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政権交代をかけた総選挙で、多くの党が地方分権策をマニフェストに掲げた。橋下徹・大阪府知事らが政党に覚悟を問い、それをもとに支持政党を決めると迫ったことで、にわかに関心が高まった。
地方分権は、中央政府と自治体との役割分担など国のかたちにかかわる重大な問題なのだが、人々の暮らしにどう影響するのか、具体的なイメージがわきにくい。そこに政党や有権者の目を向かせた点では、知事や市長らの行動には意義があった。
民主党はかねて分権を党の政策の「一丁目一番地」と位置づけ、力を入れてきた。中央集権体制を抜本的に改め、市町村に権限と財源を大幅に移す。国からの「ひもつき補助金」を自治体が自由に使える一括交付金にかえるとマニフェストでうたっている。
政権の意思決定の方法や税金の使い方を根本的に改める「政府のつくり直し」の一環として、中央政府の役割を縮小し、自治体中心の地域主権国家を目指すという野心的なものだ。
ただ、地方の自主財源を増やすというものの、子ども手当などで税金の使い道は手いっぱいではないのか、といった不安は残る。
さて、自民党の方も盛りだくさんだ。国の出先機関の廃止・縮小をはじめ、補助金や交付税、税源配分の見直し、道州制基本法を制定し2017年までに道州制を導入する、などだ。項目だけを見れば、全国知事会の要望の丸のみに近い。
だが、「本当だろうか」と眉につばをつけたくなる。なにしろ福田政権末期から麻生政権にかけてのこの1年あまり、有識者による地方分権改革推進委員会の分権勧告に対し、官僚と一体となって立ちはだかってきたのは自民党の族議員だったからだ。
橋下知事が「いままで全く聞く耳を持たなかったのに、何が変わったのか」といぶかるのも無理はない。
マニフェストは中身もさることながら、実現に向けた政党の本気度も試される。いま一度、何のための地方分権かという原点を問い直したい。
医療や介護、子育て支援などは、現場でサービスを担う自治体が権限や財源を握った方が実情に合わせて小回りがきくし、効率的だ。中央政府へのお任せではなく、身近なところで住民自らが選挙などを通じて決め、評価する。これが分権改革が目指す姿だ。
明治以来、日本の社会に染みついた中央集権の体質を変えるのは並大抵のことではない。中央官僚や族議員の抵抗は当然として、果たして自治体や住民の側にそれを受け取る覚悟があるのかどうかも問われることになる。
息の長い取り組みが必要だ。今回の分権論議を一時の打ち上げ花火に終わらせてはならない。
世界の高校生が競う国際科学オリンピックでこの夏、日本の代表が大活躍した。5科目に23人の選手が参加、金メダルは過去最高の12個となり、全員がメダルを獲得した。
好成績をはずみに、日本の科学教育をよりよいものに変えていきたい。
この大会では、上位約1割に金メダルが与えられる。次の2割に銀メダル、次の3割なら銅メダルだ。
まず、初めて日本で開かれた生物学五輪で日本勢では初の金メダルを1人が獲得、残る3人も銀メダルだった。
続く物理でも5人のうち2人が金メダルをとった。数学では6人中5人が金メダルで、うち1人は満点でトップ、全体の成績でも中国に次ぐ2位に入った。化学、情報でも4人のうち2人が金メダルを手にした。
科学五輪は1959年に数学から始まった。それに物理、化学、情報が加わり、生物学は90年からだ。
このところ成績上位を占める国・地域は中国や韓国、台湾、米国やロシアなどだ。とくに中国は国を挙げて取り組んでいる。代表に選ばれると特典も多く、ほぼ全員が金メダルをとる勢いだ。
日本の参加は90年の数学から。生物学は05年、物理は06年と先進国の中では遅い。理科教育の水準が低く、歯が立たないことを心配したためだ。
日本の代表選手たちは、世界で標準的に使われている教科書で学び直し、国内の高校ではあまりやらない実験の特訓などを受けて本番に挑む。
今年の好成績は、経験を積んだ代表が多かったうえ、こうした特訓が成果を上げたためだろう。04年度から政府が科学五輪の支援を始め、予選の参加者が増えてきた効果もありそうだ。
喜んでばかりはいられない。国際大会に参加することで、改めて日本の教育の弱点が浮かび上がっている。
過去の化学五輪で銅メダルをとったある高校生は、帰国直後の模擬試験で、60点満点で10点も取れなかったそうだ。日本の化学教育は本質的な理解を求めるより、知識を蓄えることに重点が置かれているためだろう。
体系的に科学を学ぶ、国際水準の教育へと底上げしていくことで、日本の高校生の力を伸ばし、理科好きのすそ野を広げていきたい。
茨城県つくば市で約1週間にわたって開かれた生物学五輪では、世界の高校生たちが10時間以上もかけて理論と実験の問題に取り組んだ。その一方で、夏祭りや日光旅行などで日本の文化や自然にも触れた。
世界中の若者たちが日本を舞台に考える力を競い、友情の輪を広げた。大きな意味があったと思う。
来年は化学五輪が東京で開かれる。高校生たちの目を、さらに世界に向けるきっかけにもなってほしい。