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2009-05-25

[] 英語中級レベルの理系にとって、最良の英語学習コンテンツとは?

screenshotTABLOGにおいてTED.comが最高レベルの英語学習コンテンツとして紹介されており注目を集めている。確かに素晴らしい教材であることは確かだが、内容的にもレベルが高すぎてかなりモチベーションが高くないと続けるのはキツい。万人にとって適したコンテンツは存在しない。自分の能力、要求にあったコンテンツを選ぶ必要があるのだ。

今回、本エントリでお勧めするのは、NHKが英語と他の16カ国語で配信しているNHK WORLD RADIO JAPANだ。Podcast配信されており、iTunesで購読しておけば毎朝最新のニュースがiPodの中に入っている。15分の放送時間中に伝えられるニュースは多くても5つほど。短い時間で聞くことが出来るのは大きなメリットだ。もちろん購読は無料で、NHKに受信料を払う必要もない。

NHKの英語ニュースによる英語学習が効果的なのは次の条件に合う人だ。

  • 技術者、研究者など、特定のトピックスで英語による意思疎通が出来れば充分な人。 典型的には理系が該当するが、文系でも左記の条件に該当するならば問題ない。
  • 英語中級レベル(TOEIC 700〜900点程度)*1

逆に、この条件にあわない人にはNHK英語ニュースはお勧めしない(もちろん無駄にはならないだろうけど)。別の教材を見つけて欲しい。

典型的な理系にとって、英語は自分の言いたいことが伝えられて、相手の言っている内容が理解できればそれで良い。ネイティブのような流暢な発音が出来る必要はないし、文法的に多少間違いがあっても意味が通じればそれでよい。英語を使う時には、何らかのトピックスが予め決められており、アジェンダや配付資料などが準備されているケースが多い。多少分からない単語があっても、会話の流れや配付資料などのヒントに基づいて、推測・補完する能力がものを言う

利用される単語も専門分野に沿ったもので、日常的に利用されるような多様な語彙は必要とされない。相手もこちらが日本人だと分かっていれば、無茶なスピードで話したりはしない。ネイティブスピーカーが情け容赦なく話すのについていけずとも、ネイティブスピーカーがこちらに配慮して話すことについていければ、大抵の用は足りる*2。国際会議においても、アジェンダと資料があって、トピックスを理解できる状況下であれば、そこそこの英語力があれば大意はとれるものだ。

その観点で言えば、しばしば英語教材として推薦されるCNNやBBC等のコンテンツは、語彙、スピード共に過剰であると言える。語彙数はもっと少なくて良いし、スピードはもっとゆっくりで構わない。また、CNNやBBCで取り上げられる話題は日本人に取って馴染みのない海外のトピックスである場合が多く、知らない語彙が出てきても推測が困難だ。TOEICスコアで言えば950点、最低でも900点はないと学習効率は上がらないだろう*3。CNNやBBCを中級者に薦めるのは効率が悪いし、ここで対象とする人にとっては必要以上に高度すぎる。

一方、NHK WORLD RADIO JAPANは日本のニュースを配信しているため、我々日本人にとって内容を把握しやすい。新聞やテレビなどで同じニュースを聞いている場合が多く、内容に対するヒントがCNNなどの欧米メディアに比べて格段に多い。そのため、分からない単語が多少混じっていても、それを推測することができる。知らない語彙を推測し、補完する能力を鍛える上で、NHKの英語ニュースは極めて都合が良いと言える。NHKが15分の放送枠内で扱うニュースは、公共放送という性格上、公共性が高く、重要なものに限定される。つまり頻出する語彙は自然と限定され、1ヶ月も聞けば、典型的なトピックスに対する語彙はほぼ理解できるようになるだろう*4

