イタリアの記事は見出しや比喩(ひゆ)がうまい。日本の選挙を報じるマニフェスト紙の見出しは「さよなら、黄色い鯨」だ。自民党を指している。影響力のある週刊誌レスプレッソも「戦後日本を支配してきた黄色い鯨」と伝える。ドヤ街から軽井沢、北海道を舞台に、年金問題や自殺の多さ、経済規模で中国に追い抜かれる低迷ぶりを書いている。
「黄色い鯨」は自民党が一時、政権を追われた93年の新聞記事でも使われており、決まり文句のようだ。語源は、47年から93年までイタリアを支配した中道右派政党、キリスト教民主党の呼び名「白鯨」から来ている。米国のメルビルの小説「白鯨」をヒントに、善も悪も右も左もすべてのみ込む巨大なシステム、という意味で左派が好んで使った。白には共産党の象徴、赤の逆という意味もある。
政治好きのイタリア人が「黄色い鯨」と聞けば、「黄色は東洋人。日本の白鯨か」とピンとくる。日本を「アメリカの忠実な子分」、民主党を「元は黄色い鯨」、鳩山由紀夫代表を「麻生首相と同じ戦前からの政治王宮の出」、鳩山一家を「落ち目のケネディ一家」と書くイタリア記者のたとえは、侮辱的かどうかは別にして、わかりやすい。
イタリアでは「白鯨」が93年の敗北で分裂、解党し、その後15年にわたる政界再編でいまの2大政党に落ち着いた。鯨の腹にモリを突いた一人が、ビジネス界出身のベルルスコーニ首相だった。政界から旧来の政治エリートはほぼ消え、今は元ファシスト党員、分離独立主義者、元判事らが毒舌で首相と人気を競い合う。
日本にもいずれ、「鯨」や「王宮」が消え、在野のカリスマが政権を握る日が来るのだろうか。
毎日新聞 2009年8月30日 0時03分
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