北陸の経済ニュース 【8月29日04時10分更新】

敵は高速道「安さ」には「安さ」 北陸の旅客輸送業界
 北陸の旅客輸送業界で低価格戦略が広がってきた。今夏、高速道路のETC割引で旅行 客がマイカーにシフトし、空陸の交通機関は利用者を大きく減らした。休日料金が上限1 千円という高速道の安さに対抗しようと、JR西日本金沢支社は好評な格安切符を設定し た旅行企画を連発。航空会社は搭乗券の割引制度を周知するなど、価格面での真っ向勝負 を挑む。

 「1日平均200枚は売れてます」。JR西日本金沢支社の小坂誠営業課長は、特急「 雷鳥号」の格安切符の売れ行きに声を弾ませる。

 金沢−大阪間の大人往復料金が通常の約3分の2の1万円で、子供は往復2千円と破格 の水準に設定。親子連れらから好評で、発売開始から40日間で約6千枚が売れたという 。

 JRの西日本、四国、九州管内全線などで使える乗り放題切符「西日本パス」も好調だ 。

 金沢から鹿児島まで乗った場合、往復の料金はグリーン車で約6万8千円が2万円とな り、割引率は最大70%。9月の大型連休中は使用できないが、21日から約1週間で7 00枚(同支社管内)を売り上げた。

 ただ、「落ち込みを補うにはまだ足りない」と小坂課長。さらなる販売増を目指し、同 支社は今週、「西日本パス」を組み込んだ観光キャンペーンを立て続けに打ち出した。

 島根の石見、和歌山の南紀、岡山の倉敷の3地区で、いずれも現地のJR支社と観光協 会などが企画。駅からの二次交通手段として、シャトルバス・タクシーを無料で用意する など「割安感」を前面に出している。

 誘客活動も積極的に行っており、7、8月だけで関西方面を中心とした5地域にキャラ バン隊を派遣。北陸の観光資源をアピールするとともに、格安切符の利用を呼び掛けた。

 「これまでにないハイペース」(広報担当)で低価格の旅行企画を売り込む背景には、 高速道路のETC割引による「鉄道離れ」を食い止める狙いがある。

 JR金沢支社管内では、お盆期間(7〜18日)の特急・急行列車の利用状況が前年同 期比11%減の52万8千人に急減。確認できる過去14年間で最大の落ち込みとなった 。

 一方、鉄道から遠のいた客足を吸い取るかのように、高速道路の利用は伸びる。

 中日本高速道路金沢支社によると、お盆期間(6〜16日)の北陸三県の高速道路交通 状況は、1日平均の交通量が前年同期比26%増の4万700台に上った。ETC利用率 も前年の66%から84%に急上昇したという。

 航空会社も高速道路の躍進に戦々恐々とする。日本航空金沢支店では対策として、利用 当日に空席があれば最大82%の割引が受けられる「当日シルバー割引」の周知を進める 。

 時間とお金に余裕のある高齢者に狙いを定め、高速道路に奪われた旅行需要を少しでも 補いたい考えだ。

 高速道路を意識し、「安さ」に重きを置いて営業を展開する旅客輸送会社。しかし、3 0日投開票の衆院選では「高速道路の原則無料化」を公約に掲げる民主党の優勢が伝えら れており、実現すれば高速道路との価格格差はさらに広がる。

 また、不況によるビジネス利用の低迷にも回復の兆しは見えず、新型インフルエンザの 流行も先行きに暗い影を落とす。不安要素を抱えたまま、鉄道、航空各社は秋の行楽シー ズンも厳しい戦いを強いられそうだ。


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