2007-07-18 23:15:28

リストカット

テーマ:境界型人格障害
リストカットは些細な失望や失意を契機に、主として自分の手首をカミソリやカッターナイフなどで切創することを言う。若い青年期の女性に多いが、そうでない人にもみられる。普通「理解されなかった」とか、「裏切られた」などの対象喪失感をきっかけに行われることが多い。その際にトランス状態を呈していることもある。  

リストカットは若い人の場合、そう深くない「Delicate cutter」であることが多い。Delicate cutterとは、簡単にいうと、「浅い傷を繰り返すタイプ」である。何本も平行して入れている場合も多い。普通は手首が多いが、場合によると前腕部位に広く入れている場合や、ウインナーソーセージのようにはっきり判るように腕の外側を切っているような人もみられる。これは、きっと他の人に見てほしいのだと思う。この外側に入れている人々は、20年前にはあまりいなかった。これはおそらく時代の変化だと思っている。

他、かなり深く、時に腱や血管まで切ってしまうリストカットは「Coarse cutter」と呼ばれ、これらは生命を脅かす場合もある。coarseという単語は、「あらい、粗大な」という意味で医学にはよく出てくる。このCoarse cutterの人々は、積極的に希死念慮を抱いていることが多い。特に若くない統合失調症の患者さんの突然起こるリストカットは、まさに「Coarse cutter」で、たまに死に至ることもある。あんがい反復性はなく、むしろ年配、高齢者に多い。彼らは背景に死にたいという願望が強いので、リストカットを選ばず、大胆な方法をとる場合もある。それは舌を切るとかペニスを切断するなどである。

リストカットは、300年前くらいはどうだったのだろうか?とたまに思ったりする。たぶん、Coarseのタイプはあったにしても、Delicateなタイプはあまりなかったのかもしれない。このように考えてくると、リストカットと漠然と言った場合、あらゆる疾患に出現しうるので、さほど疾患特異性がないといえるかもしれない(リストカットで診断が決まらないと言う意味)。つまり、頻度の相違があるが、神経症からボーダーライン、躁うつ病、統合失調症などに満遍なく生じうると言える。ただ診断基準的には、「リストカット」は境界性パーソナリティ障害と演技性パーソナリティ障害に採用されている。「Delicate cutter」は後に「Coarse cutter」に転じることがある。

リストカットをした人に聞くと、傷をあまり痛がっていないことが多い。切った直後はむしろ気分的にすっきりしている。これは「解離が関与している」だけでは片付けられない。僕が不思議に思うのは、リストカット痕がほとんどと言ってよいほど化膿しておらず、普通に止血してきれいに治癒していることだ。さほど消毒もしていないのに。

もともと、剃刀やカッターナイフなどの金属には細菌が多くない。なぜなら金属自体に細菌を殺す作用があるから。何かで読んだことがあるが、いろいろな職種の労働者を調査したところ、旋盤工の手が最も清潔だったらしい。つまり旋盤工の手についている金属粉が細菌をかなり減じていたということだろう。そういうことを差し引いても、このリストカット痕は奇妙に化膿していない。

典型的には1つまたはいくつかの切創が平行してみられ、生々しく「赤いラインの乾燥した傷」になっている。これには、何か理由があるような気がしていた。リストカットの力動学的理解として、「他者に対する攻撃性が自己に向かう」とか流血と痛みにより「自己の存在感を取り戻す」とかいろいろに理解されているようであるが、こういうのは僕は詳しくはない。

僕は、単に左手首ないし腕の切創に意味があるような気がしている。(左利きの場合は右手の切創)特に「Delicate cutter」の場合、左腕にそのような傷を入れることで、右の脳に直接ないし間接的に刺激のようなものを与えているのかもしれない。

また、東洋医学で瘀血という考え方があるが、これに近い意味もあるのかもしれない。つまり、あのリストカット痕からは、何かが出ているのかもしれないのである。何か悪いものが出ているからこそ細菌が入りにくく化膿し辛いような気がしている。

