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第16回 リコー「quanp drop」 ウィジェット制作レポート
「quanp」のコンセプト「file your life.」
デスクトップに、ルーペのようなロゴの描かれた、シンプルなデザインのそれがある。ファイルを近づけると、急に口が開き壁紙に穴が空いたようになり、ファイルが吸い込まれていくアニメーションが表示される。見るものの興味を強く喚起する「quanp drop」は、2008年の3月より提供されているオンライン上でファイルの保存・共有ができるストレージサービス「quanp」へのアップロード専用ウィジェットである。その遊び心のあるアニメーションが注目を集め、多くのメディアで取り上げられたのは記憶に新しい。このサービスの提供会社は、創業70年以上の歴史を誇りこの国の発展を支えてきた製造メーカー、株式会社リコー。今回は、「新たな価値を生み出したい」ということで開発が進められている老舗企業提供の話題のwebサービスに迫ってみたい。
まず、「quanp」とは一体どういうサービスなのか。原田貴昭氏はこう話す。
「『quanp』は、ファイルをオンライン上でアーカイブデータとして保存していくというサービスです。クライアントソフトである『quanp.on』、Webブラウザからのアクセスできる『quanp.net』、Officeアプリケーションからアクセスできる『quanp Add-in for Microsoft(R) Office 2003/2007』、そしてアップロード用のウィジェットである『quanp drop』と、さまざまな入力用ツールがあり、多様な入り口からファイルをアップできるようにしています。また、『quanp』に保存した写真は、『quanp photo print』でプリントでき、『quanp.mobile』で携帯から閲覧することができ、『quanp slideshow』でデスクトップ上にスライドショー表示させて楽しめるというように、ファイルをアウトプットする出口もそろえております。『quanp』は、簡単に言えばオンラインストレージサービスなのですが、一般的に利用されているようなストレージサービスとは違うアプローチを試みています。それは、ユーザの人生をそのまま記録していくということ。その試みのコンセプトとして『file your life.』という言葉を掲げています」
プロジェクトの中心人物である鈴木弘之氏がこう続ける。
「一般的なオンラインストレージサービスは、登録してもファイルの名前しか見えませんが、『quanp.on』は、3Dでファイルを表示する機能があります。これで登録してあるデータをビジュアル化して、直感的に操作することが可能になっています。また、タイムラインでファイルを表示できる機能がついており、時系列にファイルを追っていくことができます。例えば、1年前に自分は何をやっていたのか、ということを知りたいと思ったときに、順にファイルを見ていくことで、ファイルに紐づいた過去を思い出すことができます。それで、ああ、昔、ここへ旅行へ行ってこういうことを思ったな、というような自己の再発見に繋がります。そこからものの見え方が変わったり、新しい発想が生まれたり。知的創造的な方向へ過去の思い出が活用されることを狙っているんです」
「quanp drop」のできるまでとこれから
その人のデータの並びから人生を提案するwebサービス「quanp」。そのアップロード用ツールとして2009年3月に発表された「quanp drop」を開発した経緯はどういうものなのだろうか。「先ほど説明させていただいた『quanp.on』は色々な機能を集約したクライアントソフトです。『quanp』の機能を網羅的に活用する際は非常に便利なツールです。しかし、例えば、一つのデータだけを『quanp』に預けたい場合、デスクトップに常駐させておいて必要なときにすぐデータをアップしたい場合など、『quanp』の単機能を連続して利用したいユーザ向けに、軽くて手軽で、デスクトップからいつでも活用できるツールも提供したい。そういうニーズから、このウィジェットを企画することになりました。『quanp drop』は、デスクトップで利用することを意識して、フォルダにファイルを入れるのと同じ感覚でファイルの複数登録を可能にしたり、『quanp』へのログインをデータのアップロード時のみにし、ウィジェット起動させた際にはログインを要求しないようにしたりと、操作性を重視したつくりになっています。」
このウィジェットの特徴といえば、なんといっても見ていて楽しくなるアニメーションである。デザイン面でこだわったところはどういう部分なのだろうか。デザイナーである諸星博氏はこう語る。
「まず、機能については、直感的な操作を意識して、ドラッグ&ドロップでアップロードできる、という点にこだわりました。そして、当然ですがディスプレイの大きさはユーザの使用するPCによってまちまちなので、ウィジェットはスクリーンのエリアが違う中でどれくらいの大きさが適切なのか、というところが難しかったです。また、利便性のみで無く、使っていて楽しいウィジェットにしたかった。ユーザに気に入って使ってもらえるようにまずは3種類のデザインを用意しました。1つはシンプルな的のようなデザイン。2つめは「器」のようなデザイン。3つめは、SFっぽく、電子空間へのゲートをイメージしたもの。この3種類のデザインで幅広いお客様に利用していただくことを狙いました。もちろん今後さらにデザインを増やしていくことも考えています。」
「quanp drop」が生み出した「新しい価値」
「quanp drop」発表後の反響はいかがだったのでしょうか? という質問に対して原田氏はこう話す。「大変好評です。使っていて楽しい、動きがかわいいという意見を頂いています。開発した側としても嬉しいところですね。メディアでも多く取り上げていただきました。機能が明快でアニメーションの楽しいことがよかったようです」
諸星氏が続ける。
「私は、『モノ・マガジン』に掲載されたのが良かったです。あの雑誌は『モノ』というだけあってハードウェアが掲載の中心なんですね。そこでソフトウェアであるウィジェットが紹介されたということで、仮想なんだけれども『モノ』の感覚があると評価していただいたのだと思っています」
デスクトップの表示でしかないウィジェットでありながら、「モノ」としての地位を確立することに成功した「quanp drop」。これらの「新しい価値」の上で、今後どのように「quanp」は発展するのだろうか。最後に、「quanp drop」の利用者へ向けてメッセージをお願いした。
「遊び心を忘れず、今後もエモーショナルなユーザインターフェースのサービスを提供していきたいです。今後にも期待をしてください」と原田氏。
「いっぱい情報を貯めて新たな自分を発見するツールなので、たくさんデータをアップしてください。また、新しいデザインにも期待していてください」と諸星氏。
最後に鈴木氏が、「これをゴールだとは思っていません。今後も手を入れて成長させていきたいので、ぜひご意見を頂戴したいです。ユーザからのご意見が私達の後押しになります」と締めくくった。
「quanp drop」は今現在も、どこかのデスクトップで「quanp」ユーザに利用され、あの、クラウド・コンピューティングを可視化したような洗練されたデザインで各地のファイルを飲み込んでサーバに送っている。そのことを想像するとなんだか楽しくなってくる。きっとそのユーザも楽しい気持ちファイルをアップしているはずだ。原田氏の語る「エモーショナルなユーザインターフェースのサービス」は、確実に広まっているように感じられる。
「quanp drop」
文:widgetown編集部
2009年4月27日
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