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医療 ’09衆院選 負担の議論も避けるな '09/8/28

 医師不足に象徴される「医療崩壊」が顕在化している。たらい回しで妊婦が死亡するなど、今や大都市も例外ではない。国民の命を守るためにどう手を打つべきか。それが問われる選挙でもある。

 広島県では実際に働いている医師の数が、減少に転じた。診療科の休止や縮小を迫られる病院も相次ぐ。足元の安心が揺らいでいると言わざるをえない。

 人口比でみれば、日本の医師数は経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の3分の2。各党が政権公約に医師増員を据えるのも当然といえる。

 自民党は医師を増やし「思い切った予算」を編成するという。公明党は臨床研修で「科ごとの養成数の目標」を設定。民主、共産の両党は医学部定員を1・5倍に増やす―と具体的な数字を掲げる。

 ただ医師養成には10年かかる。過重労働が続く医師の処遇改善など地域への定着を促す政策抜きに、医師不足の解消は難しい。

 前回衆院選で大勝した小泉政権は「骨太の方針2006」に社会保障費の抑制を盛り込んだ。柱の診療報酬引き下げや後期高齢者医療制度、療養病床の大幅削減を見直すかどうかも、大きな争点だ。

 国内総生産(GDP)に占める日本の医療費の割合は8・1%。OECDの平均(8・9%)を下回る。地域医療を守る上でも診療報酬見直しを求める声が強い。

 自民は社会保障費の伸びを毎年2200億円抑える方針を棚上げし、来年度の診療報酬プラス改定をうたう。公明も「充実」を掲げる。だが11年度以降については、あいまいなままだ。

 野党はそろって抑制方針を撤回し、産科・小児科・救急などの診療報酬の引き上げを主張。医療費対GDP比をOECD平均まで引き上げるとしている。

 後期高齢者医療制度をめぐる与野党の隔たりも大きい。与党は「現行の枠組みを維持しながら抜本見直し」を掲げるのに対し、野党は「廃止」を鮮明にする。

 廃止後について民主は、膨らむ国民健康保険の財政負担を国が支援し、将来はサラリーマンの健保と国保の統合を目指す。共産、社民は老人保健制度に戻すという。

 療養病床を12年度までに35万床から22万床に減らす計画は、受け皿となる介護施設などの整備が進んでいない。高齢者が行き場を失うことも懸念されるが、自民は「適切に措置する」とするだけ。民主は「凍結」、共産は「撤回」、社民は「見直し」を掲げる。

 各党の政権公約には「安心」の大文字が躍る一方で、裏表の関係にある負担の問題についてはあまり触れていない。

 既に33兆円を超えている国民医療費。今後も膨らみ続けることは確かだろう。これに加えて、例えば民主案では1兆6千億円の費用がかかることになる。

 無駄の排除や予算の組み替えで財源を捻出(ねんしゅつ)できるのか。保険料や消費税を上げるのか。耳が痛い話ではあっても、議論をいつまでも先送りにはできない。




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