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第14回 ソニー熨斗谷泰司氏・岡本直也氏・小板秀昭氏インタビューテレビをさまざまな情報の窓口に“BRAVIA”「アプリキャスト」

ソニーの液晶テレビ“BRAVIA”<ブラビア>には、家庭用のテレビでは初となるウィジェット機能「アプリキャスト」が搭載されています。テレビを見ながらリモコンを使ってさまざまな情報にアクセスできる“BRAVIA”の情報閲覧機能「アプリキャスト」上では、すでにたくさんのウィジェットが開発・提供され、活況を呈しています。今回はこの「アプリキャスト」について、ソニーの熨斗谷泰司氏・岡本直也氏・小板秀昭氏にお話をうかがいました。

テレビの世界にウィジェットを!

--まずアプリキャスト開発に至る経緯をお聞かせください。

岡本 : 2006年に開発をはじめまして、最初に「アプリキャスト」を搭載した“BRAVIA”の発売は2007年でした。昨年あたりから携帯電話などでもウィジェットが盛んになってきていますが、当時はまだ「ウィジェットはPCのもの」というイメージが強かった頃でして、はじめからウィジェットを戦略的に狙っていこうという意図はなかったんです。テレビのソフトウェアプラットフォームを拡充する中で、ネットにつながる時代に何ができるのかを試行錯誤していて「これは面白いんじゃないか」というのが開発のきっかけでした。今になって振り返ると、他のジャンルの開発者の方々も、同じタイミングで似たようなことを考えていたんだなとは思いますね。
テレビのお客さまにはウィジェットという言葉自体になじみがないこともありますので、アプリという言い方をしていますが、技術的には一般的なウィジェットと同じです。将来たくさんの開発者の方々にも入ってきていただけるよう、できるだけ独自のものではなく標準的な技術を中心に構成しています。基本的にはJavaScript、レイアウトはXMLがベースです。ブログパーツやウィジェットなどを制作する技術がある方なら、スムーズに開発に参加できるのではないかと思います。

--実際に使われはじめてからの手応えはどうでしょうか?

岡本 : 面白いものになるとは思っていましたが、何がどう面白いかまで明確に見えていたわけではなかったので、良い意味で予想を裏切られることが色々とありました。最初に弊社でアプリを制作していた時にはテレビでウィジェットをやる意味をという感じで意気込んで、わりと凝りに凝ったものを作ったんです。例えば写真を共有しようとか。しかし、結果的に見ると人気で上位に来るのは、ウィジェットの世界ではごく一般的なニュース系のものが多いんですね。例えばエキサイト株式会社様のアプリ「Excite Bit コネタ」はRSSリーダをベースに作っていただいたもので、非常に簡単なつくりなんですが人気があります。高度な技術を駆使しているから人気が出るのではなく、ちょっとした情報で、でもテレビでは見られなかったもの、というところが大事なのかなと。
例えばテレビのニュース番組やワイドショーでは、ネット上にある記事と比較すると、どうしても上位に来る一部分の層だけを採り上げますよね。そこでアプリを使うと、Webの一番深いところまでは見られませんが、ちょうどその中間あたりのニュースを見ることができて、これがとても面白いんですよね。実際に人気もある。よくテレビなんだから連携してということを考えがちなんですが、そこはまだ開発者目線が過ぎるんじゃないかと。一般のお客さまの目線に立つと、PCが得意でない方も多いわけですし、今の段階ではPCでできることをテレビに持ってくるだけでも、かなり面白いということがわかりました。

--コンテンツを提供する側としてはどのような効果が期待できるのでしょうか?

岡本 : コンテンツプロバイダ(CP)さまにとっても、すでにPC向けに出しているものでインフラもアセットもコンテンツも全部あるので、「アプリキャスト」上の簡単なプレゼンテーションの技術を使うだけという低コストで、今までリーチできていなかったところにリーチできるメリットが出てきます。CPさまからのご提案や投稿されたもので面白いのは、正直「これ誰が使うのかな?」というようなアプリにも満遍なくある程度の人気があることですね。元々テレビはマス向けと言いますか、クオリティもコストも高いコンテンツが乗るものですが、一方で100人に1人だけど確実に需要があるものをたくさん集めたら、それは新しい価値になるんじゃないかと。例えば投稿アプリには、釣りに行く人が干潮と満潮の時間や潮位を見られるものがあります。私自身は釣りをしないので、一個人として見たときにはその価値がサッパリわからないんですが(笑)、釣りが趣味の方にとっては、非常に重要な情報なわけです。こうしたよりパーソナライズされた情報を得ることができるのが面白さなのかなと思います。

