民主党の
鳩山由紀夫代表は「東アジア共同体」構想に賛成だそうです。やがては進めて、実現したい構想だとのことです。
しかし現実にはこの構想がいかに欠陥や落とし穴、謀略までを含んでいるか、私がこれまで書いた記事を紹介しましょう。
記事を書いてから数年が経ってもその指摘は少しも古くなっていない点にはいささかの自負を感じています。
要するに「東アジア共同体」というのは妖怪のような存在なのです。
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【緯度経度】ワシントン・
古森義久 「東アジア共同体」への疑問
2004年12月04日 産経新聞 東京朝刊 国際面

「東アジア共同体」構想という妖怪がアジアを徘徊(はいかい)している-。
やや陳腐な形容かもしれないが、マルクスの「共産党宣言」の表現がつい連想されてしまう。
いまや日本の外交課題として浮上したようにみえる東アジア共同体という言葉はその実態を知ろうとすればするほど、奇々怪々な側面が影を広げる。
実態がどうにもつかめない。
だから妖怪などという形容が頭に浮かぶのである。
ワシントンで最近、東アジア共同体なる構想についていやでも真剣に考えさせられる機会があった。
十一月中旬に開かれた
米国民間のアジア研究機関主催のセミナーでこの構想に米側の学者らから鋭い批判が浴びせられたからだ。
「
東アジア共同体というのが当面、貿易や投資など経済面での地域統合を目指すのならば、なぜ
アジア太平洋経済協力会議(
APEC)ではいけないのか。背後に米国や
オーストラリアをアジアから排除する意図があるからではないのか」(ジョージワシントン大の
ハリー・ハーディング教授)
「いまの構想では
米国、
オーストラリア、ニュージーランド、
台湾を排除し、排他的方向に動いており、このままだとその『共同体』は中国のパワーに圧倒されてしまう恐れが強く、
米国としては座視できない」(外交評議会のエドワード・リンカーン上級研究員)
では
東アジア共同体とは何なのか。
明確な定義はその構想を推進する
中国や日本の当事者たちの発表をみても出てこない。
文字どおりに解釈すれば、東アジアの諸国が一つの国のように統合しての共同社会ということになろう。
日本での
東アジア共同体評議会の第一回会合に
外務省を代表して加わった田中均外務審議官らの説明では、
中国、
韓国、日本に
東南アジア諸国連合(
ASEAN)の各国などが国家間の垣根を下げて、経済、社会、文化、ソフトな安全保障などを共通にする東アジア地域社会を共同体としてつくることだという。
アジアではすでに日本が
シンガポールとの間で結んだ
自由貿易協定(
FTA)の拡大が始まった。
その延長としての東アジア自由貿易圏という構想も考えられる。
さらには経済の交流をもっと進める東アジア経済地域統合も目標としてはありうる。
だが「共同体」となると、単に国家間の物と人の流れを自由にする経済統合を超えて、参加各国がもっと単一性を強める、つまり一つの国家のようにさえなる状態が当然、意味される。
東アジア共同体の構想を唱える側がよく類似例にあげるのは
欧州連合(
EU)である。
周知のように西欧諸国は国家の主権を大幅に削り、国境をなくし、単一のコミュニティー(共同体)をつくり、通貨の統合から外交、安全保障の統合にまで進み、
連合を結成した。
東アジア共同体の構想も理論的な目標としてはこの
欧州連合と同じだと思える側面が多々ある。
違うのだと明確に否定する当事者も少ない。
まして中国がこの構想を「東亜共同体」と記すのをみると、日本を
中国などと単一の国家連合にすることが最終目標のようにみえてくる。
日本と中国が一つの国家ふうの共同体となるというのなら、これは大変な事態である。
日本という国家の在り方の根幹にかかわってくる。
現に欧州をみても各国が共同体や
連合へと進むには、国をあげての議論に徹し、議会で審議し、表決し、さらに
国民投票までを経た末だった。
いわずもがな、各国はみな民主主義や法の統治を確立し、文化や宗教を共有し、領土紛争がない。
だが日本ではいま国論と呼べる議論さえないまま、中国と同じ国になるにも等しい重大な構想が前進し始めているのだ。
発展段階のまるで異なる複数の経済地域がどう一つになれるのか。
