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【社説】

歴史的体験を共に 週のはじめに考える

2009年8月23日

 時代はどうやら生半可ではない「変革」を促しているようです。政権選択の衆院総選挙へ、あと一週。私たちは歴史的な場面に立ち会おうとしています。

 新聞メディアが刻々と伝える選挙情勢に、四年前の二〇〇五年総選挙の記憶がよみがえります。

 自民党は二百九十六議席、公明も加えた与党が衆院の三分の二超を席巻した結果に、戸惑いながら、本紙社説はこう結びました。

 「小選挙区制の選挙とは本来こういうものだ。言い換えれば、惨敗した民主にも、次は政権交代実現が夢物語ではない。それで政治が緊張するなら、せめてもの救いではある」

 政権交代を元首相が予言

 その後、〇七年参院選で自民は大敗し参院与野党勢力が逆転。衆参で多数派の異なる「ねじれ」状況に耐えられず、自民の首相が二代続けて政権を投げ出します。

 野党に取って代わられる不安。良くも悪くも緊張の四年でした。

 そして今回衆院選。四年前の首相で、自民大勝の立役者だった小泉純一郎氏が、応援遊説先で「政権交代」を予言しています。

 「これだけの反自民の風。よほどのことがない限り政権は交代する」「自民党は野党を経験するのも悪くない」と。

 たしかに自民候補の苦戦があちこちから伝えられてきます。

 小泉後の安倍、福田両政権、そして麻生政権誕生にも一役買った重鎮の森喜朗元首相でさえ、民主の女性候補の攻勢を「えたいの知れない風や雲」と嘆きます。

 メディアの伝える情勢は、四年前の勝者と敗者がそっくり入れ替わる可能性をうかがわせます。

 もちろん選挙は結果を見極めるまでわかりません。残る一週間、自民も政権存続へ必死です。

 はっきりと言えるのは、政権交代がけっして「夢物語」ではなくなったということでしょう。

 頭を切り替えて備えたい

 政党政治、民主主義体制の国なら当たり前のことが、当たり前のようにある。統治権力を握らせた政党がもしも道を誤るようなら、有権者が選挙で下野させる−。

 文字通り、国民が政権を選択する時代の到来を実感しませんか。

 多様な民意を二大政党へ無理やり振り分けてしまう選挙制度を、私たちは問題なしとはしません。

 ですが、ここは長年の自民政治に下される国民の審判を冷静に見届けたいと考えます。

 伝えられる自民の劣勢は、はたして一時的な民心離反や長期政権への飽きによるものでしょうか。

 そうではなく自民政治を支えた保守風土の「地殻変動」だとする見方も少なくありません。

 アフリカ系大統領が誕生した米国の政権交代に触発された面もありましょう。そうであっても、行き詰まり感に満ちるこの国に確かなチェンジの風が吹くとすれば、画期的な総選挙として政治史に記されるに違いありません。たとえ最終の結果はどうあれ、です。

 ならば、私たち自身、これまでの「常識」にとらわれず、頭を柔軟にして、変化の時代に備えねばなりません。

 共産党までが「民主党政権」誕生を見越して、選挙後は是々非々で協力もある、と「建設的野党」を宣言する転換期なのです。

 政党マニフェストが選挙戦の争点を掲げています。攻める民主など野党のそれは、自民や公明の与党に言わせれば「財源の裏付けのない、まやかし政策集」。メディア論調の多くも財源明示を迫ります。

 これに反論する学者がいます。北大教授の山口二郎氏は著書「政権交代論」で、野党の「正確な財源の見積もりは不可能」と断じています。

 そして、政権を目指す政党に最も重要なことは「こぢんまりした整合性ではなく、現状を批判することと、よりよい社会を提示する構想力である」と。

 政権党こそ公約に照らして実績の厳しい査定を受けます。年金や医療、介護の実態、雇用に表れる格差社会に何を成したかです。

 「日の丸」が民主の党旗へ切り張りされたと麻生首相が声を張り上げても、聴衆の反応がいまひとつなのは、そういうことです。

 政権交代があるとすれば、民主はマニフェストの誠実な実行が、政権維持のための至上命令となります。「脱・官僚政治」を唱える追い風の民主候補たちは、その意味をわかってのことでしょうか。やり抜けなければ、即、退場。

 国政の無責任を正す機に

 政と官がもたれ合う旧来の政治は、責任の所在がうやむやな、誰も責任を取らない、緩んだ国政を長らく許してきました。

 この総選挙をきっかけに、おカミに弱いとされてきた、伝統的な国民性を自ら変える。そして、無責任行政と決別する。

 そんな歴史的体験を、ぜひ、みんなで共有したいものです。

 

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