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きょうのコラム「時鐘」 2009年8月28日
1990(平成2)年の秋、3人の陶芸家に同行してモスクワへ行ったことがある。九谷の徳田八十吉、備前の藤原雄、有田の酒井田柿右衛門さんで、昭和ひとけたの同年配の、三者三様の個性が面白かった
徳田さんがリーダーぶりを発揮し、学者肌の藤原さんがうんちくを傾け、柿右衛門さんはじっと耳を傾けるといった風情であった。親代々の伝統に他が追随できない個性を重ねて初めて一時代を築く作家が生まれることがよくわかった 共通していたのは陶芸の東西交流に詳しい勉強家であり、崩壊寸前のソ連政権に強い関心を示していたことだった。芸術が社会や歴史から孤立したものでないとの思いが旅の途中ににじむのであった 3氏が人間国宝になるのはこの後のこと。崩壊する国家を見た体験は、市民の暮らしも文化も政治に左右されることを実感するのに十分だった。「芸術は時を超える」との言葉はあるが、芸術を支える政治の安定の大切さを思っただろう あれから20年、日本の転換点となる選挙を前にしての徳田さんの訃報だった。政治と文化を考える機会をいただいた思いである。 |