2009年08月24日 (月)時論公論 「深まらぬ政策・財源論争」

(藤井キャスター)

衆議院選挙の投票日まであと6日となり、各党は政策をめぐる激しい論戦を繰り広げています。

しかし、政策の具体化やその裏付けとなる財源をめぐる議論はなかなか深まりません。

今夜はこの問題について板垣解説委員です。

 

(響かぬ政策論争)

各党の激しい舌戦が耳に痛いほど響きますが政策の実現性をどこまで信用していいのか、どうもはっきりしないという声をよく耳にします。

その大きな要因は、政策実行の裏付けとなる財源が、はっきりしないことにあります。

先進国で最悪の財政状態の中、まとまった財源を見つけるのはそう簡単ではありませんが、財源が担保されない政策は、まさに絵に描いた餅です。

そこで、今夜は、各党の政策が抱える問題点や政策実行の際に重要な財源問題を検証し、課題を考えて見ます。

 

 

(大盤振る舞いの構図)

さて、今回の衆院選挙は世界経済や日本経済の景気回復が遅く、国民生活が厳しいことなどから、財政出動の大盤振る舞いが目立ちます。

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具体的な政策を見ますと、◆まず、少子化対策や教育予算では、与党は幼児教育の無償化などを打ち出しています。

これに対し、民主党は、子供一人当たり、月2万6000円の子供手当を中学卒業時まで支給するとしています。

これについて他の野党は、子供手当には基本的に賛成ですが、共産党が配偶者控除の廃止などで財源を作ることには反対、社民党と国民新党は、手当の額を少なくし、その分、保育所などの施設整備を充実させることなどを主張しています。

j090824_11.jpgまた、◆社会保障政策については、与党側は社会保障費の伸び率の抑制を撤回し、年金・医療・介護を手厚くする方針です。

これに対して、民主党は、消費税を財源として高齢者が月7万円以上受け取れる最低保障年金制度を導入するとしています。

これについて国民新党と社民党はおおむね賛成しています。

共産党は最低保障年金の創設は必要だが、財源を消費税にすることは問題だとしています。

j090824_12.jpg一方、◆焦点となっている消費税の増税については、与党側は、景気が回復した後に引上げを実施するとしています。

しかし、民主党は、今後4年間は引き上げずに、無駄の排除などを行って財源を捻出するため、当面は消費税を引き上げないとしています。

これについて、他の野党は、消費税の増税には反対です。

j090824_13.jpg一方、◆関心の高い高速道路の割引や無料化の提案も大きな財源が必要な政策です。

与党は、地方の高速道路の料金を休日やお盆の時期などに、上限1000円にすることを期限付きで実行しています。

しかし、公明党は、この割引を恒久化すべきだとして意見が分かれています。

一方、野党の民主党は、高速料金を原則無料にすることを約束しています。

しかし、これについて共産党は、料金を軽減するよりも社会保障を充実すべきとしています。

また、社民党は税金に頼った料金の引き下げは、他の交通機関との公平な競争を阻害すると指摘しています。

そして、国民新党は値下げは必要だとしながらも無料化には慎重で、野党の足並みは揃っていないのが現状です。

このように、各党の政策は、政策の是非はともかく、増税にしろ歳出削減にしろ、財源が確保できるかが大きな争点だと言えます。

さて、それでは、政策と財源の関係を見るために高速道路政策を取り上げて、さらに詳しく検証して見ます。

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(高速道路割引と無料化の是非)

