平成20年 開港150周年事業推進特別委員会 行政視察概要
開港150周年事業推進特別委員会(平成21年1月22日〜1月23日)
1 滋賀県大津市
源氏物語千年紀in湖都大津事業について
2 滋賀県彦根市
井伊直弼と開国150年祭事業について
1 滋賀県大津市
- ○対応者
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市議会事務局長(受け入れあいさつ)
産業観光部観光振興課柳が崎湖畔対策室副参事(議会事務局で説明)
大津商工会議所中小企業相談所次長(議会事務局で説明)
源氏物語千年紀in湖都大津事業について
<事業概要>(配布資料より一部抜粋引用)
・ 全体概要
2008年は源氏物語が記録上確認されてから1,000年を迎える機会をとらえ、京都を中心に様々な記念事業を展開した。この源氏物語千年紀in湖都大津事業はそのうちの一つ。
・ 実施時期
2008年3月18日から12月14日まで。
・ テーマ
源氏物語の生まれたまち大津・滋賀〜紫式部が見た淡海の風情。
・ コンセプト
石山詣の復活。「千年後に伝えよう」紫式部からのメッセージ。
・ 場所
石山寺(主に)、大津市内源氏物語ゆかりの地。
・ 主な事業
「源氏夢回廊」…源氏物語ゆかりの品々が納められた石山寺の「世尊院」「明王院」「密蔵院」を主な会場として事業展開。
ア 世尊院
(ア)日本刺繍による「源氏物語展」。平安王朝の衣装を飾る日本刺繍。源氏物語54帖の画面と和歌を再現した掛け軸の展示など。
(イ)吉岡幸雄衣裳展示「源氏物語の色〜千年を超えて」。
(ウ)紫式部・千年の恋館:映画「千年の恋 ひかる源氏物語」から紫式部に焦点をあてた展示内容。
イ 明王院
田辺聖子源氏物語文学館。
ウ 密蔵院
未来千年館:ロボットクリエーターの第一人者、高橋智隆氏製作のロボット「MURASAKI」の展示など。
<質疑概要>
Q:実行委員会形式での行政と民間の役割分担について。
A:役割分担は明確でなかった。実行委員会を立ち上げたものの、役員それぞれ本業の仕事があり、片手間ではできる事業ではなかったので苦労した。専従の役員が必要だった。
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石山寺
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Q:PRについて。
A:パンフレットを印刷した。地元の旅行会社やJRでパンフレットを配布。新聞広告は高額なので、ホームページなどネットPRの充実が必要だった。テレビや新聞で記事として掲載されるのが一番効果的で、テレビ中継は3回行われた。マスコットキャラクターでの地元PRも行った。
Q:集客効果はどのくらいあったか。
A:石山寺の駐車場利用状況から判断すると3割増。「源氏夢回廊」パビリオンでは目標の15万人を突破。1日あたり平均は558人。5〜6月は第二名神高速道路開通効果で300〜600人/日だったが、7〜8月は減少した。秋は観光シーズンなので京都に来る人も多く、入場者数は増加。しかし、テーマが家族向けのものではないので集客には苦労した。
高橋クリエーターによるロボット「MURASAKI」のイベント(7月26日〜12月14日)は、47都道府県全てからの集客があった。
Q:課題や反省点など。
A:実行委員会が立ち上がったのが7月19日で、3月18日のオープンまでの期間が非常に短く、企画について十分な議論が出来ないまま事業実施となってしまった。報道、PR対応の未熟さを実感させられた。ホームページなどの充実が必要。キャラクターグッズの販売なども、商品を置ける場所が少なかった。地元商店街などの協力をあらかじめ得ていないと難しい。
Q:一過性のイベントとして終わらせないために、今後どうしていくのか。
A:本事業を通して、地元の者でも知らなかった「ゆかり」の地があることが分かった。琵琶湖の生き物や植物なども新たに知ることができた。地域、全国へ発信していきたい。本事業で発売したプリン、せんべい、お酒などは今後も販売につなげていきたい。

マスコットキャラクター 「おおつ光ルくん」他、観光グッズ
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Q:京都のお客さんをどう引き入れていくか。
A:キャラクターの知名度を上げるのが一つ。
琵琶湖の朝は素晴らしいので、ぜひ大津に宿泊してもらいたい。源氏物語は学校で勉強しているので、修学旅行ツアーなどをターゲットにすれば大人になってから再度訪れてくれるだろう。そのために、安価で提供できる団体客用の施設も用意できるようにしたい。
