何かある。修羅場をくぐりぬけてきた本能がそう告げているのに、わからぬ。ラヒクコイホメイホミ…いくら唱えてもただの音だ。チッ。私はイライラしていたずらに音を繰り返すのみだった。ラヒラヒラヒラヒラ…ん、ヒラ?…ムン!そうか! 

 一瞬にして肉色の脳細胞は全てを理解した。これは暗号だ。一般人にはピンとこないだろうが、ビスコのラヒは「ヒラ=平」、コロンのクコイは「イコク=異国」、アーモンドクラッシュポッキーマイルドショコラのホミは「ミホ=美穂」、メンズポッキーのホメイは「イメホ=イメージホテル」を指しているのだ(一般人にはピンとこないだろうが、イメージホテルとはイメクラのホテル版である)。

 すなわちその意味は「このまま働いてても万年ヒラ社員か。どうせなら異国に高飛びしてイメージホテルでも経営してみっか。ミポリンが一緒なら最高だなフフ」である。一般人にはピンとこないだろうが、それ以外は考えられない(ミホが美保純である可能性はある)。だがそれがどうしたというのだろう。高飛び、中山美穂、イメホ…つぶやいた私の頭に閃光がひらめいた。

 これはかなり屈折した犯行予告だ。中山美穂を誘拐して外国に高飛びし、イメクラ嬢みたいなことをやらせようというのだ。わざわざこんな手のこんだ仕

掛けで宣言するとはなんたる不敵さ。悪党め。させるか! 義憤に燃えるタイプの私は、締切も忘れ、ついにグリコ広報部へのダイヤルを回した。(つづく)


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