婚姻関係にない男女の間に生まれた子、いわゆる婚外子(非嫡出子)の権利を巡る議論が続いている。とりわけ問題となっているのは、〈嫡出でない子の相続分は嫡出である子の2分の1〉とする民法規定だ。近著「法に退けられる子どもたち」(岩波ブックレット)でこの規定が婚外子への社会的差別を助長しているとして撤廃を訴える市民団体「mネット・民法改正情報ネットワーク」(東京)の共同代表、坂本洋子さん(46)=熊本県南関町出身=に話を聞いた。 (聞き手・下崎千加)
「嫡出」には「正統」という意味があります。法律で「正統な子/正統でない子」を意味する「嫡出子/非嫡出子」という言葉を使っていることからまず差別的です。最近は、嫡出子を婚内子、非嫡出子を婚外子と呼ぶ人が増えています。
婚外子Aさんの体験を紹介します。Aさんは、母親と家庭のある男性の間に生まれました。母親は前夫との間にできた婚内子の姉とAさんを分け隔てなく育てました。でもAさんの継いだ母の遺産は、姉の半分でした。Aさんは「人としての価値も半分と告げられたようだった」と言います。
相続の大小だけが問題なのではありません。この規定が、まるで婚外子が劣っているかのような社会的偏見を生む温床となるのです。婚外子は結婚や就職で差別を受けている現実があります。
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坂本洋子さんが出したブックレット
海外はどうでしょう。民法に相続差別規定があるのは、フィリピンだけといわれています。欧米諸国には嫡出・非嫡出の概念すらありません。もともとキリスト教国では婚外子を「罪の果実」として差別していましたが、20世紀になり人権意識の高まりから、国内法を改正していきました。
婚外子の割合(2006年)は、スウェーデンの57%をトップに、欧米諸国では40%前後を占めています。一方の日本は2%。婚外子やその母親への差別が根強いことの現れです。日本は、この規定を撤廃するよう国連の各種委員会から再三、勧告を受けています。
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私は子どものときに母が離婚、再婚しました。婚外子ではありませんが「なぜお父さんがいないと周りから軽く見られるの?」とやるせない気持ちになったのを覚えています。南関町役場に勤め、窓口を担当して、戸籍や住民票の続柄記載が婚外子と婚内子で異なることを疑問に感じました。
夫の転勤で関東に転居し、放送大学でジェンダーを学んで、なぜこんなに生きにくい社会なのかが分かった気がしました。以降、選択的夫婦別姓導入や婚外子差別の撤廃を求めて、国会議員向け勉強会や市民学習会を開いたりしています。
法制審議会が民法改正を答申した1996年以降、議員立法の改正案が毎年提出されていますが、まだ実現していません。でも前進もありました。戸籍や住民票の差別的記載はなくなりました。03年に最高裁判事が、法の下の平等を定めた憲法一四条に照らして「違憲の疑いが濃い。速やかな法改正を期待する」と指摘しています。昨年は国籍法が改正され、国籍取得における婚外子差別はなくなりました。
民法の規定撤廃に反対なのは女性に多く、「婚姻家庭保護のため」「妻の座を守るため」と言います。でも生まれる前の親の行為の連帯責任を子にとらせているような状況は、看過できません。
ユニセフ(国連児童基金)は子どもに対する世界の6つの人権侵害として、インドのカースト制度と並び日本の婚外子差別を挙げています。このままでは日本は国際社会で孤立してしまいます。
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