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困った会社見本市

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社長は日頃の行いより「目利き」が重要な件

2009 / 8 / 24

 景気が悪いのが当たり前になってくると、「経営者の役割とは何か」について、どうしても浅薄に語られやすくなってきます。例えば景気の悪い会社で順番に人を切っていくじゃないですか。そうすると、世間は「そんな簡単に社員をクビにする会社はけしからん」とか、企業の社会的責任の部分を強調して、わいわい騒いでくる。

 経営者が「そうは言っても業績が悪くてカネがないんだよ」と言っても誰も聞く耳を持ってはくれないわけですね。日本人の中で「職業:社長」は絶対少数なのだから仕方がない。でも日本経済が悪くなったのは、日本企業の経営者の質が低いからだ、といった観念論が支配的になってしまって困りものです。

 もっとも、社長という職業は、人に嫌われることに耐えられなくては務まらないし、資金繰りのような考えただけで血の気が引くような体験を何度も乗り越えて成長する存在でもあります。今回の不況も、ふと自分の会社の経営に立ち返って考えたとき、売り上げが激減してかかってくる電話が少なくなり、ようやく生き残るための頭脳がフル回転し始めた経営者も多いんじゃないかと思うわけです。

 私が個人的にお付き合いのある、自称「大きな町工場」の社長は、景気の良いときは銀座で飲み歩いて愛人にマンションを買ってやるような“古き良き社長”の典型で、税金対策と言っては会社の金で外車を買い換えたり、今夜は100万円使ったとか自慢話ばかりする困った御仁でした。元気なときは正直付き合ってて面倒くさいことこの上ないので、「早くこのおっさんの会社が倒産しないかな」と不謹慎なことを仲間内で語り合うほどでした。

 ところが、いざ売り上げが急減して社員の生活が守れなくなりそうだと感じた途端、愛人とは別れる、飲みには行かなくなる、昼飯は割り勘とすっかり人が変わりました。経営にまじめに向き合うようになり、この社長の会社はどっこい今も健在なわけです。

 こうした、いざというときに頼りになる社長の共通点は、「目利き」がうまいことです。商品やサービスに対する目利きはもちろん、景況感や取引先の信用度など、すべては目利きによって回っているのが商売です。

 この目利きの力こそ、生き残っている経営者とつぶれて消えていった経営者との分かれ目のように思います。

 売り上げが急減して資金繰りが窮しつつある会社で、経営者が自ら「目利き」を発揮し、社員に率先して営業先回りを始めるか、幹部を集めて会議を連発して足が止まるかでまず生死が分かれます。自信と行動に裏打ちされた目利きのできる経営者に率いられた企業だけが、不況下に売り上げを維持できているのだと思います。

(注:本コラムは日経ベンチャー2009年4月号からの転載です)

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プロフィール

山本 一郎 やまもと いちろう

イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。父親が抱えた負債を返済するため学生時代から株の個人投資を始め、ゲーム制作や投資事業などを手掛ける会社を起業。ブログなどで経済・時事問題に関する批評を展開し、インターネットでは「切込隊長」と呼ばれるカリスマ的存在。著書に『ニッポン経営者列伝 嗚呼、香ばしき人々』(扶桑社)、『けなす技術』(ソフトバンククリエイティブ)など。


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