神田橋條治氏によれば、リストカット痕からは「邪気」が出ているのだという。この考え方はちょっと面白いというか、オカルトで笑えるのであるが、これはたぶん当たっていると思うよ。

いつだったか、このブログ内のコメントで、「リストカット痕は神聖なもの」と書いたことがあるが、こういう僕の考えから来る。

もう少し現実的なことに戻ると、メンヘル系の人々でブログやホームページを開いている人の中で、たまにリストカットの写真をアップしている人がいる。ブログを書くことが治療的かどうかは議論があると思うが、もし治療的であったとしても、ブログでリストカット痕の画像を載せてしまうと、すべての意味がなくなるほどのマイナスであろうと思っている。

なぜなら、リストカットのsecondary gain(2次的利得)が更に大きくなるような気がするからである。







コメント

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1 ■難しいです・・・

こんばんは。
リストカットや自分を傷付ける行為って誰かに理解されたい、分かってもらいたい、特に親とか肉親にですね、が大きいと思っていました。
恥ずかしながら相方と喧嘩してすごいことになると私は自分の足に鉛筆やペンをかなりの回数突き刺した経験が2度ほどあります、相手に見せ付けるように。今でも跡は消えません。
分かってくれ~と心が叫んでいたような、単なる甘えもかなりあると思います。
あとはただ痛いだけなんですけどね。
難しい・・・です。
有難う御座います。

2 ■はじめまして♪

境界例っていう言葉に引き込まれて、この記事を読んでしまいました。
他者への攻撃が自分に向かうことあります。私の場合は、とても愛しくて失いたくない人に対して、酷い罵倒を浴びせたり人格否定をしてしまったりすることあります。相手を攻撃するパ 
ワーがないときには、それが自分へと向けられ、頭を机に何度も叩きつけて救急車で運ばれました。こういった攻撃性をあらわにしているとき、なぜだかわからないけれど、同時に「親に対する怒り・要求・不満」を心の底で感じてるんです。
いつもいつも得たいの知れない不安に自分の行動が支配されていて、とにかくいえることは見捨てられることへの不安といった感じです。

3 ■おはようございます。

リストカットの記事を興味深く読ませていただきました。
実は私も大学生の時、リストカッター・・・。
kyupinの言うDelicateの方です。何本も平行に切っていました。きちんと平行にきれなかったら、右手でやり直ししてました。平行に切れなかったら不安になって、切る意味がないと思ってました。きれいに切れたら落ちつけたんですよねぇ・・。
もうしてませんけどね。
でも、左手首の外側にお香の火を押し付けちゃてるんですけどね・・・。
やめたいんですけどね・・・。

ネットのうつ診断とか境界例診断とかすると、両方ともかなり可能性が高いって出るんですよねぇ・・。うつっていうのはクリニックで診断されている納得。境界例っていうのは診断されてないからどうなのか分らない・・。
境界例って先生に聞いてみたほうがいいのかなぁ???

4 ■意識するしないではなく

症状が最高に悪かった大昔、もう毎晩眠れず悶々としていて、たまたま休職中にやっちまった事があります。もう深く切るとか浅く切るとか並行にしようとか、そんな考えさえなかったような気がします。

右腕にも左腕にもガンガン切ってしまいましたが、結果、幸いにも傷は浅かった。
見てもらいたいとか、そんな心理的な余裕さえなかったです。結果的には後悔していますけどね。
それでも傷が浅くて済んだのは、やっぱり何処かに恐怖感があったのかもしれないと思っています。
まぁ、全く計画的ではありませんでした。
休職中で助かったとも思っています。これが通勤時に発作を起こしていたら、地下鉄に飛び込むか、会社のビルから飛び降りてしまったかも知れないから。

都内では極めて鉄道への飛び込みによる人身事故が頻発していまして、実際に目撃したことも数度ありますし、前に住んでいた家は線路際だったので目撃する機会が多かったのですが、なんの死でも死は汚く格好が悪く、最悪ですよ。思春期の人とかが詩とかを読んで死を憧憬する気持ちも分からない事もないですが、リアル死を見ることも人生に於いては肝要かと。

