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【レポート】

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』のプラグスーツ&使徒の謎を公開!? - Apple Storeで『ヱヴァ』デザイナーがトーク

2009/08/30

野口智弘

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8月22日、東京・銀座のApple Store Ginzaにて、トークイベント「ヱヴァンゲリヲン新劇場版とデザインの関わり」が行われた。このイベントは、現在上映中のアニメ映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破(以下『破』)』と、その前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序(以下『序』)』を題材に、プラグスーツや使徒など、両作品のデザインを参加スタッフ自らが語るというものだ。

会場となったApple Store Ginzaのシアターには学生を中心に180名以上が来場。多数の立ち見も出る盛況なイベントとなった

ステージには『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の監督を務める鶴巻和哉氏、デザインワークスとして参加したokama氏とコヤマシゲト氏、さらにはシークレットゲストとして、主・キャラクターデザインを務めた貞本義行氏が駆けつけ、四者によって『新劇場版』におけるデザインの制作過程が振り返られた。本記事ではその貴重なトークのなかから、ハイライトシーンを抜粋。スタッフのコメントと合わせて紹介していきたい。

『新劇場版』から、デザインワークスとして参加しているコヤマシゲト氏(左)とokama氏(右)。雑誌『Mac Fan』8月号の表紙用に、コヤマ氏がレイとアスカのイラストを描き下ろしたことから今回のイベントが実現した

『新劇場版』監督の鶴巻和哉氏(左)と、主・キャラクターデザインの貞本義行氏(右)。鶴巻氏と貞本氏は1995年のテレビシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』から一貫して中核スタッフとして関わり続けている

まずは『序』のokama氏による美術設定より、セントラルドグマのエレベーター空間。「もともと樋口(真嗣)さんの、絵の具を垂らしたような絵があったんですよね」(okama)「庵野さんがすごい気に入って『このままやってくれ』という感じでしたね」(鶴巻)

同じく『序』よりokama氏が手がけたセントラルドグマ内の通路。「これは庵野さんからの発注が難しくて『人間が作ったものではないものに人間が穴を開けて足場を作った感じ』というオーダーでした」(鶴巻)

こちらも『序』よりokama氏によるリリスのデザイン案。「胸の解剖跡をokamaさんは碁盤の目のように解釈してくれたんだけど、最終的には縫い目のようなデザインになりました。それでもデザイナーさんが絵にアイデアを入れてくれるのはうれしいですね」(鶴巻)

変わってこちらは『破』より貞本氏によるマリのプラグスーツ。「赤いバイザーは仮面ライダーとよく言われるんだけど(『宇宙戦艦ヤマト』の)ガミラスのヘルメットです。庵野さんから『エロく』と言われたんで、後ろから胸を触られてるようなデザインですね(笑)」(貞本)

同じく『破』より貞本氏がデザインしたマリの新プラグスーツ。最新型という設定を受け、シンジやレイのプラグスーツよりもエッジを強調。シャープながらも刺々しくないデザインは、iPodやハイブリッドカーなどの最新モデルに共通した要素で、貞本氏はそうした産業デザインのトレンドを意識したとか

今回衝撃の一枚、それがこの庵野総監督によるアスカの新プラグスーツの直筆メモ! 「『いやらしく』って書いてある(笑)」(貞本)、「今回の庵野さんは総監督であると同時にお金を出してる人でもあるわけ。だから『売れるように』というね(笑)」(鶴巻)

そしてこちらが庵野総監督による、超高密度な兵装ビル設定。「庵野さん、メカだとこんなに描いてますからね(笑)」(コヤマ)、「すごい描いてるなあー!」(okama)、「こういうのだけで2カ月ぐらい使ってたんじゃないかなあ」(鶴巻)

先ほどの庵野総監督の直筆メモを受けてコヤマ氏が描いた、アスカの新プラグスーツ案。「最初はスクール水着&ニーソックスと考えたんですけど、まだ普通だなと思って、肌が見える部分を上に持ってきたんですよね」(コヤマ)

最終的にコヤマ氏のデザイン(左)を貞本氏がクリンナップ(右)。「アスカの『見えすぎじゃない?』というセリフはこのデザインを受けて変えました」(鶴巻)、「95%はいやらしい理由なんですけど、残りの5%はデータを取るために(ボディが)守られていない残酷なデザインということなんです」(コヤマ)

コヤマ氏は『破』では宇宙服もデザイン。また宇宙服が登場するシーンの原画も担当した。「なんか冬月のアゴが短かったらしくてコヤマさんが伸ばしたらしい」(okama)、「昔の劇場版のアゴみたいにね(笑)」(コヤマ)

同じく『破』の宇宙空間のシーンから。メカにこだわる庵野総監督が独特の宇宙船をデザインから原画まで担当。「『スペース1999』のイーグル号にも似てるけど、ディテールが全然違ってて、庵野さん曰くカンブリア紀の古代生物がモデルみたいですね」(鶴巻)

