政権選択が最大の争点と言われる今回の衆院選。各党が次々と打ち出す公約に期待はできるのか。選挙後のこの国の行方は--。30日の投開票を前に、毎日新聞紙上で連載中の作家・林真理子さん、漫画家・西原理恵子さん、経済評論家・勝間和代さんの3人が集まり、熱く語り合った。【司会は河野俊史・東京本社編集局長、写真・根岸基弘、イラストは西原理恵子さん】
--まずは各党のマニフェストへの印象からお聞かせください。
勝間 若者の雇用をどうやって創出するかといった具体案の数値目標がありませんね。いかにデフレを止めるかの提案もあいまいです。良い点もありますが、仕組みを超えて変えていこうというメッセージが弱い。
林 政治に興味がない私でも、きちんと読まなければと思いました。でも、この国をどうしたいのかという基本方針について、心に残る名文を最初に掲げてほしかった。
西原 折伏(しゃくぶく)合戦。うちに投票したらこんなにいいことがありますよと書いているだけ。しかも言葉のプロじゃないから、すごくつまらない。
勝間 民主党が掲げる配偶者控除の廃止は、実現したらすごいですよ。自民党ができなかったことをやるというのだから、国民は「本当にやってね」とプレッシャーをかけ続けるべきです。
西原 本当に実力のある政治家って、そもそも民主党にいないと思う。
勝間 プレッシャーをかけ続ければ、官僚が動きます。
--もし民主党政権になったら、霞が関と永田町の関係は変わるのでしょうか。
勝間 民主党次第ですね。頭から敵対したら官僚はサボタージュするでしょうが、官僚だって今がいいとは思っていませんから。総額5兆円の子ども手当を本当に出せたら大したものです。
林 独身のお金持ちの友人が電話してきて「私たちが払った税金をヤンキー(不良)の子に使われるのは嫌だ。民主党は何を考えているのか」と言っていた。
西原 子どもが大きくなって年金を払い、高齢者を養うんですよ。ヤンキーが将来刑務所に行けば、もっとお金がかかる(笑い)。人を人とするためには教育と職業が必要。それは国家が何よりも先にやらなければならないこと! 議員の給料払うなら、ヤンキーの教育費に使え。
--消費税論議はどうですか?
勝間 消費税は公平な税だと思います。使えば捕捉される。所得は隠せますから。
林 消費税というとみんないきり立ちますよね。どの党も言葉を濁している感じ。
勝間 でも普通の家庭ってせいぜい月30万円くらいしかお金を使っていない。5%上げたとしても1万5000円。困窮する家庭にはその分を手当で返せばいいんですよ。日本は税の仕組みが悪くて、どう使われているかが追跡できない。納税者番号を導入し、消費税にはトレース番号を入れて見届けるのが先進国の常識ですが、自民党も民主党も触れなかった。
林 納税者番号も有権者の反発がすごいですよね。
勝間 納税者に都合の悪い話ですものね。政治って民度の反映ですから、政治家だけが悪いっていうことはないですよ。
西原 これだけ自民党の悪口を言ってきて、ずっと自民党が勝ってますもんね。
勝間 自民党の適当なやり方を好んでいたということです。
西原 自民党も民主党もやることは同じでしょう。
林 違わないということはみんな分かっていると思う。
勝間 鳩山(由紀夫)さんが党首になった時点で、変わらないのは見え見えでした。若手や女性を立てるべきでしたね。でも自民党が居座るよりはまし、というムードですよね。
林 私は鳩山さんって買っていなかったんですが、党首討論を見ていて、追い風を受けている人は違うなあと思いました。何もかも麻生(太郎)さんより良く見えちゃう。顔つきも変わってきた。テレビを見ている人はイメージが大切ですから。
西原 国家が変わるのを待っていたら、自分の子が飢え死にしちゃう。私はこの国に居着くんじゃなくて、自分で金ためて国を移るくらいのつもりでいます。
勝間 その備えはしつつも、自分の暮らす国にできる範囲の文句だけは言っていきたいですね。
◆経済
--首相公選制はどうお考えですか?
