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【09総選挙 静岡ニュース】「選択の焦点」識者に聞く(2) 静岡大教育学部教授 笹沼 弘志さん2009年8月25日 職住確保 国の責任で−昨秋来の不況で厳しい雇用環境が続いている。 4年前の郵政選挙の時には、労働者派遣法の改正で製造業への「派遣」が認められ、派遣切りという大量解雇が起こる諸条件が整っていた。にもかかわらず企業が成長して豊かになれば、貧しい人たちも豊かになるという構造改革路線が結果的に支持され、今の事態を招いた。 −衆院選マニフェストに派遣切り対策はわずかしかない。 年越し派遣村は、たまたま政党間の対立の中で注目されたが、衆院選は「政権交代」という方向に向き、大政党が「貧困」というテーマを利用する必要がなくなったのだろう。多くの非正規労働者は生活を支えるのに精いっぱいで政治的発言をする余裕さえない。 −県内の派遣労働の実態は。 県西部では、日系ブラジル人をはじめとした定住外国人が、派遣切りで生活困窮している。せっかく自宅をローンで建てても手放さなければならないなど大きな問題がある。 −10年前から、野宿者の自立支援活動に取り組んでいる。 静岡市内で野宿者が多かったのは2000〜04年ごろで約130人。現在も市の中心部だけで約30人。野宿を脱するには生活保護以外ないのに、行政は「働こうとしない者は保護しない」との考え方だ。解雇されて長い困窮が続き、働く意欲を奪われた人がいても不思議はない。生活保護の趣旨からいえば、住居を確保し、働く意欲、生きる希望を回復することが先決だ。 国は雇用の非正規化を後押しし、企業中心の社会保障・福祉制度の弱体化を進めた。大人が生きにくい中、子どもたちも将来の夢や希望を持ちにくい。 −今、何が一番求められているのか。 最低限の生活条件を壊して成長はあり得ない。経済的困窮が政治への関心を失わせたり、安易な選択をさせたりして、結果的に民主主義が掘り崩されてしまう。貧困で住居を確保できない人が、選挙権を行使できない現実もある。市民としての基盤である住宅を支えるセーフティーネット、例えば公的な住居契約保証制度の確立が必要だ。 −新しく選ばれる議員に望むことは。 国の責任で雇用を確保し、公的住宅保証制度を確立すること。あとは社会保障・福祉制度を外部評価する仕組みづくりだ。企業の内部告発の保護と同様に、行政、特に福祉行政の利用者評価制度をつくってほしい。保護からの排除をなくすだけでなく、無駄遣いをなくす効果もある。 ささぬま・ひろし 憲法専攻。「野宿者のための静岡パトロール」事務局長として野宿者支援に取り組んでいる。著書に「ホームレスと自立/排除」(大月書店)、「リアル憲法学」(法律文化社)。48歳。
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