で、都内の人身事故の場合は、やはり計画的に実行する人は少ないのではないかと思います。咄嗟だと思うのですね。これは幾らか理由があって、咄嗟のスーサイドの場合、遺書とか殆ど残ってませんし。

あと、服なんて人身事故の場合、殆ど体が轢断されてしまうのと関係があるのですが、衣服はモーターに絡まったり、敗れてしまうので裸になるケースも結構多いです。あと、モーターに体の一部分が巻き込んだりすることもあるので異臭が・・・。

まぁ、無理矢理死ぬなんて最悪ですよ。

邪気に関してもなんとなく分かります。きっとその時の感情とかも傷に残ってしまうのかも・・・。よくは分かりませんが、感覚的には分かるです。

さて、ネットで確かにこーいう傷を掲載している方々がおられますが、まぁ、潜在的にも見て欲しいのだろうけど、うっかり開けてしまったこっちの立場も判って欲しいす。

あと、こういう傷は誇れるものでもないと思うのですが。

その辺のことも二次的利得に繋がるかと思うのですが。

5 ■リストカット

統合失調症ですがリストカットした事あります。
自己否定でこんな自分要らないって思ってやったのと、死にたい気持ちが強かったのでやりました。
深く切らなくて、浅い傷口を何本も何本もつけると正気になってくるようでした。
ところで、ブログを書くことって治療的って言えるんですか?
私はもう、2年ぐらいブログ続けてますけど本当に2年前に書いてたブログと今のブログと比べてみてもスゴク変化したなぁって思うし、治って行く過程が面白いほど見れるから好きです。
一応、主治医にはブログやってる事とアドレスは渡してありますけど。。見てるかは不明!(爆)

6 ■人格障害とリストカット

過去にリストカット経験者です。
今は、していません。
過去にリストカットをしていた時、私も外側にしていました。
気づいてほしいから・・・などと思って外側にしていたわけでもありません。
切り易かったからです。
切って痛いと同時にジワジワと滲み出てくる血をみて怒りの感情・虚しさの感情が楽になりました。
確かに・・・沢山の傷をつけていましたが化膿はしていませんでしたね、不思議なことに。
別に消毒したわけでもないのに。

ところでどうしてリストカット=人格障害と簡単に言われるのでしょう。
今では教科書にかいてあるとか。
今、犯罪が起こればメディアでコメンテーターの方や精神科医さんが出演されては「元々、人格障害者で・・・」などと簡単にコメントされています。
私も境界性パーソナリティ障害と診断されました。
確かにこの診断は間違ってもいないし自分でも納得しています。
教科書通りでいうそのままの症状ですから。
ただ、人格障害ってそんなに恐いのですか?
そんなに犯罪を犯すことが多いのですか?
勿論、人格障害のパターンにも色々あるのも知っています。
だけど簡単にメディアで「人格障害」と発せられることに憤りを感じています。
私は診断された際にまだ無知でしたので友人にこの診断のことを話をしてしまいました。
でも犯罪が起きることに「人格障害者であり・・・」などとコメントをされて今、私はこの人格障害という言葉に物凄く重みを感じています。
むやみに友人に話してしまった事を後悔もしています。
「人格障害」この言葉のみだけで簡単に片付けられているような。
私は犯罪など犯していません。
勿論、その後も犯そうなどとも思っていません。
精神分裂症という病名が差別をしているように聞こえ統合失調症に変更になった今。
境界性人格障害も境界性パーソナリティ障害と変わった今。
言葉の重みについて物凄く考えさせられます。
犯罪の報道がありこの人格障害という言葉が簡単に発せられるだけで自分自身が犯していなくとも辛い気持ちになります。


