水野美紀さん　第２回　ＯＮ　「遊び心」を忘れない女優に

　映画やドラマ、舞台など幅広い分野で活躍する女優の水野美紀さん。７２年に梶芽衣子さん主演で話題を呼んだ映画「女囚７０１号　さそり」をリメークした「さそり」で、刑務所内での女囚同士の対決シーンなど体を張った激しいアクションに挑戦。香港での撮影は連日、夕方から深夜に及び、日本語、広東語、北京語、英語が飛び交い、肉体的にも精神的にも過酷な現場だったが、「現場の熱気やエネルギーがすごかった」と振り返る。【細田尚子】

　「さそり」で水野さんは、結婚を目前にして婚約者（ディラン・クォさん）の父親殺しの罪を着せられ、刑務所に入れられる主人公・松島ナミを演じた。ナミは所内で女囚同士のバトルに巻き込まれ、ひん死の状態で森に捨てられる。ナミを救い出した老人から過酷な訓練を受け、自分を陥れた者たちへの復讐（ふくしゅう）のために立ち上がる……というストーリー。

　水野さんは日本、ジョー・マ監督は香港、共演のクォさんは台湾出身と、せりふや現場のやりとりにさまざまな言葉が飛び交う中、水野さんは英語を駆使してコミュニケーションを取った。監督とは「通訳の方が間に入って一応やりとりはするんですけど、細かいところはお互いに片言の英語で話していました」と振り返る。しかも、香港の現場でよくあることだが、台本がころころと変更になったといい、「毎日変わるんですよ。今日の現場ではどういうシーンを撮るんだろうって、その日に聞いたり。完成形は監督の頭の中にしかないので、今日、撮影するシーンが全体のどのへんで、どういう意味があるのかを監督に聞きにいって、監督のイメージを引き出す作業を毎日しなくちゃいけなかったんですよね」と苦労を明かした。

　日本でも人気のある共演のクォさんは日本語に興味津々だったという。「ちょうど日本語の勉強をしているという話だったので、私が日本語の簡単な単語を教えたり、向こうの言葉を教えてもらったり……」と言葉の壁もコミュニケーションの手段の一つとして楽しんだ。

　大変だったのはアクションだ。「スピード感がありましたね。現場に行ってから殺陣（たて）師が手（動き）を作って、２、３回やってみただけで、まだうろ覚えの段階でカメラの前に連れて行かれてしまう。すごく怖いし、不安なんですけど、気持ちが負けないように、とにかく勢いでやることを心がけました」と乗り切った。少林寺拳法の経験があり、アクションは得意なほうだが、「大きなケガはなかったんですけど、１回だけ思い切り脇腹にけりが入って、痛くて１週間くらい寝返りが打てなかった」という。

　夜のシーンが多かったため、撮影していた２カ月間は、日没後から夜明けまで現場にいる“昼夜逆転”の生活を「火鍋」を食べて乗り切った。「スープが３０種類くらいあるので、その中から選んで、具も１００種類以上もあるので飽きませんでした。スープに薬膳の素材がいっぱい入っているので、しょっちゅう食べて元気でした」と笑顔で振り返る。「とにかく香港の現場は熱気やエネルギーがすごかった」と圧倒されながらも女優として貴重な経験ができた。

　「アクションができる人（女優）は少ないので、そこは武器になるのかなと思います」と自身の特徴を冷静に分析。さまざまな活動をする中でいつも忘れないようにしているのは「遊び心」といい、「自分のイメージやキャラクターを使って“遊ぶ”のが好きなんです。他人が多分（自分に対して）こういうイメージを持っているんだろうな、というものの真逆のことをしたくなるし、とにかく“遊び心”を忘れないようにしようと。それがさまざまなことをやる上での私のポリシーです」と断言した。

　次回は、「本を読んだり、芝居を見に行く」というオフの過ごし方について聞く。

　＜プロフィル＞

　１９７４年６月２８日、三重県出身。８７年にデビュー。ドラマ「踊る大捜査線」（９７年、フジテレビ系）の柏木雪乃役で人気に火が付き、その後、「彼女たちの時代」（９９年、同）、「ビューティフルライフ」（００年、ＴＢＳ系）、「恋人はスナイパー」（０１年、テレビ朝日系）など話題作に多数出演。９４年、ＳＭＡＰ主演の「シュート」に出演、以来「ガメラ２　レギオン襲来」（９６年）、「図鑑に載ってない虫」（０７年）、「真・女立喰師列伝」（０７年）、「あの空をおぼえてる」（０８年）、「ジャージの二人」（０８年）などに出演。アクションもこなせる女優として幅広い作品で活躍している。梶芽衣子さん主演で７０年代に映画化された「女囚７０１号　さそり」をリメークした主演映画「さそり」は８月８日から銀座シネパトス（東京都中央区）ほか全国で順次公開予定。９月１２日からＢｕｎｋａｍｕｒａシアターコクーン（東京都渋谷区）で上演される蜷川幸雄さん演出の舞台「ザ・コースト・オブ・ユートピア　ユートピアの岸へ」に出演する