T 児童虐待の現状とその要因

 

若干の具体的事例

 児童虐待の現状を述べるにあたって、まず、比較的最近に起こった児童虐待、児童買春・児童ポルノ、いじめの実例を数例紹介する。そのうえで発生件数の推移等の統計や、なぜこうした事件が起きるのかといった原因論を取り上げたいと考える。

 

1 児童虐待

 

≪ベランダ放置せっかん死事件≫

 2000年10月16日、愛知県で、小学5年の長男(10)を全裸で縛り付けたまま自宅のベランダに放置して死亡させたとして、会社員の父親(40)と母親(31)が傷害致死の疑いで逮捕された。両容疑者は14日午後6時頃から、約41時間にわたって長男に一切食事を与えず、ベランダの雨どいに、全裸のまま、ひもなどで立ったまま縛り付けて死亡させた疑い。死因は肺炎の可能性が高いことが分かった。

 16日午前10時30分頃には、長男が「暑い、暑い」などと騒いだため、母親がバケツで水をかけた。母親はそのままうたた寝をしてしまい、約2時間後、様子を見ると、長男はぐったりして動かなくなっていたという。また、父親と母親は、長男の顔に粘着テープで目隠しをしていたことが分かった。母親は「(息子の)目が怖くて見られなかった」と目隠しをした理由を話しているという。

(朝日新聞2000年10月17日朝刊・2000年10月18日朝刊

 

≪託児所「スマイルマム大和ルーム」における連続死傷≫

 2000年6月27日、神奈川県の無認可託児所の女性経営者(29)が、男児を暴行し死亡させたとして逮捕された。この託児所では、逮捕容疑となった2000年2月18日発生の上記事件を含めて計5件の死傷事件が起きており、いずれも容疑者が1人で保育中に起きていたことが明らかになっている。

 同託児所をめぐっては、「幼児に不審なけがが多い」として県も1999年4月以降に計4回の立入り調査をしていた。1年間に4回もの立入り調査が行われたのは異例のことである。

(朝日新聞2000年6月30日朝刊・2000年7月17日朝刊等→第3章T)

 

≪児童養護施設「 」における児童虐待≫

 2000年5月26日、千葉県の児童養護施設「恩寵園」の元園長(63)が、園児に対する傷害容疑で逮捕された。元園長は、1993年、当時小学3年生の園児が右足に巻いていた布製アクセサリー(ミサンガ)を包丁で切断して、園児の足にけがを負わせたり、1994年、当時7歳の少年の左手小指を植木バサミで切断したりするなど、長期間にわたり数々の体罰を行っていたとされる。同園をめぐっては他にも、元園長の次男である元職員が、1997年に少女(12)を強姦したなどの疑いで逮捕されている。

(朝日新聞2000年2月29日朝刊・同2000年5月27日朝刊等→第3章T)

 

2 児童買春・児童ポルノ

 

≪児童ポルノ愛好者ネットワークの発覚≫

 1997年8月、大阪にて、女子小学生を自宅に連れ込み、裸にするなどしてわいせつビデオを撮影していた無職男性(25)ら2人が強制わいせつ罪で検挙された。そして捜査の結果、児童ポルノ愛好者が組織する全国ネットワークの存在が判明した。同ネットワークの会員らは、母親も同席しての女子小学生の児童ポルノ撮影会を実施するなどし、パソコン通信を利用してビデオ等を販売しており、1998年7月までに会員等18人を強制わいせつ罪、わいせつ物頒布等罪で検挙した。

(警察庁編『警察白書(平成11年)』大蔵省印刷局(1999)81頁)

 

大手メーカー社員による売春強要

 容疑者2000年7月30日、会社の30代の同僚に、高校1年生の少女(16)を買春の相手方として紹介するなど、この少女を、同僚を含めた4人の男に紹介した疑いが持たれている。

 女子高校生は、売春相手の同僚らからそれぞれ数万円を受け取ったが、警察は容疑者も仲介料を受け取っていた疑いが強いと見ている。また、警察は、売春の相手方となった4人も児童買春の容疑で調べる方針である。

 容疑者は、デートクラブ経営者(36)(売春防止法違反の疑いで逮捕)らと共謀し、テレフォンクラブに電話をかけてくる女性に売春を勧誘し、相手の男性を紹介して仲介料を取っていた。

 容疑者は大手メーカー社員らによる売春強要事件で、売春防止法違反の疑いで逮捕されたが、調べが進むにつれ、買春あっせんの疑いが強いとされており、新たに児童買春・児童ポルノ処罰法違反(児童買春の周旋)で再逮捕される。

