「日本版FCC」なんていらない - 池田信夫
2009年08月26日11時42分 / 提供:ニュースブロガー
アゴラ
自民・民主ともIT政策には興味がないようで、マニフェストにもほとんど書かれていません。しいていえば、民主党が政策インデックスで「日本版FCC」の創設をうたっているのが目につく程度です。これはアメリカの対日要求にも毎年出ており、民主党も以前から何度も法案を提出してきました。OECD諸国では、通信・放送を独立行政委員会で規制していないのは日本だけになり、創設は当然のことと思われます。しかしこれには総務省(旧郵政省)が強く反対してきました。橋本内閣で始まった省庁再編のときも、1997年の行政改革委員会の中間答申で「通信放送委員会」の創設が決まったにもかかわらず、郵政省が族議員を使ってひっくり返し、郵政省は自治省と合体するという奇妙な再編が行なわれました。このときは、行革会議の事務局が通産省に支配され、郵政省の産業振興部門を通産省に吸収する「焼け太り」構想に郵政省が反発した面が大きかったのでしょう。
民主党の政策インデックスでは、こう書かれています:
通信・放送行政を総務省から切り離し、独立性の高い独立行政委員会として通信・放送委員会(日本版FCC)を設置し、通信・放送行政を移します。これにより、国家権力を監視する役割を持つ放送局を国家権力が監督するという矛盾を解消するとともに、放送に対する国の恣意的な介入を排除します。また、技術の進展を阻害しないよう通信・放送分野の規制部門を同じ独立行政委員会に移し、事前規制から事後規制への転換を図ります。
しかし独立行政委員会にしても、「国家権力を監視する役割を持つ放送局を国家権力が監督するという矛盾」はなくなりません。独立行政委員会も政府機関であり、FCCも強力な官僚機構です。日本でもGHQによって電波監理委員会がつくられましたが、そのスタッフは郵政省から送り込まれており、占領体制の終了とともに郵政省に吸収されました。金融庁も大蔵省から分離されましたが、実態は「第2財務省」に近く、人事交流も復活しています。
欧米諸国で放送規制が委員会組織になったのは、官庁の幹部に政治任用が多く、時の政権が放送局(特に国営放送)に影響力を及ぼすことが多かったためです。日本にはそういう政治任用はほとんどなく、露骨な言論介入が行なわれたこともあまりありません。むしろ問題は、放送局が官庁に政治的影響力を及ぼして周波数オークションなどの改革を妨げてきたことです。
そういう官民癒着が、独立行政委員会になったらなくなるという根拠はありません。アメリカの大物ロビイスト、Peter Huberは「FCCはAT&Tには電話線を、テレビ局には電波を独占させる結託を行なった。携帯電話の特許は1940年代に成立していたのに、FCCがテレビ局を守るために電波を開放しなかったため、移動通信の進歩が半世紀おくれた」と批判しています。
90年代にFCCは、携帯電話には周波数オークションを行なったのにテレビ局には無償で電波を割り当てました。この結果、テレビ局には有効利用のインセンティブがないため、デジタル放送は行き詰まりました。当時のFCC委員長リード・ハントは「テレビ局に電波をプレゼントしたのは、私の在任中の最大の失敗だった」と回顧しています。
私はかつて放送局に勤務していましたが、率直にいって今の放送局の「表現の自由を守れ」という類の話には、まったく共感できない。彼らがそういう主張をするときは、ほとんどの場合、業界の既得権を「文化」の名において擁護しているにすぎないからです。だいたい民放の放送している番組に、表現の自由を守るに値するものがどれだけあるのか。もうテレビやラジオだけを特別扱いして「表現の自由」という名の既得権を守る時代ではない。
最近の「法と経済学」の研究も示すように、問題は官庁か委員会かではなく、行政か司法かということです。経済活動を行政の許認可によって行なうのではなく、原則自由にして当事者の申し立てがあった場合にかぎって紛争を司法的に処理するほうが成長率が上がる、というのが多くの研究の結論です。紛争処理にかかるコストは規制より大きいが、行政の介入によって経済活動がゆがめられる社会的コストよりはるかに小さい。
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