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社説:視点 衆院選 日米と民主党 「対等」の中身を語れ=論説委員・岸本正人

 「日米同盟」を外交の基軸とする日本の政治が外交・安全保障で米国の意に沿わない内容を主張するのはタブーだった。かつて非自民・細川政権下で発足した「防衛問題懇談会」の報告書は、「日米安保」の前に東アジア地域の「多角的安保」や国連重視の姿勢を記述した。これが日米同盟軽視と映り、東アジア戦略と日米関係再構築の作業を進める米政府に「日米安保再定義」の必要性を認識させる要因の一つとなった。

 民主党も衆院選マニフェストで日米同盟を「日本外交の基盤」と位置付ける。対米関係重視の考えは自民党と変わりない。が、同時に「緊密で対等な日米同盟関係」を掲げる。「米国とともに歩むことが日本の国益になる」というある外交官の説明は、自民党政権の「対米追従」を合理化する論理だった。民主党の方向は明らかに異なる。

 問題は「対等な関係とは何か」である。民主党マニフェストは、主体的な外交戦略を構築し、米国と役割分担して日本の責任を積極的に果たす--とうたう。しかし、その中身に触れていない。これが、民主党の対米スタンスが不明に映る理由である。

 マニフェストに盛られた日米地位協定の改定、米軍再編や在日米軍基地のあり方の見直しは、それ自体は当然かつ重要な政策であるとしても、対等な関係づくりの全容ではない。

 日米の軍事力の歴然とした落差を前提とした「対等な関係」は、三つの要素から成る。

 第一は、気候変動をはじめとする環境問題や貧困・感染症対策など地球規模の課題での日米協力強化である。日本の技術力は大きな武器となる。また、核廃絶や軍備管理など国際的な平和問題の取り組みに対する日本の積極的貢献も重要となる。軍事大国・米国に対する日本の影響力が問われるテーマである。

 第二は、東アジアの新たな秩序構築に向けた日本の役割と、この分野での日米連携強化の方向を明確にすることだ。対中国、対北朝鮮政策が軸になる。日本の能動的姿勢がカギを握る。

 そして第三は、自衛隊の活用を含めた国連活動への積極的参加など平和構築の取り組みと、日本の防衛に関する日米協力である。「核の傘」を軸とする「拡大抑止」の是非や集団的自衛権行使が重要な論点となる。

 軍事面だけで「対等」の中身を語ることはできないが、第三の要素を抜きにして日米関係を説明できないのも事実だ。

 民主党中心政権が現実味を増している衆院選である。鳩山由紀夫代表には対米関係の体系的ビジョンを示してもらいたい。

毎日新聞 2009年8月23日 東京朝刊

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