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<委員所見>
大津市は京都に近いことが利点にも欠点にもなっている。京都から急行で10分ほどのこの町では、いかに京都を訪れる観光客を呼び込み、宿泊滞在をしてもらうかが課題となっている。この点においては、規模は違うが国際的大都市東京の近隣市としての横浜と立場は似ている。京都への修学旅行者の滞在先としてPRしたいという大津市の戦略は横浜市でも参考になるだろう。
本事業は実行委員会が中心となって実施したということだが、構成委員は皆、本業も忙しく、誰が何をするかということが決められていなかったことが大きな問題点であったようだ。行政と民間とのコーディネート役、または、リーダーとなり得る専従職員が必要であり、それぞれの役割分担も明確にすることが大切である。横浜市の開港150周年記念事業も、様々な民間団体等による大小の催し物・イベントから成り立っており、利益や損失、責任の所在などをあらかじめしっかりと取り決めておく重要性を実感した。
行政と民間の事業に対する認識・期待の違いも、注意しなければならない。「企業はお金がメーンである。いくら市民のためだからと言われても赤字になるようなものはできない。」というお話は、理想と現実の間の実情である。このギャップを埋めるための仕組み作りが官民連携事業を成功させる上での要となりそうだ。
報道・PR対策の大切さも学んだ。担当の方々からは彦根市のマスコット「ひこにゃん」企画と比較してのお話を多く伺えた。マスコットキャラクターの人気が集客に結びつき、ネットやブログを利用して若年層の関心を集めることでイベントのPR効果が高まるということを両市の比較で知り、翌日訪問予定の彦根市では成功の秘訣を伺いたいと思った。
大津市役所内で、上記担当の方々と約2時間、説明・意見交換の時間をとっていただき、その後、石山寺を視察した。今回お聞きできた本音のお話は非常に参考となった。
2 滋賀県彦根市
- ○対応者
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彦根市企画振興部副参事(会議室で説明、視察先で案内)
井伊直弼と開国150年祭について
<事業概要>(事業計画より抜粋引用)
・ 主催
井伊直弼と開国150年祭実行委員会。
・ 開催期間
平成20年6月から平成22年3月まで。
・ 開催場所
彦根城域一帯および市内全域。
・ 基本理念
新たな「直弼」像の発信。
・ 事業の基本的な考え方
ア 槻御殿での誕生から、桜田門外で花と散るまでの直弼の全生涯を振り返りながら、「井伊直弼」という人物の素顔に迫り、新たな直弼像を彦根の地から発信する。
イ 文化人としての直弼に光を当て、文化的な人間像と直弼につながる彦根文化を次世代に継承する。
ウ 国宝・彦根城築城400年祭で培われた、市民の高い参加意識と実行力を糧としながら、引き続き新たな彦根の文化・魅力を創造する契機とする。
エ 開国、開港を軸にゆかりの地域や人との連携、交流を深めると同時に、開国から今日までの150年を振り返る。
・ 事業の趣旨
日米修好通商条約締結150周年を記念して、日本を開国に導き、開港により諸外国との交易・交流の門戸を開いた、彦根藩主井伊直弼という人物を再評価し、また、政治の表舞台だけでなく、文化人としての側面や生いたちを紹介するなど、新たな直弼像を彦根から発信する。
・ メーンキャラクター
国宝・彦根城築城400年祭のキャラクターとして登場し、閉幕後彦根市のキャラクターとなった「ひこにゃん」がこの記念事業でも活躍する。
<質疑概要>
Q:キャラクター「ひこにゃん」について。
A:築城400年祭の開催を市民・全国に発信するためデザインコンペを行ったところ、10社の応募があった。井伊の赤備えのかぶとをかぶった猫。彦根2代藩主井伊直孝を手招きして、雷雨から救った招き猫がモデル。
愛称「ひこにゃん」は市民募集の結果決定。彦根市内365人、滋賀県内(彦根市外)141人、県外(東京・大阪・愛知・神奈川ほか)660人が応募。
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マスコットキャラクター 「ひこにゃん」年賀状
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Q:経済波及効果について。