勝間 大統領制を取る国の方が少ないし、大統領の権限って思っているほど大きくないですよ。
林 「この国で誰がいいですか?」と聞いたら「ビートたけし」なんてことになってしまうかも。4年前の郵政選挙で、小泉(純一郎)さんがテレビに向かって「やる」と言ったら、みんな魂が吸い寄せられたようにしびれてしまった。今回は小泉さんの代わりをマスコミがしている気がしてなりません。政権代えましょう、と。
勝間 マスコミもそこまで民主党寄りじゃないですよ。自民党への怒りの方が大きいのでは。
--新しい政権がどうなるにせよ、日本経済がうまく転がる方向に進むのでしょうか。
勝間 やり方次第でしょう。民主党政権だって官僚がみんなそっぽを向いて全く動かないと、より悪くする可能性はあります。やらなければならないことは二つ。デフレを止めることと、おじさん以外も活躍できる風土を作ること。特効薬はこれだけなのに、自民党も民主党もちゃんと言っていない。
西原 議員の男女比率も人口と同じにするっていうことですよね。
勝間 女性や子どもにチャンスも投資も与えるということですよ。国際的な調査でも、日本の幸福度は異常に低い。過労死寸前の人たちが自殺していますし。
西原 自殺が年間3万人。若いころ紛争地域を回っていたけれど、どこの戦場も年間そんなに死んでない。ここ戦場ですよ。
勝間 長時間労働やめますとはマニフェストにチラッと書くけれど、総労働規制をするとは書かない。
--自民党も民主党も本質的なところには手を付けていないと?
勝間 今あるパイの再配分の話をしているだけですから。それと自民党は言ってますよね。10年後に所得を年100万円増やすって。どうやって、というのが分からない。
林 池田勇人さんの所得倍増計画でしたっけ。あのころだったらリアリティーがあったけれど……。
--他の政党はもっと役割を果たすべきだと思いますか?
西原 社民党とか共産党とか何してる? がまん?
林 東京都議会選挙の時、蟹工船ブームで共産党が結構得票するのかなと思ったのですが。あのブームは何だったんでしょう。
勝間 共産党は党名を変えないと、なかなか支持は広がらないでしょうね。でもマイノリティーの政党って必要で、ヨーロッパでは各国にたくさんあるんです。日本の場合は少数政党が何を言いたいのかわからないのが問題。
林 民主党は外国人の選挙権を認めるんですかね。
勝間 住民税を頂いている限りは、認めた方がいいですね。
西原 ショバ代払っている人間がモノを言えるのは当たり前ですよ。ショバ代だけ頂いてサヨナラっていうのは盗っ人。国家は盗っ人ですけど。
勝間 国家は盗っ人っていう発想を、国民は持った方がいいんです。彼らは私たちの懐から4割のお金を強制天引きしているわけですから。
--世襲についてはどう思いますか?
勝間 公正な競争をするならいいんですよ。例えば選挙区を変えて立候補するとか。
林 漫画を描くお母さんを見て、自分も漫画家やりたいな、ステキな職業だなと思うのは、自然なことだと思うんですよ。
西原 でもね、絶対なれません。
勝間 自由競争だからですよね。政治は規制産業だから。参入のハードルを下げれば変わります。
--新聞が報じていないけれど、実はこの選挙ではこんなことが大事、と思うことはありますか?
