牧太郎の大きな声では言えないが…

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

牧太郎の大きな声では言えないが…:「他人の不幸」は、みつの味

 アイドル→ママドル→いつしかシャブドル。絵に描いたような覚せい剤常用者?酒井法子容疑者の「転落の軌跡」。それが見たい!

 そこでワイドショー視聴率はうなぎ登り。いささか不謹慎な見方で恐縮だが、「子どもが可哀そう!」と同情を装いながら“他人の不幸はみつの味”とばかり、お茶の間では推理に余念がない。

 警察庁長官が「芸能界関係者は薬物事犯を一掃するよう、再発防止に真剣に取り組んでほしい」とコメントして「酒井容疑者に実刑を!」と主張する有識者まで現れた。

 別に異論を挟むつもりはない。が、コトはそれほど単純ではない。判例では、薬効がある約0・03グラム以上持っていなければ覚せい剤を所持したことにならない。今回の0・008グラムは微妙だ。髪の毛の陽性反応を支えに、夫の高相祐一容疑者が所持していたブツを一緒に使用していたことを証明して「共同使用」で起訴するつもりだろう。

 しかし、実刑判決はどうだろうか? クスリの初犯者は(自己使用事犯の場合)ほとんどが執行猶予の付いた判決である。

 何しろ、検挙者が多すぎる。1~6月の大麻犯罪の検挙件数は昨年同期と比べ13・4%増の1907件。史上最多。覚せい剤の検挙は7451件。次から次へと実刑にすれば刑務所はパンクしてしまう。

 薬物は犯罪である。が、同時に薬物依存症という「病気」でもある。欧米では、薬物使用を重罰にしたが、乱用の抑止につながらず、むしろブラックマーケットを肥大化させた。そんな反省から「処罰よりも治療」がいまや主流。裁判所に「治療の進行をチェックすること」を義務づける地域も多い。

 覚せい剤事犯者の再犯率は50%前後。執行猶予判決後に再犯。精神科病院に出たり入ったりするケースも多い。

 刑事訴訟法93条3項には保釈に際し「被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を付することができる」とある。再犯防止に向け、薬物専門の施設での治療プログラムを「条件」にすべきではないか。

 衆院選の最中だから、内閣は「起訴しろ!」と元気が良いが、それだけでは無責任だ。スターがクスリで捕まる度に、好奇心でクスリに手を出す若者さえいる。

 “他人の不幸”がいつしか“我が家の不幸”になりかねないのがクスリなんだから。(専門編集委員)

毎日新聞 2009年8月25日 東京夕刊

牧太郎の大きな声では言えないが… アーカイブ

 

おすすめ情報

注目ブランド