自国内で移住の自由がない中国からの人の流れを日本はどんな理屈で自由に受け入れるのか。
米国との経済のきずなはどうなるのか。
さらに重要なのは安全保障である。
核兵器を保有する
中国との共同体は日本にとって軍事大国へ吸収されるに等しい。
日本を守る最大手段となってきた日米同盟はどうなるのか。
そして尖閣諸島の領有権での日中両国の衝突、靖国問題に象徴される両国間の価値観や世界観の天と地ほどの断層、その背後にある
中国側の国民にしみついた反日の思考と感情はどうするのか。
この種の疑問は共同体構想をまじめに考えれば考えるほど数が増えていくようなのだ。
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さらにもう一つ、この課題では
アメリカがどう反応するかも重要です。そのアメリカの反応については以下の記事を書きました。
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【潮流】東アジア共同体構想 米議会に強まる警戒論
2005年12月24日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面
いまアジアで論じられている「
東アジア共同体」構想は、
中国による東アジアからの米国排除の外交戦略という危険性をはらみ、
米国は早急に対抗策をとるべきだという意見が
米国議会内外で強まってきた。
二十三日までに作成された
米国議会調査局の報告書で明らかにされた。
米上下両院の政策審議の指針を供する同調査局の報告書は、東アジア諸国にも中国の主導権拡大への懸念が強いことを伝えている。
「東アジア・サミット=議会にとっての諸問題」と題した報告書は、今月十四日に開かれた初の東アジア首脳会議に合わせたように連邦議員の法案審議資料として作成された。
同首脳会議の開催とその延長線上にある
東アジア共同体構想について、
米国にとっての意味を分析している。
報告書はまず全体の認識として、
(1)東アジア首脳会議は中国の地政学的な比重の拡大の表示と受け取れる点で重要
(2)同首脳会議は将来、
米国抜きで安全保障問題や貿易問題の集団合意を生む
東アジア共同体につながりうる点で
米国に戦略的課題を突きつける
(3)構成メンバーから
台湾を排除している点で中国の戦略意図を強く反映する
――などと指摘した。
米国の対応については、
(1)米国が東アジアで決定的に重要な役割を果たしているにもかかわらず、東アジア首脳会議や共同体構想に対してなんの具体的な対応措置もとっていない
(3)
米国は東アジア首脳会議や共同体構想が具体的になにをするのか不明なため対抗措置をとれないとも主張するが、
APECの後退は否めない
――と説明している。
中国の狙いについて同報告書は、
(1)アジアの多国間機構を自国の外交目標に利用できるという基本的な計算が明白
(2)年来の東南アジア各国の共産ゲリラ支援をやめ、南シナ海の領土紛争への主権主張を和らげることで各国の警戒を減らした
(4)米国の東アジアでの安保、外交などの影響力が比較として低下したとみる
(5)東南アジアを自国のエネルギー資源の重要な供給源あるいは輸送経路とみる
――などをあげた。
東南アジアなどの対応について、報告書は
シンガポールなどが中国の影響力の一方的な拡大を恐れながらも
中国との関係の緊密化を求めるというジレンマを抱えると指摘する。
さらに、
中国主導での地域統合への動きに日本が抵抗しながらも、東アジアでの相対的な影響力低下によって、
インドやオーストラリアの力を借りて
中国に対抗する状態だと分析している。
報告書は
米国議会への政策提言という形で、「
中国が
東アジア共同体構想などで
米国のアジアでの役割を抑え、減じるという戦略的意図は
中国の
上海協力機構への対応をみても明白であり、やがてはアジアの米軍の駐留までも減じようとしてくる可能性があるため、
米国はアジアでの積極的かつ協力的な当事者であり続けることを具体的な対外措置で示すべきだ」と勧告している。(ワシントン
古森義久)


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by しゅん
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