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《最高裁国民審査アンケート》那須弘平氏

2009年8月24日0時10分

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写真那須弘平氏(06年5月就任。67歳)=最高裁提供

 (1)中立、公正な立場で憲法及び法律に従って判断する。それでも結論が出ないときは裁判官の「良心」を最後のよりどころとして決断することになる。決断のしどころが難しい。

 (2)当事者の声に真摯(しんし)に耳を傾け、迅速適切に事件を解決すること。地裁・高裁レベルでも、必要があれば憲法問題に踏み込む積極的な姿勢が期待されているのではないか。

 (3)憲法と法の趣旨等を念頭に置きながら大局的な判断をできる資質が必要。出身母体からの推薦プロセスを考慮すれば、現行選任方法にも一定の合理性がある。大切なのは、憲法及び裁判所法の理念に沿った適切な人選がされること。

 (4)まずは、「関与した主要な裁判」の内容を見て判断してもらいたい。それで足りなければ「心構え」等も参考になるはず。最高裁ホームページにも関連情報が載っている。

 (5)現に国民審査を受ける立場であり、立法にわたる事柄もあるので、回答を遠慮したい。

 (6)最高裁からの情報は判決・決定の中に濃縮して込められている。これをメディアが適時・適切に報道することで、国民のチェックも可能になる。裁判官が個別事件でインタビューに応じるのは守秘義務との関係で難しい。裁判官会議の決定事項のうち重要なものについては、その都度、公表されているはず。

 (7)裁判員制度は、日本の司法を大きく変える力を秘めている。裁判という作業には、専門家である裁判官でなくてはできないこともあるが、裁判員が素朴な市民感覚を働かすことでより適切な判断が可能な部分もある。両者が協働し、率直な意見を交換しあうことにより、高い次元の正義が実現されることを期待する。

 (8)参加をためらう国民の中にも、もし裁判員候補者に指名されれば、国民の義務として責任を果たす覚悟を固めている人々が少なからずいるはずだ。重要なのは、裁判員経験者の中で、「やってみてよかった」という意見が多数を占めること。そのためにも裁判所は制度の運用改善に努める責務を負う。

 (9)市民の健全な感覚を発揮して適切と思われる量刑判断をしてほしい。これまでの量刑基準と多少離れることがあってもやむを得ない。最終的には、裁判官と裁判員が自由に意見を交換しあって調整すべきこと。

 (10)一時的に永山基準の適用に揺らぎが生じることもあり得るが、死刑という判断の重さを考えれば、同基準が適切であることは裁判員にも理解してもらえるはず。そのためにも評議における裁判官と裁判員の自由かつ真摯な意見交換が欠かせない。

 (11)裁判員及びその背後に存在する国民がメディアの事件報道から直接間接に受ける影響の大きさを考慮し、これまで以上に客観的で公正な報道を心がけて欲しい。報道関係の各種団体が自主的な指針を公表していることは高く評価でき、期待している。

 (12)死刑廃止や終身刑創設問題については国民の意見の定まるのを待つほかない。裁判官としては、死刑事件についても、現行法・判例に従って粛々と審理を進めることに尽きる。究極の人権問題を含むから、冤罪を生じさせないように自戒し、刑の選択についても格別の慎重さをもって臨んでいる。

 (13)迅速な裁判は司法運営の要。民事裁判は、集中証拠調べの採用等により、この10年間で格段に改善された。刑事裁判については、裁判員裁判の導入でこれまで以上に迅速化が期待できる。事件への社会の関心が失われないうちに結論を示すことが肝要で、「わかりやすさ」「使いよさ」の実現にもつながる。そのためにも、法曹三者の緊密な協力が必要。

 (14)違憲審査権の行使につき、先般の外国人婚外子国籍事件をはじめとして最高裁の姿勢に変化が生じているという指摘も出始めている。最高裁が憲法の番人として審査権を発動させるのは当然の責務。違憲審査の方法については、最高裁で個別事件の処理を通じて具体的に違憲審査を行う現行方式の方により親近感を覚える。

 (15)再審開始決定があった「足利事件」については、現在進行形の事件であり、意見は差し控えたい。一般論として、重大な誤判事件について「検証」が必要な場合もあろうが、「裁判官の独立」とのかねあいをどうするかという視点からの慎重な配慮を欠かせない。

 (16)裁判員裁判の円滑な運用のために、自白をどう位置づけてどう取り扱うかは極めて重要な問題だと考える。これとの関係で「取り調べの全面可視化」が問題となっていることは承知しているが、立法に係る微妙な問題なので、現時点での具体的な意見は差し控えたい。

 (17)福沢諭吉。近代日本の精神の世界を切り拓(ひら)いた第一人者である。

 (18)趣味は弓道。ゴルフ少々。他に神社仏閣巡り、散歩等。最近「守拙求真」という言葉があることを知り、妙に印象に残っている。

 (19)J・グレイ『自由主義の二つの顔―価値多元主義と共生の政治哲学』(ミネルヴァ書房)。結論の当否は別として、議論自体が刺激的で面白い。日本の憲法を考えるにも有益。粕谷一希『反時代的思索者―唐木順三とその周辺』(藤原書店)。表題の面白さにひかれて購入。高名な評論家が信州人特有の気風を背負って生きたことに同郷人として感じるところあり。「京都学派」との関連性にもうなずけるものがあった。

 (20)国民審査公報には関与した事件として「君が代ピアノ伴奏拒否」「メイプルソープ写真集輸入」「ヤミ金融損害賠償」などを挙げたが、やはり「外国人婚外子国籍」事件(大法廷)が一番。広範な論点について、深く掘り下げた議論がなされ、結果についても国民・メディアから好意的な反応があったように思う。

 (21)最高裁の仕事は激務だが、リズム感のある生活ができる。「その日の仕事はその日のうちに処理し、余計なことでは悩まない」ことをモットーにして、できるだけ身体を動かして、週末にはウオーキングで汗を流すように心がけている。理屈どおりに実践できないのが悩みの種。

 (22)最高裁に身を置いてみて、過去の最高裁判決や決定がそれぞれの場面でそれぞれに重要な判断をしてきたということをしみじみと感じる。それだけに、どれが重要、どれが役割を果たしたなどと、一口に論評することは難しい。裁判官の個別意見についても同様。

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