トークの後半では、使徒のデザインについても掘り下げられた。こちらはコヤマ氏による『破』の新使徒の頭部デザインラフ。おもちゃの水飲み鳥というアイデアを核としつつ、コヤマ氏と副監督の小松田大全氏が共同でデザインを行った

トラス構造のような新使徒の細長い手足は、建築家・黒川紀章が設計した、大阪万博の東芝IHI館がヒントとなった。「同じパーツがたくさん組み合わさっているのがCG向きでしたね」(鶴巻)

トークではこのほか、今回のイベントにあたって一般から募集した使徒とプラグスーツのデザインがスクリーンで紹介され、それについて壇上の4名が語り合うコーナーも。そして最後には、アニメやマンガなどのデザイナーを目指す若い参加者に向けて、4名それぞれからアドバイスが送られた。

■鶴巻和哉氏
「例えばさっきの万博の建物なんて、ああいうのを知っているだけでSF的アイデアの宝庫なんですよ。こういうのを詳しく知ってるだけでも全然違う。アニメやゲームのデザインをやるのであれば、アニメやゲームが好きなのは当然なわけ(笑)。なのでそことは関係ない、全然別のすごい好きなことがあるといいと思いますね。そこから引っ張ってきてる分には誰とも被らない。変な分野のオタクというか、『ここは俺しか知らない!』というのを持っているといいと思います」

■貞本義行氏
「キャラクターデザインの仕事はひとりでいろんなキャラクターを作らなきゃいけないんだけど、自分の好きなものだけじゃないよね。当然嫌いなものもデザインしなきゃいけない。『見るからに嫌な奴をデザインしてくれ』と言われても、普通の感覚だと嫌いなものって避けちゃうじゃないですか。でも自分が嫌いなものにこそ、自分が一番インパクトを感じるものがあると言うのかな。だからバランスの取れた自分の好きなものだけじゃなくて、嫌いな人やモノも避けずに、好奇心を持って分析する。そういう癖をつけておくといいと思いますね」

■okama氏
「僕がデザインするときは、見た人がドキドキするといいなと思ってて、それを見て映画館に見にいくようなデザインがいいなと思っています。『なにか新しい気がするな』という、それぐらいしか考えてないですね。見たことがないもので、みんなが好きそうなものを選んでいくと面白いかなと思います」

■コヤマシゲト氏
「アスカのプラグスーツもそうなんですけど、僕ひとりのアイデアではないし、アニメーションのデザインっていろんな人が意見をぶつけてどんどん変わっていくものなんですね。場合によっては監督の判断で『このデザインは合わないね』ということも発生してしまう。それって結構デザイナーにとってはストレスだったりするんだけど、それをストレスと感じちゃうと集団作業ができなくなっちゃう。ちょっとずつ変わっていくんだけど、それをいい方向に向けていこうとみんなが思っていないとカッコいいものにはならないと思うので、そこを意識して人の意見で自分の考え方が変わるという価値観を受け入れられると、かなりこういう業種に向いてると思います。他人と一緒にやれるということがアニメーションの面白さなんです」

今回のイベントにあたって一般から募集した使徒のデザインから。「使徒はコアをどう守るかがコンセプトなんで、コアがいっぱいあるというのも『こんな手もアリかなあ』とは思いますね。市松模様っぽい顔もちょっと面白い」(鶴巻)

同じくこちらも投稿されたプラグスーツのデザイン。「これはアスカの透明プラグスーツとコンセプトが似てますね」(鶴巻)、「這ってるセンサーが斜めになっていて、上半身が模様に見えるというのは発想の最初の段階としていいんじゃないかな」(貞本)

使徒とプラグスーツのデザインを両方投稿した人も。「使徒がビルの上に立ってるのが、すごい嫌な絵ですね(笑)。ノースリーブのプラグスーツもいいなと思うんだけど、プラグスーツのコンセプトからは外れちゃうんですよね」(鶴巻)

若い観衆にアドバイスを贈った鶴巻氏。「アニメは集団作業だから『言いたいことはあるけど黙っていよう』ということがあるかもしれないけど、言いたいことは言ったほうがいいと思う。でもそれで作品が作れない方向に行くのは間違い。いつも作品をよくしよう、完成させようという方向で発言するといいんじゃないかな」

語りどころの多い『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』だけに、デザインという切り口だけでも、あっと言う間に2時間以上が過ぎてしまった印象。貴重な設定画も使ったメイキング披露もあり、膨大な量のトライアンドエラーの積み重ねによって、今回の『新劇場版』が制作されていたことに、客席からは熱い眼差しが注がれていた。庵野秀明総監督のもと、テレビシリーズの『新世紀エヴァンゲリオン』を生み出した鶴巻氏と貞本氏、そして新たに『新劇場版』から関わった若手のokama氏とコヤマ氏。さらにそのつぎの世代を担うクリエイターが今回の客席や、本記事の読者から生まれてくることを期待したいところだ。


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