2009年8月15日0時0分
明願寺で避難生活を送る住民たち=12日、兵庫県宍粟市一宮町、宮崎写す
明願寺で避難生活を送る住民たち=12日、兵庫県宍粟市一宮町、宮崎写す
明願寺に避難した住民たち。避難所生活で連絡を取り合うため、それぞれの携帯電話の番号を段ボールに記していた=12日、兵庫県宍粟市一宮町、宮崎写す
台風9号の影響による豪雨で橋が流された兵庫県宍粟(しそう)市一宮町。65歳以上の住民が半数を占める山あいの集落で、お年寄りら100人余りが一時孤立したが、全員が無事に避難し、二つの寺で過ごしている。一刻を争う救出劇で発揮されたのは、普段から培ってきた「ご近所力」だった。
揖保川の上流、福知川沿いに広がる福知地区。その高台にある明願寺(みょうがんじ)を訪ねると、本堂の大広間で高齢者から子どもまで70人余りが寝そべったりおしゃべりをしたり、思い思いに過ごしていた。
大きく腰が曲がった88歳の女性は、家の前の橋が流され、身動きできないところをヘリコプターで救助された。「一緒に避難した若いもんがおってくれりゃあこそ。洗濯もしてくれるし、幸せですわ」。別の一人暮らしの女性(88)は「家に戻れんで犬が心配やけど、集落と行き来する近所の人が散歩させてくれた。ありがたいこっちゃ」と話した。
助け合いと励まし合い。それは、大雨に見舞われた9日の夜も同じだった。消防団の副団長を最近まで8年間務めた堂本照雄さん(59)は「大事なのは、バラバラにならずにまとまることだった」と振り返る。
電気が止まり、電話もかからなくなった。外を見ると福知川の川幅がみるみる広がり、あっという間に3本すべての橋が流された。約160世帯の福知地区で三つの集落が孤立状態に。孤立した集落に住む堂本さんは一軒ずつ訪ね、高台にある自分の家の付近に集まるよう指示した。
小降りになった後、濁流に耐えた水道管を伝ったり、防災ヘリに乗せてもらったりして、11日昼までに全員が川の対岸に避難した。「どこに誰が住んでいるか、普段から情報を集めるようにしていた」と堂本さん。だから逃げ遅れは発生しなかった。住民たちは「てっちゃんのおかげ」と口々に言う。