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ブラジル映画

2005年05月23日 | 演劇、映画、旅、音楽、自然
雨の中、アルジェンチン大使館に出向いて、ラテンアメリカ映画祭の最終回であるブラジル映画を鑑賞した。 

1995年、ブラジルの大都会サウパウロ。 古びた商店街の一角にあるレコード店。 30代後半の、黒い髪を肩まで伸ばしたダンピーが、店主兼店員を、ブラジルの暑さに汗をかきかき務めている。 冷房もないようだ。

ダンピーは母親のエティーと二人暮らし。 親思いの息子であるが、六十代後半の母親が年とともに、料理の手抜きがひどくなり、家の掃除もいい加減になってきたので、女中を雇いたいと、エティーに提案。

最初は嫌がっていたエティーも、女中志望者の面接を始めた。 月800ドル(米ドル換算)要求する求職者。 1960年代の物価が頭にこびりついているエティー。 数人の応募者すべてを、断ってしまったエティーに、あきれ返るダンピー。

店の中は、常に閑散としている。 店がある町全体がうらぶれていて、買い物客も少ない。 たまに、客が入っても、「CDを売っていないなんて、信じられないよ」と立ち去る。

父親が生きていた頃は、店が繁盛した時もあったが、時代の変化に付いていけない母が、実権をまだ握っていたので、店の商品は何十年と大きな変化がない。

ある日、若いかわいい女性が、女中志望で尋ねてきた。 「月百ドルでなら雇っても良い」とエティー。 その女性に一目ぼれしてしまったダンピーは、あわてて「見習い期間中は、月百ドルだ」と付け加えた。 目を丸くして瞬間吃驚したような顔をした女性は、「住み込みで良ければ、働かせてください」とにっこり笑った。

喜ぶダンピー。 甲斐甲斐しく働く女中。 生き生きと、その女中を指導するエティ。 吃驚するほど、美味しいブラジル料理が夕食に出て、母、息子は大満足。 

「今夜はちょっと用事があるので、出かけますが、明日の朝早く帰ります。」と女中。 「夕食後の片付けを終わらせてからだよ」とエティ。

翌朝、待てど暮らせぞ、女中は帰らない。 普段よく遊びに来る、隣の店の女子店員が、何時のように、遊びに来て噂話。 「お宅は、女中を雇ったのね。 昨日レストランから、夕食を買って持ち帰っていたよ」とぺらぺらとしゃべる。 

不審に思い、裏庭に面した離れの女中部屋を覗くと、可愛い6歳くらいの女の子が目覚めて、きょとんとベッドに坐っていた。 名前は「イザベラ」とはっきり答える、賢そうな子供だ。

よく見ると、置手紙。 「二日ほど留守にします。 その間、娘を宜しくお願いします」といった文面が飛び込む。

エティーは大喜び。 長年、息子が結婚もしない事に、業を煮やしていた上、孫娘が欲しいと以前から夢見ていたので、まるで神様からの贈り物のように、突然、イザベラを預かれたので、エティーは甲斐甲斐しく世話をやく。

久しぶりに、手の込んだ美味しいブラジル料理を、張り切って作るエティー。 近くの玩具屋で、女の子の欲しがりそうなおもちゃを買ったり、子供用自転車を買ったり、女の子が大好きだという馬の飾り物を買ったり、女の子と同じ大きさくらいの縫いぐるみを買ったり、普段はしまり屋のエテイーも、イザベラには喜んでお金を使った上、どこからエネルギーが出たのかと思うほど、エティーは全てにハッスル。

苦笑いをしながら、息子のダンピーは、そんな母の姿を見る。 

そんなある日、夕食後、テレビのニュースを見ていると、イザベラの顔写真が大写し。 「大農場の6歳になる一人娘が、誘拐され、家事手伝いをしていた女性を逮捕した所、逃走したので、射殺した。」と深刻顔のアナウンサーの声が流れた。

呆然と立ち上がる、母と息子。 二人は女中部屋にあったスーツケースの中身を詳しく調べた。 中からピストルが出てきたので、子供の届かない寝室の洋服ダンスの上に隠した。

