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太田直子
広島県鞆の浦産1959年物。天理大学ロシア学科卒。上京後、早稲田の杜に潜り込み露文研究者を志すも、あっさり挫折して字幕の森へ。趣味は「読む・書く・飲む」。最近の劇場公開物は『ヒトラー 最期の12日間』『ベルベット・レイン』『そして、ひと粒のひかり』など。
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原稿に手を出すな

今回のタイトルのネタ元をご存じない方もいそうなので、念のため…… ジャン・ギャバンやジャンヌ・モローが出ている『現金に手を出すな』(1954年/仏・伊)です。「現金」は「げんなま」と読みませう。あんまり古い作品なので、勢ひ余って旧仮名になってしまひました。校閲者に殴られさうなので、このくらゐにしておきませうね。
さて、今回の字幕屋の叫びは、タイトルそのまんま。「わしらに無断で勝手に字幕原稿をいじるんじゃねぇ!」です。「無断で勝手に」と、ほぼ同義の言葉を重ねてしまうところに字幕屋の切実さが表れています。
誰が原稿をいじるのでしょうか。配給会社や制作会社の人たちです。もちろん、字幕屋の初稿を絶対いじるなと言っているのではありません。それどころか、意見や苦言はどしどしいただきたい。こちらの思い込みで、わかりにくい字幕になっていることも多々ありますから、会社の担当者の意見はとても貴重でありがたいのです。けれども……
こちらに相談なしに原稿をいじって公開・発売してしまうのは、断じて許せない。それをやるなら、「字幕だれそれ」というクレジットに、あんたの名前も並べて書け!
こちとら気取って偉そうに名前を出してるわけじゃない。「字幕の責任者はワタクシです、すいません」という気持ちを込めて本名を明かしてるんだ。まじでカラダ張っとんじゃ、ボケ!
つい興奮してしまいました。お下品ですみません。気を取り直して、「無断でいじられた悲劇」の数々を具体的にご紹介しましょう。

悲劇その1、シリーズ物の有名作品をDVDで見たお客から、発売元にクレームが来ました。「ひどい誤訳がある。パート2ではこの翻訳者を使うべきではない!」と。しかし調べてみると、劇場公開時にはちゃんとした訳が入っていました。つまりDVD制作作業中に勝手に原稿を変えられたのです。改善されたのならまだしも、改悪されて……。
悲劇その2、ある翻訳者がふと思い立って(虫の知らせか?)自分の翻訳した作品を見に映画館へ入りました。館内でその人は悶絶死しそうになりました。書いた覚えのないコテコテすべりまくりのギャグが、字数制限無視で連発されていたのです。あとで追究したところ、宣伝部が勝手に手を入れたとか。ひどすぎる……。
悲劇その3、「子供のころ、water bomb を作って、人に投げて叱られた」というセリフがありました。water bomb、ビニール袋に水を詰めて人に投げつけるイタズラですね。字幕では「水爆弾を作って叱られた」としました。ところが発売されたビデオを見て愕然! 「水爆を作って叱られた」になっていた。前後を読めば、子供時代の回想だとわかるのに、です。子供が水爆を作るか? 常識で考えろ!
まだまだ悲劇は尽きませんが、このくらいにしておきませう。
総体に、無断で原稿をいじる人々は、あまり日本語のセンスがありません。ちゃんと相談してくれる人ほど、文章力があります。こちらにとって都合のいい人をひいきしてるわけじゃありませんよ。文章力のある人は、自分の文章を大切にして一字一句吟味するので、他人の文章も大切にしてくれるのです。逆に、めちゃくちゃな敬語で、読み返してもいないような垂れ流しメールを送ってくる人ほど、他人の原稿に手を入れたがる。勘違いもほどほどにしてもらいたいものです。
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