現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. ビジネス・経済
  4. ロイターニュース
  5. 記事

民主の高速道路無料化、参院選での勢力拡大が実現の鍵

2009年8月28日19時15分

 [東京 28日 ロイター] 民主党が国内メディアで伝えられる通り30日投開票の総選挙で過半数を獲得したとしても、同党が看板政策として掲げる高速道路の無料化が実現するには、来年7月の参院選での勢力拡張が焦点になりそうだ。

 最近の国政選挙では与野党のどちらか一方に振れる傾向があり、来年の参院選ではその揺り戻しの可能性もある。ただ、その自民党も地方票獲得の態勢立て直しが遅れていると指摘されている。

 高速道路の無料化は、民主党が2003年の総選挙から打ち出している同党の看板政策。今年3月に取りまとめた高速道路の無料化実現に向けた大綱では「高速道路会社6社が管理する高速道路は原則として無料とする」とし、「実際の無料化にあたっては、首都高速・阪神高速など渋滞が想定される路線・区間などについては交通需要管理(TDM)の観点から社会実験(5割引、7割引等)を実施して影響を確認しつつ、実施する」との方針だ。

 注目されるのは、無料化による財政負担だ。民主党の大綱によると、「保有機構が抱える債務35兆円は無料化開始時点で国が承継する」という。承継債務を順次国債に乗り換え、その後は国債償還の一般ルールである60年償還ルールに基づき償還する。毎年度承継額の1.6%を一般会計から国債整理基金特会に繰り入れる。金利負担を考えると、債務承継による国の財政負担を年間1.26兆円としている。

 日本高速道路保有・債務返済機構や民主党政策班によると、無料化実現には現行の道路特別措置法や道路公団等民営化施行法をはじめ複数の法律を改正する必要がある。現行法の枠組みでも暫定的な無料化は不可能ではないが「恒久的に無料化を目指すなら法改正が必要になる」(民主党政策班)という。市場関係者の間では、「債務が国債として承継されるとの方向性は、クレジットの観点からポジティブ」だが「時期やスキームなどの詳細が固まっていないことなどを踏まえると、現時点でクレジットの影響を分析するのは時期尚早」(日興シティグループ証券の江夏あかね氏)といい、新内閣が発足してから徐々に評価される見通しだ。

 民主党は無料化のメリットとして「物流コストの低下などを通じ、家計の消費増や企業の設備投資・賃金引き上げなどに波及すれば、内需拡大につながる」としている。法制化のスケジュールといった詳細のほか、法制化に向け官僚の協力をどのように得ていくかなど「課題は多い」(格付会社)と指摘される。民主党のマニフェストには法改正を必要とするものが複数みられるが、高速道路無料化はその代表的な例だ。

 30日投開票の総選挙では民主党優勢が報じられているが、参院は8月27日現在、総定数242議席に対し民主党・新緑風会、国民新党、新党日本で会派を結成しても117議席で過半数に達しない。高速道路無料化を政権公約に盛り込む国民新党との連立体制でも過半数を超える勢力に拡大できず、参院で法案が否決されても衆院で再可決するためには、30日の総選挙で3分の2以上を獲得する必要がある。

 最近実施された国政選挙では、2005年9月の郵政解散で自民・公明の与党が圧勝した後、2007年7月の参院選では大きく議席を失い、民主党の大躍進を許すなど「振れ」が大きくなる可能性が指摘される。しかし、早稲田大学政経学部の田中愛治教授は、2005年の総選挙について「小泉純一郎元首相が率いる自民党が都市票と地方票、さらには無党派層を取り込んだ。都市票と地方票は改革に対する考え方が正反対で、両方を取り込んだのは小泉元首相の離れ業」と指摘する。

 現在の自民党は都市票、地方票のどちらも失っている状況とみられている。田中教授は、構造改革で失った地方票を引き戻して党勢を回復させるのが急務としながらも「次の参院選までに間に合うかは疑問だ。仮に民主党が30日の総選挙で圧勝しても、その揺り戻しは起こりにくい」との見方を示す。

 落選中の自民党前参院議員は振り子が大きく振れる現象について、「2007年の参院選で負けた後、振り子をこちら側に引き戻す政策を自民党は打ち出すことができていない」としたうえで、地方票を獲得する構造は「相当に傷んでいる。小泉元首相が自民党をぶっ壊すと言っていた通り、本当にぶっ壊れた」と述べている。今後のポイントとして、民主党が財政再建の転換について舵取りを誤るとか、来年度予算の成立に遅れが生じるなどの失策があるのかどうかに注目する。田中教授は揺り戻しが起きる条件として、民主党の失策に加え、地方票獲得態勢の立て直し、もしくは英雄的な議員の出現しかないとみている。

 (ロイター日本語ニュース 吉池 威記者 編集 橋本浩)

ロイタージャパン ロゴ
ロイタージャパン

PR情報
検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内