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衆院選の投票日を迎えた。
若い世代にとりわけ大きな意味を持つ選挙である。
ここ十数年、国政選挙での20代の投票率は3割台で低迷してきた。「小泉劇場」といわれた05年の衆院選こそ4割を超えたが、年代別でみると、やはり最低だった。
若者人口そのものが減っているので、投票総数に占める若者票の割合はいっそう細る。2年前の参院選で20、30代が投じた票は全体の2割余りで、60代以上の半分にすぎない。
「選挙なんかで、どうせ何も変わらない」と、多くの若者が政治に背を向けている間に、何が起きたか。
雇用の流動化で急増した非正社員の多くは若い世代だった。世界同時不況の波をまともにかぶって職を失ったのもそうだ。なのに住宅支援や職業訓練などの安全網は穴だらけ。はい上がる手がかりがなかなかつかめない。
日本社会のいろいろなしわ寄せが、若者たちに押し寄せている。後期高齢者医療制度をめぐる論争は、世代間の負担をめぐる問題をあらわにした。
増えてゆくお年寄りの社会保障を、少ない現役世代が支えなければならない。景気対策も加わって国の借金は膨らみ、ツケは将来の世代に回ってくる。若者の未来がかかっているのだ。
時代を覆う重たい閉塞(へいそく)感の中で、結婚や出産をためらう人が増えている。自ら命を絶った10〜30代の人が昨年、増加したことも気がかりだ。
前の世代が敷いたレールに乗っていればよかった時代は、とうに過ぎた。日本はあらゆるシステムを作り直さなければならないところまで来ている。
どんな未来を目指すのか、世代間の利害を調和させ、負担をどう分かち合うのか。誰よりも切迫感を持って考えられるのは若者だろう。政治が決めることの影響を最も長く受ける世代の声が、政策決定の過程にもっと反映されるべきだ。
そんな思いを共有する若者が動き始めているのは、心強い。メールなどを通じて20代の投票率向上を呼びかける大学生グループ「ivote(アイヴォート)」の原田謙介さん(23)は、「政治にモノを言いたい同世代は増えている。20代の少なくとも過半数が投票に行くようにしたい」と話す。
政権公約には数々の施策が並ぶ。その実行には、私たちの負担が伴うことを忘れてはならない。
あすからは、自分たちが選んだ政治家に任せきりにせず、監視し、注文をつけ、次の選択に向けて見る目を磨き続けよう。それこそが、政治を引き受けるということだ。
期日前投票の列の中に多くの若者の姿を見た。若者が大挙してきょう、投票所にやってくる。そんな光景を思い描く。
世界同時不況の発端となった「リーマン・ショック」から1年近くたつが、その余波はいまなお日本列島を覆っている。
衝撃の第一波は生産と輸出の縮小だった。それらがともかく下げ止まったいまも、止まらないのが雇用の悪化だ。7月の完全失業率は過去最悪の5.7%を記録した。失業者は前年同月比で103万人も増えた。この半年で1.6ポイント、1カ月で0.3ポイントという予想を超える急激なペースだ。
今春の経済危機対策で「失業率を5.5%以下に抑える」としていた政府の阻止線は突破されてしまった。
しかも、内閣府の推計では、企業内の余剰人員は600万人にのぼる。このため失業率は6%台にのるとの見方が民間エコノミストの間では有力だ。
深刻なのは、家計の担い手の失業が広がっていることだ。完全失業者360万人のうち単身を除く世帯主は、90万人で、4分の1を占める。前年同月より3割も増えた。
正社員で職を失う人も増えている。雇用の先行きを左右する有効求人倍率でも正社員は0.24倍で、全体を大きく下回っている。
雇用と並んで衝撃を広げているのは、物価の下落と消費の不振だ。生鮮品を除く7月の消費者物価指数は前年同月比で2.2%も下落し、過去最大の落ち込みだった。小売りの一線では、モノが売れないので値下げが値下げを呼ぶ競争が広がっている。
7月の家計調査では消費支出が前年同月比2%減少した。環境車への補助金や家電でのエコポイント効果で横ばいできたが、夏のボーナスの不振や、天候不順に直撃されたかたちだ。
このままでは、失業の増加が個人消費を低迷させ、物価の下落を招いて企業収益をさらに悪くし、それがまた投資や雇用の削減を生む、というデフレの悪循環に陥りかねない。
政府の雇用調整助成金は250万人の雇用を支え、失業者が増えるのを抑えている。それでもこの惨状だ。社会に出ようとする若者たちは、厳しい就職難にあえいでいる。
失業に陥る人々を救う当面の措置と同時に、なんとしても、雇用増につながる新しい産業を育て、需要を作り出さねばならない。
たとえば、高齢社会の柱となりつつある医療・福祉の分野では人手不足が目立つ。とくに介護事業では、給料が安いために職員が定着しにくい。職員の給料を引き上げるために、新たな税金の投入や介護保険料の引き上げといった思い切った政策を打ち出す政治の決断が欠かせない。
雇用と産業の創出は短期間にはできない。だからこそ、きょうの審判で生まれる政権は、そのための本格的な戦略を、早急に練る責任がある。