A:「ひこにゃん」効果が大きいと考えられる。400年祭開催期間(250日間)の観光消費額は174億円と推定。平成16年彦根市GDP(4,936億円)の3.5%、滋賀県GDP(5兆8,936億円の0.3%に相当する額。また、これによる経済波及効果総額は338億円、雇用効果は2,872人と推計。これは彦根市総生産の7%、彦根市労働力人口の5%に相当する。400年祭の事業費は5億2,000万円。
Q:新たな集客の施策について。
A:「ひこにゃんパスポート」の購入で5施設の通常料金1,600円を1,000円に。他、26施設で特典・割引あり。
江戸東京博物館で「近江みちの国講座」井伊直弼と開国150年祭歴史講演会などを開催。東からの集客もねらう。
JRとのタイアップ。季刊「ひこにゃん」などの発行で情報発信。

彦根城 天守(国宝)
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Q:課題や反省点など。
A:イベントなどで事故が起こらないような安全性の確保。例えば昨年10月に行われた「ゆるキャラまつり」ではイベントに来た人が多すぎて、警察の協力を受け、警備員を動員せざるを得なかった。
彦根市のイベントには「ひこにゃん」が登場することになっている。実際のイベントそのものより、「ひこにゃん」を見に来る人も多い。イベント主催者としては複雑な気持ちだ。
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<参考情報・委員所見>
人口約11万人という決して大都市ではない彦根市が近年全国的に注目を集めたのは、彦根城築城400年祭キャラクター「ひこにゃん」が大人気となったことによる。その集客力・経済波及効果への影響は前述の通り。その後、彦根市のマスコットキャラクターとなり、現在では他都市イベントへの応援にも出張し、その際のグッズ販売だけでも毎回数十万円の収益を上げている。「城」という大人が興味を持ちそうなテーマであるものの、若年層をターゲットにしてキャラクター展開を図ったところに、家族連れ観光客の集客成功の秘訣があった。
若者の心をつかむため、ホームページの活用、「ひこにゃん」ブログの立ち上げなどでPR。グッズも充実させた。彦根城に住んでいるということから、特別住民票も交付されており、「ひこにゃん」あてに手紙も届く。今年も年賀状が数千通届き、「ひこにゃん」からの年賀状の返事が来たということでネット・個人ブログなどでもまた話題となる。こうした企画には若手職員の活躍も見逃せない。
キャラクター設定は綿密に行われ、着ぐるみの中のキャストは徹底したプロ意識を要求される。ディズニーランド同様、「ひこにゃん」は同一時に一箇所にしか現れないことになっている。例えば、東京でのイベントが10時から12時まであった場合、彦根市でのイベント出演は12時以降でないと現れないなど、「ひこにゃん」は一人しかいないという設定を崩さない。
また、「ひこにゃん」着ぐるみのキャストは「しぐさ」や「態度」は統一させているため、どのキャストが担当しても同じ「ひこにゃん」を演じることができる。舞台裏で他都市のキャラクターが着ぐるみを脱いで休んでいても「ひこにゃん」は決して素顔を見せなかったそうだ(他都市職員からの話による)。
マスコミ・PRに力を入れている。PRといっても広告料を支払ってのものでなく、いかにテレビ放映などに取り上げてもらうかを戦略として考えている。彦根城も撮影で何度も使われているとのこと(彦根城としての登場でないことも多いが)。撮影による利用料などは徴収しておらず、PR効果を期待。
今までのお役所発想とは違う感覚の企画である「ひこにゃん」登場で町じゅうが活気を得たようだ。ふるさと納税制度のPRでは「きれい好きのひこにゃんを、いつもふわふわで真っ白に保つための……」等と、ファンの心に響くフレーズで寄附を呼びかけている。
著作権関連のトラブルなども経験したとのことだが、職員が力を入れて次のイベントに向けて取り組んでいる様子が伺えた。
彦根市役所内での説明をお聞きした後、彦根城の視察へ出発。開国記念館、井伊家に伝わる美術工芸品や古文書を収蔵する彦根城博物館を視察し、国宝彦根城内へ。視察担当者の方からは城や町、事業の詳細を伺った。午前10時から12時までの視察予定であったが、結局午後1時過ぎまでご案内いただき、最後に昼食場所やお土産店などをご紹介くださった。その担当者のお話からは他の職員の活躍ぶりなども伺うことができ、マスコットキャラクターの人気だけではなく、そこで働く職員の熱意も事業の成功につながったものだと感じた。