熨斗谷 : テレビ的な目線で言いますと、昔の力道山とかシャープ兄弟を街頭でみんな見ていたような時代から、民放やNHKを見る、今だとBS/CSやケーブルを見るようになってきているわけですが、リビングの真ん中に居座っているものとして、じっくりテレビを見ているわけじゃないという時にも、さまざまな情報の窓口になりたいということですね。人それぞれの「ながら見」の機能をスマートにご提案させていただくというのが、このアプリキャストの役割なのかなと。これがテレビの視聴スタイルの新しいスタンダードになればと考えています。

--開発に苦労したところは?

岡本 : テレビに乗っているCPUはPCのものほどパワフルなわけではありませんので、できるだけサクサク動くようにというのが一番苦労したところです。左側にテレビの映像が、右側にアプリが表示されるようになっておりまして、最新のモデルだと30個まで表示させるアプリを登録できます。“BRAVIA”標準のXMB(クロスメディアバー)というメニューの一番右端にアプリの一覧が出ますが、新しいものが入ると「NEW」というアイコンとともに表示されるようになっています。

--テレビの画面が左側に縮小されてアプリが右側にという形ですが、PCのように上に重なるような形は難しかったんでしょうか?

岡本 : テレビの画面の上にオーバーレイする形ですと、テレビとそれ以外の画面が紛らわしくなってしまい誤解を招きますので、画面を左右に2分割して、テレビはテレビとして、アプリとは切り離したデザインにするということになりました。必ずユーザご自身の操作でアプリの表示登録をしていただくことが前提で、テレビのコンテンツと混ざらないように配慮しています。左側に表示されるテレビと競争というわけではなく、右側の「アプリキャスト」では違うニーズをどれだけ拾い上げていくかというところですので、画面を棲み分けした方がわかりやすいのではないかと考えております。

対応アプリも続々増加中!

--人気のアプリにはどんなものがありますか?

岡本 : われわれが開発したものやCPさまにご提供いただいたものですと、「地震・災害・交通情報 rescuenow@Nifty」などは人気がありますし、「ソニー銀行 外国為替レート」も為替の値動きが激しい昨今気になる方が多いらしく(笑)、リリース直後からアクセスが伸びています。また占いなども定番で人気がありますね。

--先日行われました「“BRAVIA”テレビウィジェットコンテスト」についてお聞かせください。

岡本 : まずは段階的に、法人様に向けたオープンエントリー制度を2008年の春に始めまして、秋に個人の開発者さま向けに開放を始めたんですね。とはいえ個人の方に参加していただくには、まずテレビでウィジェットができることを認知していただくのが重要ですので、コンテストを開催することになりました。ちょっとドキドキしておりましたが、開発コミュニティのブログなどでは熱い反応もいただきまして、心強く感じております。開発環境が一般と違うという意味では、本当はもうすこし募集期間を長くとった方が良かったかもしれませんが、それでも数十件の投稿をいただきました。

熨斗谷 : 一般的に多いか少ないかということはちょっとわかりませんが、私たちのインフラのハードルから考えますと、結構な数の作品を寄せていただいたんじゃないかと思っております。

岡本 : 簡単に受賞作をいくつかご紹介させていただきますと、金賞の「四色推理」は、ゲーム自体は定番ですが、テレビの限られたリモコンのボタンをうまく使っていただいた例ですね。PCのウィジェットに比べると、扱えるメモリなど使えるリソースが非常に少ないので、ゲームを作るのは難易度が高いんですが、これはシンプルで狙いがハッキリしていたのが良かったと思います。またこのゲームはテレビでやると、人と人との間に会話を産みやすいというのも評価された大きなポイントですね。 銀賞の「凝縮天気予報」は、とにかく実用性に特化したところの評価ですね。公式にも天気予報のアプリはあるんですが、実は私も自宅ではこっちを使っていることが多かったりします(笑)。地域設定を独自のUIで簡単に設定できるというのも、公式アプリにはない工夫が凝らされていますね。
銅賞の「全国ロケ地テレビ」は、例えばいつも見ているドラマのあのシーンのロケ地が実はここだったとかの情報が細かく表示されます。これはアプリというよりも、ロケ地を探し当てて情報を提供されていること自体が偉いとも思うんですが(笑)。テレビ的で非常に面白いですね。
本当に私たちも驚かされたり、気づいてはいたけどやらなかったものでも「これって意外とテレビに向いてたんだ」と改めて発見させられることも多かったですね。

--ちなみに、テレビ本体に登録されたチャンネルの地域設定などを流用することはできないんでしょうか?