7 ■血というもの

リストカットには瀉血の意味もあるのかもしれない
ですね。私もたまに唇の皮がむけてしまい
ティッシュをあてて、見たり匂ったりしてしまうのですが
体調が悪いときは、やはりくすんだ匂いがします。
顔色の良い悪いも、血色といいますし、血は
キーポイントのようですね。過去に外科的な手術を
受けた患者さんに、うつ状態がとても多い気もします。

8 ■>>hirokun

最近は男性でもリストカットをする人がいます。今、双極性障害の人で1名男性の人のリストカットがある人を診ています。

9 ■>>さやか

境界例ということばも、このテーマにするのはどうかと思ったのですが、ここに書いておくと、みんなの目に触れやすいのではないかと。

10 ■>>モモ

そのような告知はする人としない人がいるような気がします。

11 ■>>テリ造

今、診ている男性患者さんのリストカットですが、派手に荒めに切っていて、人にわざわざ見せに行くようなので、見せにいくのだけは止めるように伝えています。

12 ■>>理紗

僕は日記を書くこと自体が治療的だと思うのです。だから2年経って、以前より良くなっているというのは理解できます。

13 ■>>snow45

ここにあるように、リストカット=境界型人格障害ではありません。リストカットのあるなしで診断は決まらないのです。診断基準には出てきますが。

たしかに、人格障害は良い言葉ではないですが、こういうことで、すぐに名前を変えていくと、現場が混乱する面もあるのです。

個人的には、知的発達障害や統合失調症などの名前の変遷について良かったとは思っていません。

14 ■>>ばら

人間は、瀉血をすればもう少し長生きできそうな人が確かにいますね。瀉血はある程度健康にプラスの人もいるようです。ただ、リストカットの場合は、ちょっと瀉血とは違うとは思うのですが。

15 ■おはようございます

三年前に30ヶ所くらい軽く切ってました
血がまあるく出てくるのを見てました
そうするとホッとできて少し眠ることができました
今現在は信頼できる人が見つかり切ることはありませんがもしこの人を失ったらあたしはまた切ったりするんだろうなと思いました
夕べは、こまぎれ睡眠でした
1時間半おきに目が覚めました
耳鳴りもするし…
ちょっと下降気味です
(ρ_・).。

16 ■無題

気になる人への罵倒や卑劣な言動がやめられません。相手を困らせて嫌われるようなことをして、どこで相手が私を見捨てるのかを試したくてやっています。相手の反応を見るのが楽しくって、内心笑ってるようなとこもあります。こんな自己破壊的な行為しかできないのってなんでなんですかね?

17 ■>>tokinokakera

良い人ができると、リストカット、過食などの症状がかなり軽減する人がいます。

18 ■>>さやか

それは試そうとしているのでは?

19 ■無題

確かに試そうとしてるのはあります。
できれば、相手が大人な対応をしてくれるのではなく、うーんと困ってくれないかなって思うんです。そして、周りの友人知人関係も一切壊して、私だけを見て欲しいってのがあります。
やっぱおかしいですかね?

20 ■>>さやか

おかしいというより、そういう心性なのでしょう。

こういう流れが周りにも納得できるようなものなら、それほど重くはないという感覚です。

21 ■無題

ふ~ん・・・先生は心広いですね・・・
なんかね、私を怒らせた人、感情を乱した人、裏切った人、見捨てた人、全員許せないし、みんなしねばいいと思います。冗談でなくマジで思います。。周りが全て悪いと思ってます。。

22 ■無題

あと1つ腹立つことあるんですが、こういう私の特性を知っておきながら、わざと挑発して私を怒らせる人がいるんです。見捨てられ不安を煽ったり、「さよなら」といったかと思いきや曖昧な態度でかまってくれたりするんです。
そのたびに、情緒がさらに不安定になって、私の行動化に拍車がかかっています。
しかも、その相手、精神科医なんですよ!!絶対に許せないですよね。

23 ■ん-…

腕の外側に切ってるからって見せたい訳ではないんですが。外側の方が切りやすいし血が出るんです。

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