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コラム

既存メディアの“脱藩者”が作る新メディアとは――JBpressの勝算 (1/3)

2008年3月、大手マスコミ出身の記者らが集まり、「JBpress」というWebメディアを立ち上げた。同社の戦略はメディアを作るだけではなく、プラットフォームを狙うことにある。JBpressの編集長・川嶋諭氏に、新メディアの戦略などを聞いた。

[藤代裕之,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)

ジャーナリスト/ブロガー

1973年徳島県生まれ。広島大学文学部卒、立教大学21世紀社会デザイン研究科修士課程修了。徳島新聞社で、司法・警察、地方自治などを取材。文化部では、中高生向け紙面のリニューアルを担当し「若者の新聞離れ」対策に取り組んだ。2005年に退社、ネット企業で働きながら、ブログ「ガ島通信」を運営。メディアやジャーナリズムについて発信、研究している。北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット非常勤教員。


 2008年3月、元日経ビジネスオンライン編集長・発行人の川嶋諭(かわしま・さとし)氏は、仲間とともに日本ビジネスプレス(JBpress)を立ち上げた。日経BPや時事通信ら既存メディアからの“脱藩者”が集まり、日本再生、国際、地方、多様性といったキーワードを軸にしたWebメディアの「JBpress」と、メディアネットワーク「isMedia」を運営する。

 同社の戦略は、メディアを作るだけでなくプラットフォームを狙うことにある。メディア不況と言われる中、JBpressはどこまで既存メディアを脅かすことができるのだろうか。川嶋氏らに話を聞いた。

大衆化して、似たような記事が並ぶ

 「ネットメディアのロールモデルを確立したい」「コンテンツで切磋琢磨する仕組みを作っている」「記者の働き方も変わる」――。JBpress編集長の川嶋氏からは、機関銃のように次々と言葉が飛び出す。

 「日本メディアのワイドショー化が進むのは規模が大き過ぎるから。メディアはどこも苦しいが、規模が最大の問題。だから大衆化して、似たような記事が並ぶ。昔の日本は300諸侯がいて、それぞれの地域で独自の文化が養われていた。逆戻りというわけではないが、新たなメディアを作って多様性を確保したい」。川嶋編集長が狙うのは小さく、とがったメディアを作ることだ。

 日本のマスメディアは、市場に比べて規模が大きいとされる。例えば新聞。発行部数は中国、インドに続き、米国より多い。世界新聞協会(World Association of Newspapers)によると、世界の新聞発行部数の5位までを日本の新聞が占め、米国の経済紙ウォールストリートジャーナルは200万部で14位。ニューヨークタイムズは110万部で37位、北海道新聞や静岡新聞より部数は少ない。

 電波の許認可や記者クラブなどの取材網が参入障壁となる一方で、中産階級がこのような巨大なマスメディアを支えてきた。しかしインターネットなどメディアが増えていく中で、消費者の興味も多様化、マス広告が効かない、マスプロダクトが売れないという指摘がされるようになっている。

yd_jb.jpg JBpressの公式Webサイト(出典:日本ビジネスプレス)

 川嶋編集長は、同社のパンフレットで「地方がミニ東京化してしまったのは、政治の責任だけではなくメディアの責任も重い」と訴える。JBpressがフォーカスするのは、最大公約数的になりがちな日本の新聞やビジネス誌が薄くなりがちな国際情報と地方発の情報。主なターゲットは国際情報などに敏感なビジネスパーソン、40代を中心にミドルマネジャーからマネジメントを狙う人たちだ。

 海外コンテンツは、フィナンシャルタイムズやエコノミストなどを邦訳しているが、地方発は簡単ではないようだ。当初は地方紙の記者などを書き手として想定し、提携も模索したが「新聞で短い記事を書くのに慣れている記者では難しいと感じ始めている。Webメディアでは人間関係や成功要因、失敗、エピソードを交えないと読まれない。地方には日本を支える元気な中小企業があるが、なかなかいい記者がいない……」と悩みを打ち明ける。

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