2009年08月21日 (金)時論公論 「'09衆院選~地球温暖化にどう取り組むか」
(藤井キャスター)
まもなく行われる、衆議院選挙の結果は、今後の、日本の地球温暖化対策にも大きな影響を与えます。各政党の取り組みを、室山解説委員がお伝えします。
(室山解説委員)
今年は、地球温暖化をめぐって、人類の未来を決める重要な年です。今年12月にデンマークで開かれる、気候変動枠組み条約締約国会議COP15では、2013年以降の、世界の温暖化対策の在り方をめぐって、熾烈な議論と交渉が行われ、参加各国の、経済、社会に、大きく影響するといわれています。
それだけに、「地球温暖化対策」の延長上に、一体どのような国家をつくりあげるのかというビジョンが、今ほど問われている時はありません。
今回の衆議院選は、その日本の進路を決める重要な選挙です。
では、各党は、地球温暖化に対してどのようなスタンスで臨もうとしているのでしょうか。各党の公約に、どんなテーマが、どういう順番で掲げられているのかを見てみます。
結論から言うと、どの党も、公約の上位に、経済、雇用、社会保障、教育などをあげ、「地球温暖化対策」は、下位のほうになっています。
「環境は票にならない」とよく言われますが、その構図がここにも現れています。
地球温暖化問題が、単なる環境対策を超えて、社会や経済、文化の仕組みにまで、深くかかわり、私たちのライフスタイルそのものを変えていくインパクトを持つことを思うとき、この、位置づけには、ある種の失望と、物足りなさを感じてしまいます。
では、各党は、どのような地球温暖化政策を掲げているでしょうか。今、国連の場で、大きく議論されているのは、先進国が、いつまでにどのくらいの温室効果ガスを削減するかという、「中期目標」の数値です。
国連の「気候変動に関する政府間パネルIPCC」は、地球の気温上昇を2.0-2.4度に抑え、温暖化の影響を、最小限に食い止めるには、2020年までに先進国全体で、1990年比、25-40%の削減が必要だと述べています。
この「中期目標」をめぐって、自民党と民主党は違う立場を示しています。
自民党は、「2020年までに2005年比で15%削減」(1990年比で8%削減)と、今年6月、政府が発表したのと同じ数字を掲げています。
一方、民主党は「1990年比25%削減」と、自民党より高い数字を打ち出しています。
このほか、共産党と社民党の削減率が、「1990年比30%」、国民新党「2005年比20%」、公明党「1990年比25%」と、自民党よりも、高い削減目標となっています。
数字の背景に、どのような考え方の違いがあるのでしょうか。自民党と民主党の主張を比較してみます。
自民党の数字は、「既存の経済体制の中で、義務づけなどの厳しい規制を避けながら、最高効率の機器を最大限導入して達成できる」数字を基礎にしています。そして、「これ以上、中期目標を高くすると、日本経済へのダメージが大きくなり、鉄鋼などの産業が海外流出し、国内産業の空洞化が起きる」という声に理解を示しています。この意味で自民党の数字は、既存の経済に重心を置き、積み上げ方式で割り出した「ボトムアップ」の数字ということができます。
一方、民主党は、「自民党案では、数字が低すぎ、IPCCが科学的に指摘する、地球温暖化防止には不十分だ。よって国際世論にも支持されず、結果的に国益を損なう。むしろ、もっと意欲的な数字を出して世界をリードし、温暖化防止と、低炭素社会つくりを強力に推進すべきだ」と主張しています。民主党の数字は、地球温暖化の被害を最小限に食い止めるために必要な、削減量から逆算して、目標を設定する「バックキャスティング」という発想に支えられています。
この民主党案に対して、自民党は、「自民案ですら、2020年の国民の負担増が、可処分所得480万円の世帯で、年間7.7万円になるのに、膨れ上がる国民負担をどう処理するのか」と批判しています。
これに対して民主党は「その発想には、地球温暖化がもたらす被害額が入っていない。また、低炭素社会をいち早く達成すれば、むしろ低炭素型の新しい産業が生まれ、所得も上昇する。国民負担のみを強調するのではなく、低炭素化のポジティブ面を合わせて考えるべきだ」と反論しています。
そして、「炭素に価格をつける」政策、たとえば、国内の各企業などに、温室効果ガスの排出枠を割り当て、その過不足分を金銭のやり取りで調整していく、「キャップ&トレード方式での国内排出量取引」を行ったり、炭素の使用量の割合に応じて税をかける、「地球温暖化対策税」を導入する政策を打ち出しています。
しかし自民党は、「キャップ&トレード方式は、むしろ企業間の不公平や、過度のマネーゲームにつながる可能性」もあり、慎重に進めるべきという考えです。
公明党は、民主党と同じような考えを示しつつも、与党としては、自民党と歩調を合わせる構図となっています。
温暖化対策として、今世界の大きな流れになりつつあるのが、再生可能エネルギーです。
自民党は、再生可能エネルギーの中で、太陽光発電に重点を置き、「太陽光発電を2020年に20倍、2030年に40倍にする」政策を打ち出しています。
民主党は「2020年に、再生可能エネルギーを、一次エネルギーの総供給量の10%とし、太陽光発電も含む、すべての再生可能エネルギーについて、全量買い取り方式の固定価格買取制度を導入」すると、積極的な姿勢を見せています。
しかし、この制度は、再生可能エネルギーを普及させる強力な方法ではありますが、電力会社の電気料金の値上げを伴うため、その国民負担をどのように処理していくのかが課題です。
「原発」については、核廃棄物の問題などから、共産党と社民党が反対。その他の党は、CO2の排出がないことなどから、基本的には推進の立場で、特に自民党は、積極的な推進を打ち出しています。
以上、各党の温暖化対策を比較してきましたが、私は今後に向けて2つのことを指摘したいと思います。
1つは、マニフェスト全体との整合性です。
与党はすでに、地域活性化や経済対策の目的で、「土日1000円高速道路乗り放題」の政策を進めていますが、温暖化対策の観点からみると、CO2排出増加を伴うため、問題があると指摘されています。
民主党も、マニフェストの目玉に「高速道路無料化」を打ち出していますが、これまた、温暖化対策と矛盾するという、強い批判があります。民主党は、「高速道路への車の流入で全体の渋滞が減り、CO2削減効果もありうる」と述べていますが、本当にそうなのかについては、十分に説明しているとは言えません。
いずれにしても、どちらの政党も、温暖化対策と、ほかの政策とのすり合わせが不十分で、温暖化防止に対する熱意に、疑問を感じてしまいます。
私が、もう1つのべたいことは、どの政党も、22世紀に向けた「国家観」をもっと強く打ち出すべきではないかということです。「地球温暖化問題」は単なる環境問題を超えて、「化石燃料」に依存してきた文明から脱却し、生物多様性を守り、エコロジーとエコノミーを両立させて、人類がどのような低炭素社会を築いていくかを問いかける、重要なテーマです。エネルギー、地域社会、経済、文化など、国民生活を根本的に変えていく、大きなインパクトを持っています。この「地球温暖化」に対する政策を、「社会保障」「経済」「教育」などと、どうからめながら進めるのか、そのグランドデザインを、しっかりと提示すべきではないでしょうか。
投票まであと9日。
各党が、地球温暖化対策の影響の重大性をもう一度かみしめ、どのようなビジョンに基づいて行動するのか、さらに十分な情報と、丁寧な説明を、国民にすることを、強く望みたいと思います。
投稿者:室山 哲也 | 投稿時間:23:59