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【社会】

『ゲンは被爆の生き証人』 米国の読者惨劇に衝撃

2009年8月30日 朝刊

英語版「はだしのゲン」を前に握手する作者の中沢啓治さん(右)と翻訳者=広島市で

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 広島での被爆体験を基に漫画家中沢啓治さん(70)が描いたベストセラー漫画「はだしのゲン」は全十巻の英訳版が完成、ほかにも十数カ国語に翻訳され、世界各国で幅広く読まれ始めている。「ゲンは核兵器の恐ろしさを伝える生き証人だ」。米国で読んだ人々は、初めて知る被爆者の苦難に衝撃を受けているようだ。

 ニュージャージー州で夫と保険代理業を営むメリー・キャロルさん(50)は漫画を読んで、がくぜんとした。「学校では日本の一般市民の苦しみは何一つ学んでこなかった」からだ。「われわれ米国人は、恐るべき核の破壊力を教えられていない。ヒロシマ、ナガサキの惨劇がまた繰り返されるかも、と思うと恐ろしい」

 米国での出版を引き受けたサンフランシスコの出版社ラスト・ギャスプによると、最近は「はだしのゲン」を教材に取り入れる高校や大学が出てきた。

 サンフランシスコ郊外にあるディアブロ・バレー・カレッジ英語学部のアダム・ベッシー助教授(29)は教材で取り上げた一人だ。「ゲンは被爆体験を世代や文化を超えて伝える力を持っている。学生はゲンに触発され、さまざまな社会や政治の問題を深く考えるようになった」。ベッシー助教授のクラスを受講した大学生キール・パウエルさん(24)は「原爆の熱線で溶けた人の顔を漫画で初めて見て、あまりのショックで口を閉じるのも忘れてしまった。敗戦国の人たちが負った心の傷を、これまで考えもしなかった」と語る。

 作者の中沢さんは「まずは米国でしっかり読まれてほしい。オバマ大統領にも娘さんたちと一緒にぜひ読んでもらいたい」と話している。

 

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