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平和をたずねて:対話編 フリーライター、評論家・安里英子さん/7

 <福岡賢正>

 ◇人を殺しても壊れぬ心求めた果てに 鏡像としての攻撃性

 福岡 95年に沖縄の小学生を強姦(ごうかん)した米兵の一人は帰国後、女子大生を強姦して殺した揚げ句、自殺したそうですね。

 安里 彼らは徹底的に人殺しの訓練を受けてますから。そうやって戦場に送り込まれた兵士が帰還後にまともに生きられない現実もあるでしょ。

 福岡 デーヴ・グロスマンという元陸軍将校の心理学者が書いた「戦争における『人殺し』の心理学」という本が話題になりましたが、人間ってなかなか人を殺せないんですね。第二次大戦の時には、米兵の2割弱しか敵兵に向かって発砲していなかったそうです。それで、躊躇(ちゅうちょ)せず条件反射的に発砲するよう心理学的知見を使って訓練法を改善した。結果、ベトナム戦争では発砲率が9割を超えたらしい。でも本来殺せない人をどんどん殺すんだから当然……。

 安里 心が壊れる。

 福岡 そこで今度は人を殺しても心が壊れぬようにするにはどうしたらいいか追究するわけ。グロスマンは続編「『戦争』の心理学」でその成果をまとめています。

 安里 心が壊れた人間をどう回復させるかじゃなくて? そりゃおかしいよ。人を殺しても平気な人間を作るなんて。それは壊れているんです。

 福岡 その本によると、訓練と教育と事後の対応次第で、人を殺しても心に傷を負わずに済むようです。でもそんな筋金入りになると戦闘を避けたいという気持ちは弱まり、実戦で腕を試したくなるらしい。それに生死をかけた戦闘後には性欲が非常に高まるんだそうです。だから身につけた戦闘技術を日常生活で使わないよう「安全装置」として鉄の規律を体に覚えさせるんだと。時に暴力的な手段も使って。

 安里 それじゃあ時々羽目を外さないとやってられないよね。街は兵士にとってレクリエーション施設なんです。無人島に基地はできない。兵士がもたないから。歓楽街があったり、女がいたりしないと。結局、軍隊があれば事件は起きるんですよ。どんなに地位協定を改定しても防げない。だから私たちは米軍だけでなく、自衛隊も含めて基地や軍隊のない島を目指しているんです。

 福岡 でも政府が考えているのは逆ですね。与那国島に自衛隊を配置しようとしたり。

 安里 町長が誘致に積極的でね。与那国みたいな離島は合併できないし、交付税は削られる一方。そこに自衛隊が来れば交付金が出ますよと誘導する。与那国では7、8年前から海上自衛隊の艦艇が時々島に寄港し、乗員を島に滞在させる形で島民を自衛隊に慣らす作業も行われています。

 福岡 右派の論客は、沖縄の米軍がなくなればあっという間に沖縄は中国の制海圏に入ると言いますね。与那国の話もその論理から来たんでしょう。でも、攻撃性って鏡像という側面もあるでしょ。相手だけに攻撃性があると思いがちだけど、実は相手の攻撃性はこちらの攻撃性への反応だったり、投影された姿だったり。軍拡競争が始まると際限がなくなるのはそのせいです。

 安里 だから私たちは基地を移せなんて言いません。基地をなくせと言うんです。軍隊をなくさない限り、不幸は消えない。どこに移してもブーメランのように戻ってくる。これは理想論でも何でもありません。実感なんです。私たちの。=次回は26日掲載予定

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 ■人物略歴

 ◇あさと・えいこ

 1948年、那覇市生まれ。沖縄の村落や島々を訪ね歩き、草の根の自治や相互扶助の仕組み、伝統的な信仰の世界などを紹介する一方、女性の視点で基地や平和問題に対し発言を続けている。著書に「沖縄・共同体の夢」「揺れる聖域」「琉球弧の精神世界」「陵辱されるいのち」など

毎日新聞 2009年8月12日 西部朝刊

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