涌井紀夫(06年10月就任。67歳)=最高裁提供
(1)多忙で骨の折れる仕事ではあるが、最終審の裁判を担当するという職責の重大性を常に念頭において、一件一件の事件に真剣に取り組んでいきたい。
(2)各種の紛争について、客観的な正当性を持った法というものにのっとって、真に信頼できる解決を図ってくれるということであろう。
(3)各種の裁判について、常に公正、公平な立場から的確な判断を下していくことが求められる。国民の信任が得られるように努力していきたい。
(4)裁判という仕事に対する姿勢、裁判官としての資質、能力といったものを、正面から評価、判断してもらえればありがたい。
(5)国民が裁判官を直接選ぶのではなく、内閣が選んだ裁判官のうち辞めてもらいたい人を選ぶという制度であるから、現行の方式になっているのであろう。
(6)まず何より、最高裁の行う裁判の内容を広く国民に理解してもらうことが肝要。そのために、報道機関側での工夫等にも、期待するところが大きい。
(7)これまで分かってもらえなかった我が国の刑事裁判の真の姿を広く国民に理解してもらい、より国民に信頼される刑事裁判が実現されることを期待。
(8)進んでというわけでないにせよ、国民全体の少なくとも7割が参加の方向に向いてくれるようになっていることを、心強く思っている。
(9)裁判員が参加することによって、量刑判断が多くの国民の意識等をよりよく反映したものになるはず。これまでの相場等にとらわれることなく、率直な意見を遠慮なく述べてもらいたい。
(10)死刑の宣告基準も、これから裁判員の参加する個々の事件で、率直な評議を積み重ねる中で、形成されていくこととなろう。
(11)制度の健全な運用を実現するという大きな目的のために、事件報道や裁判報道の在り方について、それなりに自制や謙抑の方向を是非考えてもらいたい。
(12)国民全体の意見を無視しては方向等をどうすべきか、決められない問題。どのような方向がいいのか、国民全体で真剣に考えてもらうことが必要。
(13)関係者全体の意識改革が進んできて成果を上げてきている。さらに力を合わせて、この努力をたゆみなく継続していくことが肝要。
(14)必要とされるときには、最高裁が違憲立法審査権を発動して国民の権利の具体的な救済を図ることをためらうものでないことは、非嫡出子の国籍取得に関する08年6月の大法廷判決等で理解してもらえよう。
(15)裁判及び裁判官の独立に対する配慮は必要であるが、一般にどのような原因で誤判が生ずることになるのかという視点から、調査、研究を行うことは必要。裁判官の研究会、裁判官による調査、研究といった方法が考えられよう。
(16)全面可視化を制度として採用するかどうかは別として、自白の任意性、信用性を判断するについて、具体的な取り調べの状況を明らかにする客観的な資料が欲しいと思われるケースがあることは、否定できないところ。
(17)長年裁判の仕事に従事してくる中で、心から尊敬することのできる先輩や同僚の法曹に数多く出会うことができたことを、幸せなことと思っている。
(18)趣味は、プロ野球(幼時からのタイガースファン)を始めとするスポーツ観戦、鉄道旅行など。好きな語は、論語の「思うて学ばざればすなわち殆(あやう)し」。
(19)ジョン・グリシャムの「インノセント・マン」「アピール」といった近作。国民との距離が近いとされるアメリカの裁判制度が抱えている深刻な問題に、改めて衝撃を受けた。
(20)非嫡出子の国籍取得に関する08年6月の大法廷判決事件。違憲立法審査権の行使方法等について、各裁判官の間で徹底的な議論が行われた。
(21)法律家として大いにやりがいのある仕事である。事件にこめられた当事者の思いというものを真摯(しんし)に受け止めて、事件に取り組んでいきたい。
(22)就業規則の不利益変更の効力について判断した1968年12月の最高裁大法廷判決。深刻な見解の対立があり、立法による解決も困難な状況にあった問題について、将来にわたって問題解決の基準となるような考え方を判示。