岡本 : 「アプリキャスト」がテレビの設定情報にどこまでアクセスできるかには、セキュリティの観点からも慎重に取り組んでおります。お客さまにとっても、自分の情報が勝手に取られるのでは気持ちが悪い部分もあると思いますので、現時点では直接アクセスできないようになっています。

--コンテスト以外で、開発者向けにアプリの利用者数などの情報のご提供はされていますか?

岡本 : 投稿のものに関しては「週間ダウンロードランキング」という形で上位の3アプリの順位は出しておりますが、具体的なダウンロード数などはまだ出しておりません。投稿された方にとっては励みになると思いますので、可能な範囲でそういう情報も出していきたいですね。

ユーザと共に考えるテレビの未来

--“BRAVIA”「アプリキャスト」の現状と今後の展開についてはどのようにお考えですか?

岡本 : 公式アプリもようやく40を数えるほどになりまして、法人向けのエントリーにつきましては当初はわれわれからお声掛けしていましたが、先方からお話をいただくことも増えました。自分たちが開発したアプリだけで回っている時点では、ウィジェットのプラットフォームと言うよりもポータルサイトみたいなものですので、ようやく本来のあるべき姿になってきたなと。公式アプリで一定のクオリティのものを“BRAVIA”の価値としてご提供させていただきつつ、法人・個人のエントリも含めた両輪で運営していければと思っております。
まだテレビの中のウィジェットは育てていくフェーズだと考えておりますし、ようやく手応えをつかんできて、まさにどう展開していくかを検討している段階です。携帯やフォトフレームといったさまざまな端末との連携なども考えていきたいですね。

熨斗谷 : まだソニー独自のものと言えるほどではないですが、手応えは実感しています。春の新商品では、リモコンにFeliCaポートを搭載しまして、さらに新しい展開を考えているところです。

小板 : マーケティングサイドとしましては、“BRAVIA”は100%ネットワーク対応しておりますので、すべての方に「アプリキャスト」を使っていただきたいというのが希望ではあるんですけれども、一番最初にやらなければならないのが、そもそもテレビをネットにつないでいただくことなんですね。そこは店頭などでのプロモーションでも推進していきたい部分です。

熨斗谷 : 私も最初はテストのつもりで登録したりしていたものが癖になってしまって、毎日見ていたりしますね(笑)。

岡本 : マーケティングサイドとしましては、“BRAVIA”は100%ネットワーク対応しておりますので、すべての方に「アプリキャスト」を使っていただきたいというのが希望ではあるんですけれども、一番最初にやらなければならないのが、そもそもテレビをネットにつないでいただくことなんですね。そこは店頭などでのプロモーションでも推進していきたい部分です。

-これから「アプリキャスト」で開発されようとする方に向けてメッセージを。

岡本 : テレビがネットにつながるようになって新たな可能性を模索しているところですが、テレビの未来について、私たちメーカーサイドの開発者だけでなく、是非デベロッパコミュニティの方々と一緒に考えていきたいです。そのために開発ツールとしてPC上で動くエミュレーターを用意しております。さすがに個人で開発のためだけに“BRAVIA”をいきなり買っていただくのはハードルが高いかと思いますので(笑)、まずはPC上でテレビで動いてる姿を想像しながら開発していただければと。

--“BRAVIA”の実機を持っている開発者の方の動作確認はどのような形に?

岡本 : USBメモリにアプリを入れていただければ、そこから直接起動することができます。私も一開発者としてひとつ保証できるのは、自分が作ったものが大画面のテレビで動くと、本当に新鮮な驚きがあるということです。この感動は是非とも体験してみて欲しいと思っております。

--ありがとうございました。

文:坂本 寛(タブロイド)/widgetown編集部
2009年2月26日

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熨斗谷 泰司

ソニー株式会社 テレビ事業本部 商品企画部
1985年入社。 国内マーケティング、オーディオ商品企画の経験を経て2007年より現職。

岡本 直也

ソニー株式会社 テレビ事業本部 ソフトウェア技術部門
1995年入社。カムコーダーなど組み込みソフトウェア開発に従事し、2006年からアプリ キャスト開発に携わる。

小板 秀昭

ソニーマーケティング株式会社 ディスプレイマーケティング部
1997年入社。営業や他商品のマーケティング担当などを経て2006年より現在の部門にて、ブラビアのマーケティングに携わる。

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