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社説

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09総選挙・消費税―増税論議をすみやかに

 「国のかたち」を決める大事な論戦が低調なまま、総選挙の投票日がやってこようとしている。消費税の増税問題である。

 自民党も民主党も、高齢社会のなかで今後膨らみ続ける社会保障財源として、消費税率引き上げが必要になることは認めている。ならばその見取り図を有権者に示すことが政権を争う政党としての責任のはずだ。

 ところが両党とも総選挙の争点から外してしまった。これは国民にとっても不幸なことではないか。

 政府の推計では、いま年間90兆円の社会保障給付費が2025年には140兆円に膨らむ。年金や医療、介護の水準を下げる選択肢がないとすれば、財源を税や保険料で確保していくことが政治のつとめである。

 増税は不人気な政策だ。だから消費税の歴史は歴代自民党政権にとって試練の連続だった。79年に大平内閣の一般消費税構想が挫折。89年に竹下内閣が消費税を導入し、97年に橋本内閣が税率5%にした。その代償は、いずれも国政選挙での大敗だった。

 近年の自民党政権は「歳出の無駄削減が先」という大義の陰で、消費増税の試練から逃げてきた。小泉首相は「自分の任期中には消費税を上げない」と宣言。安倍、福田、麻生の3首相は税制抜本改革の目標時期を設けたが、在任中は増税しないという「先送り」策を続けた。

 民主党の鳩山代表は「4年間は消費税は上げない」と公約したが、それも逃げ口上のように響く。

 両党が消費税をタブー視するのは世論の増税批判を恐れてのことだろうが、国民の方はどうか。

 朝日新聞が今月中旬に実施した世論調査では自民、民主両党の公約を実現するための財源に83%の人が「不安を感じる」と答えた。

 予算の無駄を省けば財源が泉のようにわいてくるというものではなく、「埋蔵金」頼みや増税先送りでは済まないことを、有権者はとっくに見抜いているのではないか。

 もちろん、実際に増税するのは世界経済危機の克服後でなければならない。だが、どのくらいの規模の増税が必要か。消費税は複数税率にするのか、といった議論も早い段階から積み重ねておく必要がある。

 その場合、税源の中核である所得税、法人税、消費税のあり方を全般的に見直す必要はある。それにしても増税論議の中心となるのは、やはり税率5%と主要国のなかで際だって低い水準の消費税だろう。税収が景気にあまり左右されずに安定しており、社会保障財源に向いていることもある。

 新政権は、歳出の無駄減らしを進めるとともに、税制抜本改革の議論にすみやかに入るべきである。

児童虐待増加―問題の芽を摘む態勢を

 虐待で亡くなる子が減らない。心中も含めると年100人余。1週間に2人の子の命が失われている計算だ。

 児童相談所が乗り出す案件も増え続けている。虐待について昨年度に受けた相談は約4万3千件と過去最多になった。10年前の6倍だ。わが子に暴力を振るったり養育を放棄したりする親の多さに、心が凍る思いだ。

 児童虐待防止法は、00年の施行以来、段階的に相談所の権限を強めてきた。04年からは裁判所の承認があれば、保護者の同意なしで子どもを施設に入所させられるようになった。昨春からは、父母らが話し合いに応じない場合、裁判所の許可を受け、錠を壊してでも家に立ち入れるようになった。

 強制立ち入りは昨年度で2件あった。東北地方の例では、小学校低学年の女の子が保護された。学校に全く通っていなかったが、施設に入って2カ月でひらがなの読み書きができるようになった。父母もその後、攻撃的な態度をやわらげ、施設入所に同意した。

 この相談所は女の子の家族に数年間接触していたが、面会すら出来なくなったことから強制立ち入りを決断した。警察の指導で予行演習もした。

 「実力行使をすると、保護者と関係が悪くなることが多い。できるだけ避けたいが、子どものため苦渋の選択をした」と所長は話す。

 だが虐待を受けた子が後遺症から回復するには、施設も十分な環境とはいえない。全国的に施設は満杯に近く、地域によっては定員を上回る。心に傷を負った子らに集中的に対処できる治療施設は全国で31カ所しかない。

 多くの子が入る養護施設では、心理職や児童精神科医など専門家の大幅増が必要だろう。児童相談所の児童福祉司らは1人で100件ほどを担当している。欧米の倍以上だ。この10年で職員数が増えているとはいえ、件数の急増には追いついていない。

 親と引き離して保護するだけでなく、親子が再び一緒に暮らせるようになるまで支援を続けることが重要であることは、言うまでもない。親たちが抱える家族や貧困などの問題を探り、解決する社会的努力も不可欠だ。

 心中以外で死亡した事例を見ると、3歳までの子が8割で、ゼロ歳児が半数近い。母親が望まぬ妊娠をしていたり、精神的に問題があったりすることが多いという。

 虐待の予防策として各地の自治体が、赤ちゃんが生まれて4カ月以内に全家庭を訪問する事業を始めている。育児の不安や悩みを聞き、NPOや福祉事業、病院などにつなげる目的だ。この態勢を妊娠期から始めれば、より効果的だろう。

 問題を抱えた若い親を地域のネットワークで見守り、傷つく子を一人でも減らしたい。

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