息子は直ぐ、警察へ電話を入れようとするが、母は泣きすがり、「夜も遅いから明日の朝、電話しよう」と懇願した。 イザベラは遊びつかれたのか、ソファーですでに眠っていた。 

「明日の朝、必ず電話する」と約束して、その日は全員床についた。

翌朝、電話をしようとしたダンピーに、「ちょっと待って」と走り寄る母。 「イザベラと別れる前に、贈り物をしたい。 2時間ほど待って欲しい」と泣き声で頼むエティー。

なかなか帰らぬ母に肝を潰すダンピー。 漸く午後に帰った母は、両手に持ちきれないほど、イザベラへのお土産を抱えていた。 喜びはしゃぐイザベラ。 その様子を見て、目を細めるエティー。 

電話をかけようと、店の電話の受話器をはずしたダンピー、「おっかさん、電話が繋がらないよ、あれ、電話線が切れている」と大慌て。

窓の外を覗いていたイザベラは、観光用馬車を見つけ、エティーのいる部屋に走りこむ。
3人は馬車の中。 バス、自動車で混雑した道を、白い馬が引く馬車が行く。 幸福を絵に描いたような情景だ。

馬車を降りたら、「隣の家から警察に電話をしよう」とダンピーは固い決心。 嬉しそうな母とイザベラを盗み見た。

自宅に戻っても、母はなかなかダンピーを隣の家に行かせない。 何時にない活発なレコード店の家族の動きに、隣のパン屋の女店員がやってくる。

「なぜ、閉店にしているの。 さっき、女の子を見かけたけれど、誰」と詮索する隣の女店員。 ダンピーは「従兄弟の子供が遊びに来ている」と苦しい言い訳をして追い返した。

玄関の鉄格子の扉の鍵もかけてしまった3人。 30分ほどして、再度女子店員が今度は大声で喚きながら、戸をドンドンとたたいた。 

エティーが玄関口で、その店員と口喧嘩。 どうも、店員は家の中に入ってきた様子。 二人は大声で叫びながら、家の奥に入って行くのを、店じまいしていた店内で聞いているダンピー。

「ズドーン」という音。 真っ青になったダンピーは、家の奥に走る。 口論のすえ、エティーは女店員を射殺してしまった。 床に転がった死体を、あわててベッドに寝かせ、毛布をかける。 床に滴り落ちる血。 混乱して座り込むエティー。 窓辺の椅子に座り、泣き始めるダンピー。

イザベラはエティーに買ってもらったバレー着をきて、窓の外を見ていたが、観光馬車が再度店先に止まったのをみて、エティーとダンピーが、呆然としている寝室に入った。

「馬、うま」とエティーを窓辺に連れてゆく。 何を思ったのか、鍵を開け、外に出るエティー。 御者と話し込んでいたエティーは、数分後、白い馬を買ってしまい、家の中に連れ込んだ。 

馬好きのイザベラは大喜び。 ダンピーは二階の窓を開け、隣の家の店主に警察に電話を依頼する。

超現実的な映画で、見る人により、いろいろ解釈できる映画だ。 映画の最初に、うらぶれた商店街の様子を、克明に見せてくれる。 

ポルトガル語の題名であり、予備知識なしで見たので、最初は、ドキュメンタリーかと思うような印象を持ったが、性格が正反対で、太った母親と痩せた息子の会話は漫談みたいだった。 会場からも笑いが多く、喜劇かと思ううちに、深刻な内容に変化した。

その内に、非現実的で、一人一人の人物が、何かを象徴している気もしてきた。

私は多分今回ブラジル映画を始めてみたと思う。 ブラジルの庶民を主人公にした映画だ。 富裕層と庶民の間に巨大な差がある事は、イザベラの母親がテレビで短時間出て、「誘拐者に娘を返してくれと頼んでいた」時に感じた。 「この事件のため、母はヨーロッパから急遽帰国した」とアナウンサーが説明していた。 

また、映画の始めに、イザベラが数頭の馬たちと、お別れしている場面もあった。 その場面からも、大牧場であることがわかったのだ。 イザベラは大金持ちのお嬢様。 エティーとダンピーは売れない店の所有者。

まるで、抽象画をみているような映画という気もした。 監督はアナ ムイラート(Anna Muylaert)さんだ。

 

 
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