(朝日新聞2000年10月17日朝刊

≪女子中学生に対する売春の周旋

 2000年10月14日、女子中学生らに客をとらせて売春をさせたとして、出張へルス経営者(28)と同店従業員(25)の両容疑者が児童福祉法違反(淫行させる行為)と児童買春・児童ポルノ処罰法違反(買春周旋業)疑いで逮捕された。

 両容疑者は4月下旬、中学3年生(当時14)が18歳未満であることを知りながら、ホテルに派遣して男性客と売春させたとされる。また、無職少女(16)を3月下旬から6月上旬まで3回、ホテルなどに派遣し、売春させた疑いも持たれている。

 警察は、少女2人のほかにも、売春させられていたとみられる15歳から18歳の無職少女8人を保護した。店にはシンナーが置いてあり、少女らは「シンナーが簡単に吸える」「携帯電話をもらって、ただで使える」などと言って、同じ中学校の後輩や夜遊び仲間を店に紹介していたという。

(朝日新聞2000年10月15日朝刊)

 

県立高教諭による児童買春

 容疑者は駅前で電話中の女子高校生に声をかけ、現金3万円を渡す約束をし、2000年10月4日午後11時20分ごろから5日午前0時頃までの間、ホテルで女子高校生に対し、18歳未満であることを知りながら淫らな行為をした疑いが持たれている。

 女子高校生が5日未明、容疑者が金を払わなかったため駅前の交番に届出たことから、同署員が付近にいた容疑者を取り押さえた。

 容疑者の逮捕を受けて教育委員会では10日、教育長が記者会見を開き「生徒を指導する立場にある教員として、絶対あるまじき行為であり、極めて遺憾」と陳謝した。今後は本人から事情聴取をした上で厳正に対処したいと述べた。また、各学校に服務規律の啓発を再度求める文書通達を数日のうちに行いたいとの意向を示した。

(朝日新聞2000年10月11日朝刊

 

3 いじめ

 

≪中学同級生による5000万円恐喝≫

 2000年4月5日、中学の同級生から現金を脅し取ったなどとして、愛知県の少年3人(いずれも15)が恐喝と傷害の疑いで逮捕された。被害者の少年(15)は70回以上にわたって現金を脅し取られ、被害総額は5000万円にのぼるとされる。少年は脅されると、母親に「カネを渡さないと殴られる」などと言って暴れ、母親は仕方なく、死亡した夫の生命保険金や預貯金を取り崩していた。

 被害少年は1999年6月、少年らから「カネをよこせ」などと因縁をつけられた際、自分の預金口座から19万円を引き出してあっさり渡したのをきっかけに、“金づる”にされた。少年らは現金をゲームや飲食等の遊興費やタクシー代に使ったという。

朝日新聞2000年4月6日朝刊)

 

≪いじめによる中3女子自殺≫

 2000年10月13日、千葉県の公立中学3年生の女子生徒(15)が、自宅近くの木で首をつって自殺しているのが発見された。生徒の自宅の部屋からは「あいつらは絶対許さない」「復讐してやる」「早く楽になりたい」「さようなら」などと書かれた遺書らしきメモが見つかった。警察ではいじめを苦にした自殺とみている。

 同校によると、女子生徒は中学1年生の頃から、同級生の男子生徒らに「死ね」「臭い」と机に書かれたり、「こっちへ来るな」などと仲間外れにされたり、椅子につばを吐きかけられたりするなどのいじめを受けていたという。また、女子生徒は小学校のときも、千枚通しや画鋲を椅子におかれたりするいじめを受けていたという。

(朝日新聞2000年10月16日夕刊2000年10月17日朝刊

 

≪「HELP」中1男子自殺≫

 2000年7月26日、埼玉県の公立中学校1年の男子生徒(13)が、自宅の納屋で首をつって死んでいるのが発見された。遺書はなかったが、自殺する前日、メモ用紙に生徒の字で「HELP」と書かれていたの家族が見ていた。

 学校側の調査によると、たたいたり蹴ったりの暴力や少年の近視などに関する悪口が、少なくとも4月下旬から7月上旬まで続いていたことが判明している。また、4月下旬には少年のかばんがゴミ箱から見つかる出来事があり、6月には少年の机にのりが塗られたこともあったとという。同級生の証言によると、ひじで後頭部をたたかれたり、足がしびれる「麻酔蹴り」という方法で蹴られたりしていたという。

(朝日新聞2000年8月2日朝刊2000年8月21日朝刊