員裁判の運営状況についての情報がひろがれば、参加意欲はより高まっていくものと思う。
(9)刑の執行の実情について、理解を深めてほしい。裁判員裁判では、裁判官によるこれまでの量刑より幅はやや広まる可能性がある。それ以上に変化するとは考えられない。
(10)いわゆる永山基準の大枠を外れた判断がされるとは考えない。
(11)裁判員制度がわが国社会に定着していくように、大きな目で、見守るような報道をお願いしたい。
(12)裁判官としては、真にやむをえないかどうかを慎重に考え、判断していく。立法政策としては、わが国社会の今後の在り方、国際社会の状況等をも踏まえた議論が行われることを望みたい。終身刑の創設に関しては、無期懲役刑の実際の運用状況等を踏まえた検討がされるべきである。
(13)裁判の迅速化は、すでに世界的水準に達している。拙速を排し、じっくり両当事者が論戦し、裁判官も時間をかけて思考することが、必要な事件が存在する。
(14)最高裁は、具体的訴訟の解決に必要な限りでのみ憲法判断を行うのであるが、違憲判断が必要な場合はこれを回避すべきではないと考える。憲法裁判所の創設に関する議論はいまだ成熟していない。
(15)裁判の独立に十分配慮した上で、科学的証拠の評価の在り方等について、司法研修所のような機関で、検討することが必要と思う。
(16)その方向に向けて、現実は動きつつあると理解している。それ以上の回答は控える。
(17)人生を賭して公益的活動をしている人たちを尊敬している。一人だけ挙げるというのは、難しい。
(18)映画館での映画鑑賞と世界文学を読むこと。藤沢周平の全作品を読むことに挑戦している。自戒の言葉「精神のない専門人、心情のない享楽人」(ウェーバー)。
(19)高橋一彦『帝政ロシア司法制度史研究』、一世紀半前のロシア司法改革の動態、実に興味深い。山崎豊子『運命の人』、衰えなき力業に感嘆。藤沢周平『海坂藩大全』、また会った、せつなくいとおしい群像。ヘミングウェイ『武器よさらば』、新訳で5度目、またしても新しい。
(20)中国残留婦人の国家賠償請求事件。上告棄却・不受理決定で終わった事件であるが、国家と司法の在り方を考えさせられた。
(21)時間の管理。激務ではあっても、日々を愉(たの)しむ心を持ち、趣味のための時間をわずかでも残す。
(22)回答を控える。