また、スクリプトや副教材を見る必要が無く、耳から聞くだけですむという点も、通勤途中の学習には好都合だ。何しろ聞くだけで良いのだから、学習に対するハードルも比較的低い。最初、聞き取れない人は、家を出る前にNHKニュースをテレビで見てから、通勤中に英語で聞くということをやってみてもよいだろう。同じニュースが英語で伝えられているはずだ。重要なニュースは続報が集中的に伝えられることから、昨日聞いた時には推測するしかなかった単語が、今日はその推測が正しいことを確かめられるなど、自然と反復練習が出来てしまうところもメリットだ。慣れてくればTVの視聴をやめて、Podcastだけにしても必要なニュースをチェックできるようになるだろう。忙しい朝に貴重な時間短縮ができることになる。

アナウンサーの発音は極めて聞き取りやすく、文章表現も簡潔なので、英語に慣れるのに適したコンテンツであると言えるが、複数の人に薦めて効果を聞いた経験上、最低でもTOEICで700点程度は無いとトピックスぐらいしか理解できないようだ。そのため、だいたいTOEICで700〜900点程度の英語能力を持つ人にとっては学習効率が良いと判断できる。950点以上のTOEICスコアを持つ人にとっても無駄にはならないだろうが、そこまで来るとCNNやBBCに移行した方がよいだろう。また、700点以下の人はもう少し初歩的な学習教材で基礎を固めた方が良いと考えられる。

さらに、ネイティブスピーカーのように流暢な発音で英語が話せるようになりたい人、情け容赦ないネイティブスピーカーに対応しなければならないビジネスマン、正しい英語を使うことが求められる人などにとっては、NHKニュースによる学習はお勧めしない。NHKニュースは語彙やトピックスに偏りがあり、幅広いトピックスに対応するには力不足だ。また、NHKアナウンサーの発話にはスラングや口語は当然含まれておらず、そうした語彙を学習するには別の教材が必要となる。

NHK WORLD RADIO JAPANによる学習のメリットを改めてまとめると次の通りだ。

  • 無料で毎日配信。
  • 15分という長すぎない時間で聞ける。
  • アナウンサーの発話は比較的ゆっくりかつ丁寧であり聞き取りやすい。
  • 利用される語彙は比較的限定される。
  • ニュースは日本人に馴染みがあるもので、他の媒体によるニュースなどから内容を推測可能。
  • 解らなくても内容が推測できるので、テキストを別途見る必要が無く、聞き流すだけ。
  • 続報により自然と復習が可能。
  • ニュースが毎朝チェックできる。

以上に述べたように、NHK WORLD RADIO JAPANは中級レベルの英語力を持つ理系にとっては、極めて優れた英語学習用コンテンツとなりうる。条件にあう人で、是非とも英語力を強化したいと思っている人は、朝の通勤時間に英語ニュースを聞くことを習慣にしてみてはいかがだろうか。さらに、アラビア語、ベンガル語、ビルマ語、中国語、フランス語、ヒンディー語、インドネシア語、韓国語、ペルシア語、ポルトガル語、ロシア語、スペイン語、スワヒリ語、タイ語、ウルドゥー語、ベトナム語でも配信されている。これらの学習においても上記のメリットは英語と同様に有効だろう。

関連エントリ

*1こちらのエントリにTOEICと他テストとの比較表を掲載しているので参照のこと。

*2:ネイティブスピーカーの情け容赦ない会話について行くには残念ながらNHKによる学習では力不足だ。CNNやBBCに立ち向かっていって欲しい。

*3:筆者のTOEICスコアは900+点というところだが、CNNを聞いても1/3程度しか理解できない。一方、NHKニュースならばほぼ全単語についてテキストに落とせて、意味もつかめる。実際にはRoh Moo-hyunとかAung San Suu Kyiとかの固有名詞のスペルが分からなくてテキストに落とすのは困難だが。

*4:もちろんNHKニュースでは、あなたの専門分野の専門用語を学ぶことは出来ないが、それらは普段読むドキュメントなどから自然に覚えるものだ。専門分野に関連するPodcastなどが提供されているならば、併せて聞いてみるのも良いだろう。