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【記者手帳】「バイオ主権」がない韓国の哀れな立場

 今月21日に中国・北京で開かれた新型インフルエンザの国際シンポジウムに参加した全在姫(チョン・ジェヒ)保健福祉部長官が、あるメディアのインタビューで「状況が極めて切迫している場合には、抗ウイルス薬タミフルの特許権を強制的に停止することができる」という立場を対外的に表明し、波紋を呼んでいる。強制停止とは、国際法的に保護されている薬品の特許を認定せず、国内で複製薬を生産することを指す。

 タミフルは、スイスの製薬会社ロシュ社が2016年まで特許権を取得している。現在は知的財産権を保護する国際条約により、他国が意のままに複製薬を作ることはできない。にもかかわらず全長官が特許権の停止に言及したのは、韓国政府が現在確保しているタミフルの備蓄量が人口の5%水準に過ぎず、大幅に不足しているからだ。

 しかし、タミフルの特許権停止は、インドやアフリカなど多くの人口を抱える一方で、薬品を大量備蓄できるだけの経済的余裕がない国々から出る話だ。これに対し、世界第12位の経済大国である韓国が特許権停止に言及するというのは、いささかきまりの悪いところがある。グローバル経済の恩恵を受けている韓国が全長官の言うとおり主張すれば、国際的な信頼を失うこともあり得る。

 全長官の発言は、切羽詰った思いから出た言葉だと解釈されるが、一方では韓国がロシュ社に最近注文した300万人分のタミフル追加分をきちんと供給してほしいという「哀願」のようにも思える。一国の大臣が民間企業に対し、「泣き言」をもらしたというわけだ。

 韓国政府は24日、大規模なワクチン生産能力を備えたヨーロッパの多国籍製薬企業に、イ・ジョング疾病管理本部長を急きょ派遣することとした。経営陣を訪ね、追加費用がかかっても新型インフルエンザワクチンの供給を要請する構えだ。

 しかし製薬各社は、「既に契約を済ませたほかの国々が、自分たち向けのワクチンを横流しするのではないかと目を光らせている」として、ワクチン供給の約束はできないという反応を見せている。あらかじめワクチンや必須医薬品を確保しておく「バイオ主権」がなければ、このように国民の生命を不安にさらし、哀れな身の上となるほかない。

金哲中(キム・チョルジュン)医学専門記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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