高速道路料金が上限1000円となり、初の「お盆休み」となった今月8日、山陽道三木サービスエリア(SA)の駐車場には他府県ナンバーの乗用車がひしめき合うように並んだ。エリア内のガソリンスタンドにも数十台の車の長い列。「いくら車をさばいてもきりがない」。臨時で派遣された交通誘導の整理員は、額の汗をぬぐいながらぼやいた。
西日本高速道路によると、都市部を除く交通量は値下げ以降、約3割増加。SAの売り上げも好調で、近畿2府4県では5~7月、前年比5~10%増を記録した。三木SAでレストランやお土産ショップを経営する株式会社ダイナックは7月からアルバイトを8人増やし、土日はバイトの時給を50円アップ。同社の伊藤雅章店長は「過去最高の売り上げが今夏は期待できる」とそろばんをはじく。
だが、値下げを歓迎する声ばかりではない。神戸と四国を結ぶ神戸淡路鳴門自動車道の通行量は、値下げ以来、平均25%増、土日祝日は50%アップしたが、「素通りする車も多く、効果は今ひとつ」と嘆くのは淡路島の観光業界。距離に関係なく高速料金が決まっているため、淡路島のインターを下りず四国まで車を走らせる客が増えているという。「地域経済の活性化につながっていない」と指摘する行政関係者もいる。
明石市と淡路島を結ぶ明石淡路フェリー(たこフェリー)は深刻な経営危機に陥っている。客足が遠のき、今年の大型連休(4月25日~5月6日)の輸送実績は前年同期の約半分まで減った。社員88人の給与をカットし、年2回の賞与を見送ったが、すでに乗組員の3分の1が退職。社員からは「同じ民間会社なのになぜ高速道路だけが優遇されるのか」と不満がくすぶる。
淡路市は総合防災計画で、たこフェリーを震災時における「代替輸送手段として重要」と位置づける。だが、現在大きな打撃を受けているたこフェリーへの支援については「市の財政に余裕がなく、たこフェリーを観光コースに組み入れるなど側面的な応援しかできない」(市まちづくり政策課)と話すにとどまる。
自民党の「上限1000円」に対し、「無料化」を公約に盛り込む民主党。公明党も「さらなる値下げ」を掲げる。利用者にはメリットが多いが、車を使わない人はもちろん他の交通機関や観光地への影響は大きい。不公平感が残るなか、高速道路のあり方とともに、有権者の選ぶ力が問われている。
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各党のマニフェスト(政権公約)がこれまで以上に注目を集める選挙戦。兵庫の課題にマニフェストはどう応えようとしているのか。現場を取材した。
〔神戸版〕
毎日新聞 2009年8月12日 地方版