j090824_21.jpg高速道路政策について、与党側はすでに料金の割引拡大策を実施し始めました。

2011年3月までの2年間、大都市圏をのぞき土日祝日の上限料金を1000円にすることや、それ以外の深夜割引などを実施しています。

この割引のコストはおよそ3兆円で、すでに税金を投入しています。

j090824_22.jpg一方、民主党は、来年度から大都市圏を除く高速道路の料金値下げを段階的に実施し、3年後には原則無料にします。

そのために国は道路各社の借金を全額肩代わりし、今後60年間、毎年1兆3000億円の税金を投入します。単純に計算しますと、税金投入は78兆円です。

それでは、この双方の政策をどう考えるべきでしょうか。

景気が悪い中、料金の割引や無料化は、マイカー族や運送業界にとっては大きなメリットがあります。

また、結果的に商品やサービス価格が安くなる効果がありそうです。

しかし、車の利用が高まれば、今のガソリンエンジン主体の車では、環境の悪化を招きかねず、世界の環境政策にも逆行します。

また、大渋滞が起きかねません。

更に、受益者負担の原則が崩れ、国民全体で負担をかぶるといった多くの問題を抱えています。


(高速割引・無料化か社会保障充実か)

それでは、財源はどうでしょう。

j090824_24.jpg民主党などは財源を特定していませんが、多くの人が思い浮かべるのは旧道路特定財源です。

道路建設のためにガソリン税などを集めた旧道路特定財源はすでに一般財源化されたので、国と地方合わせておよそ4兆9000億円の財源が自由に使えるようになりました。

しかし、その財源の多くを料金の割引きや無料化に利用することには様々な議論があります。

そもそも、旧道路特定財源を一般財源化したのは、最も財源が必要な年金・医療など社会保障関係費を手当することでした。

j090824_23.jpg現在、社会保障関係費は24兆8000億円で、消費税の総額10兆円以上を投入しても足りないので、他の税金で何とか穴埋めしているのが実態です。

しかし、財源不足は否めず、年金不安や医療崩壊、それに介護現場の低賃金と問題が噴出し更なる財源の確保が急務となっているのです。

こう考えますと、料金の割引や無料化のために、大きな財源を使うべきかどうか、もう一度きちんと議論する必要がありそうです。

 

(かすむ財政再建の視点)

さて、最後に、極めて重要な問題なのに衆議院選挙で議論が深まらない財政再建の取り組みを考えてみます。

国と地方合わせた借金は、800兆円を超える異常事態で、もはや無視できないからです。

j090824_3.jpgこれについて、与党側は、今は景気対策など成長戦略を続ける一方、不必要な歳出を削減し、景気が回復した後に、消費税を増税し財政再建をめざすとしています。

しかし、金融危機で景気対策を膨らましたため、財政再建の第一段階の目標は当初の計画から8年も先送りされ2019年までに達成することに変更しました。

しかも、景気後退が長引けば、この計画すら更に先送りされる可能性があります。

一方、民主党は、無駄な補助金や公共事業の削減を行う一方、配偶者控除の廃止などの実質増税を行う方針ですが、そこで出てきた財源は、子供手当など新たな政策に全額使う方針です。

つまりは、そこには年々増加する借金を減らす財政再建の視点はあまりありません。

また、民主党は、財政再建計画について、政権を取ったら作成すると説明しただけで、議論は一向に深まりません。

与党のように再建策を練る十分な内部データを揃えるのが難しいのもわかりますが、政権選択選挙と言うのであれば、やはり何らかの目標を示す必要があるように思います。

財政再建計画の信用性がいよいよ薄まってきた与党と、計画を提示できていない民主党、これでは、有権者にとっては、投票の重要な判断材料が欠落していると言わざるを得ないのではないでしょうか。

 

(まとめ)

これまでの選挙戦を振り返りますと、各党の政策の中には、出来るだけ財源を明らかにしようという努力の跡もうかがえます。しかし、なお不十分です。

財源の裏付けのない政策は、国民にしてみれば、世界同時不況という危機を免罪符に、選挙での集票を狙った、いわばばら撒きにも見えます。

選挙戦も残すところあと6日。

政策に具体性をもたらし、その政策の是非まで問いただす財源論争を各党は徹底して行い、国民に問いかけてほしいと思います。

投稿者:板垣 信幸 | 投稿時間:23:52

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