そもそも書籍の流通は難解だ
出版社で作られた書籍は取り次ぎに集められ、全国の書店へ配本されていく。新興の出版社であればこの時点で本が売れていなくても「歩戻し」として書籍の5%ほどを支払う。半年間書店に本を置いてもらった後に清算となるが、商品を作った7カ月後にこれまた新興の出版社は「歩戻し」なるものを2%ほど取られる。
これでは「新しく出版社を作ろう」と考える人は少なくなる一方なのは当然のこと。さらに上記条件を覚悟の上、取り次ぎに契約をしてもらおうと紹介者を通じて行ってもほとんどが門前払いされてしまう。また取り次ぎとの契約には「保証人」も複数人必要だ。
出版社が本を作った時、「何冊配本してくれるのか」というのは取り次ぎの胸先三寸。無名の作者の本を5000冊など到底配本してもらえない。1000〜2000冊の配本数では、大型書店にぽつんと1冊、棚差しされるだけである。
そろそろ本当にヤバイという人も
「本がなければ死んでしまう」ということはまずない。よって不況の影響を受けやすいため、政府の「不況指定業種」に指定されている(産業分類番号4141 出版業)。大きな出版社であれば、今回のように「返品手数料を負担してほしい!」というアプローチも可能であろうが、小さい所はそうはいかない。
あるベストセラー作家は「出版業界はヤバイヤバイと言われ続けてきたが、そろそろ本当にヤバイ」という。どうヤバイというのか。
まず、書店の数が少なくなった。ということは実際に本を手に取る可能性が少なくなり、購買機会が減って、さらに本が売れなくなってきたということ。そして電子書籍が増えてきて、コミックなどは携帯でも読めるようになり、「紙の本」にこだわらない人が増えてきた。紙の本の流通数が減れば当然のこととして、取り次ぎ業務も縮小していく。上位2社で7割の書店を支配しているという構図が崩れていくのだ。
「紙の本」と「電子の本」が同額であることは少ない。印刷の手間がないので、電子書籍の方が安いのが普通だろう。かくして再販制度がそろそろ崩れていくだろうというのがその人の読みだが、大きく外れてはいないと思う。
この夏には電子化した雑誌コンテンツを有料で読むことができる「MAGASTORE」がスタートする。約20社から30誌が参加し、1冊110円〜600円で読むことができるようになる。販売される雑誌コンテンツの種類は現在公開されていないが、35ブックスよりこちらの方が利用者は増えるような気がする。(池田智子)
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