勝間 選挙後にどうしてほしいかが重要なんです。新聞には政党がマニフェストで言ったことを追跡してもらいたいですね。
西原 ガッツリと政治家のケツにくっついて離れない記者を1人付けて、その人がずっと日記を書くとかね。新聞や週刊誌で毎日書かれたら、嫌でも実行しますよ。
勝間 本当に配偶者控除をやめられるのかというのが、一番大きいですね。手当を付けるのは簡単ですが、今ある控除をなくすのは大変なこと。民主党は確か扶養控除もなくすんですよね。
林 なくしてもいいと思う。
勝間 子どものない家には大変な増税になるんです。
--子どもを社会全体でみようというコンセンサスがないとできない政策ですね。
勝間 最悪なのは子ども手当だけ充実して税制そのまんまっていうパターンですよ。国の赤字が増えて。
西原 防衛費やダムを造るお金を子ども手当に回してほしいですね。それなら大喜びで税金払います。
林 民主党のマニフェストは説明してもらっても、どこか言いくるめられているような気がします。それでも面白そうだから変わってほしいというのが、多くの人の気持ちじゃないでしょうか。
勝間 旧社会党の村山富市さんが首相になった時も、そんなにひどいことにはなりませんでしたしね。
西原 政治家が誰でも一緒ですよ、国民がまじめで豊かな国だから。
勝間 それこそトヨタがひどいことにならない限り大丈夫ですよね(笑い)。
林 みんな村山さんのこと忘れていますよね。劇的なことが起きたかというと、何も変わらなかった。
勝間 温帯の島国でぼーっとしてても生きられた。でも今ものすごい勢いで攻められてるんですよ。ぼろぼろになって転落しつつあるというイメージを、みんなで共有した方がいい。
林 村山さんの時はまだ日本がお金持ちで力もあったからよかったかもしれないね。
--この先どんなリーダーを求めますか。
勝間 失敗していいから若い人にどんどんやらせて、5年10年かけて育てた方がいいんじゃないですか。
西原 もっとおばさん出してほしいですね。そうじゃないと台所のこととか分からない。公務員の子は全員公立(の学校)に入れる法律も作ってほしい。自分の子が公立行ってなければ、公立のいいところも悪いところも分からない。
--最後に、有権者へのメッセージをお願いします。
勝間 国民一人一人、あるいは地方が独立して自立できる施策が大事です。自民党が失敗してきたのは集めた金を良きに計らえとばらまいてきたから。私たちもお上のすることを待ってるんじゃなくて、西原さんのように日本なんかいつでも捨てられるという気概がないと。
林 今回は「人物」を見てほしいですね。自民党の味方をするわけじゃないけれど、何をやってきたのか分からないようなお兄ちゃんやお姉ちゃんが出てきて、老獪(ろうかい)な政治家が消えてしまうことがいいのか。
西原 年金は少ない、医療費は上がる。政治をあてにするなんてとんでもない! この先どうやって蓄え、子どもをきちんとした職業に就かせるかを考えるべきです。
林 毎日新聞で連載中の「下流の宴」に登場する可奈ちゃんは、医者と結婚したいような古い子なんです。最後にガツンと、そんなこと考えてたらこんな落とし穴があるぞ、っていう罰を与えたいですね。ところで勝間さん、入閣のうわさがありますが、どうなんですか?
勝間 しませんよ(笑い)。今の仕組みは既得権益でがんじがらめになっていて、首相ですら変えられなかったじゃないですか。国民世論でしか変えられないんですよ。
林 応援しますよ。新党作ったら?
勝間 大事なのはやらせることだと思うんですよ。政治家はサーバント(召使)。私たちのために働いてくれる人です。
林 そうですね。選挙で握手してもらって喜んでいるだけでは駄目なんですよね。
勝間 自分たちのお金で雇っているという発想で管理し、選ぶべきじゃないですかね。
==============
■人物略歴
1968年東京都生まれ。慶応大卒。外資系コンサルティング会社などを経て独立し「勝間本」と呼ばれるベストセラーを連発。著書に「お金は銀行に預けるな」「断る力」など。本紙で「勝間和代のクロストーク」を連載中。3女の母。
==============
■人物略歴
1954年山梨県生まれ。日本大芸術学部卒。86年「最終便に間に合えば」「京都まで」で直木賞受賞。他に「白蓮れんれん」(柴田錬三郎賞)「みんなの秘密」(吉川英治文学賞)など。本紙で「下流の宴」を連載中。1女の母。
==============
■人物略歴
漫画家。1964年高知市生まれ。武蔵野美術大卒。「毎日かあさん」などで手塚治虫文化賞短編賞受賞。今年は2作品が実写映画化され、29日より「女の子ものがたり」が上映される。本紙で「毎日かあさん」連載中。1男1女の母。
毎日新聞 2009年8月25日 東京朝刊