全日本剣道連盟は外国に指導者を派遣するなど、積極的に国際化を進めてきた。ただ、目指すのは日本に軸足を置いた「国際的な発展」と表現し、同連盟の井上茂明常任理事は「剣道の質を変えてまで普及を望んでいない。良い剣道を広めたい。だから、剣道は五輪競技となることを目指さない」と言う。
井上常任理事は「力、スピードを重視した剣道が見受けられるが、力で勝つだけではスポーツとしての剣道になってしまう。正しい技や間合いの取り方、心構えを学んでほしい」と話す。日本が優勝を決めた03年の第12回大会では、整列している日本の選手に向かって対戦相手の韓国の関係者から異議申し立て用の旗が投げつけられるなど、マナーの点でも日本のトップレベルの試合では見られない場面があったという。
剣道が五輪を目指さない理由の一つは、外国の意見が大きくなれば武道の枠を外れてしまう懸念が大きいからだ。全剣連の試合審判規則によると、面、小手、胴、突きの打突の部位に当たっただけでは一本とならない。充実した気勢と適正な姿勢で、竹刀の打突部位は刃筋が正しく、残心(打った後まで気持ちを緩めない)を取るという条件がそろって有効打突となる。
間違った方向に国際化が進めば、剣道としてこれまで守ってきた一本の要素が崩れてしまう。例えば、打突が不十分でも柔道の「有効」のようなポイント制を求めるケースも想定される。
97年の第10回大会から3度の世界選手権に出場し、第12回大会で主将を務め、現在は警視庁で剣道指導室のコーチを務めている平尾泰さん(42)は「剣道はスポーツでありながら、武道の枠組みを持っている。スポーツはルールの中でいかに勝てるかを考えて戦うが、武道はルールの基本にできるだけ忠実に戦おうとする。本質的な武道の特性を見失わないでほしい」と話す。
平尾さんが対戦した時から韓国のレベルは高く、何度も日本と決勝戦で接戦を演じたが、徐々に欧米も力をつけ、日本との差が縮まってきたという。「レベルの差は縮まっていても勝って当たり前と思われる。これほど、苦しいものはない。ただ、日本が勝たないと主導権は取れない。剣道の本質、模範を示して勝って世界の剣道界のリーダーとして維持していかないといけない」と話す。【中村有花】=毎週土曜日に掲載
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毎日新聞 2009年8月22日 東京朝刊
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