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那国島からの警告 島を守るのは国を守ること

8月23日0時12分配信 産経新聞

 8月2日、沖縄県与那国島。この日投開票された与那国町長選が全国の注目を集めた。

 「自衛隊誘致派の町長が再選 与那国町長選」

 同町長選は自衛隊誘致を推進する現職、外間守吉氏(69)が反対派候補を制した。争点の自衛隊誘致は現職町長が自ら直接、防衛省に働きかけてきた“悲願”だった。

 東京から約1900キロ、沖縄本島からは約500キロの日本最西端の離島、与那国島。島の一周は28キロ弱、人口1600余り。ダイビングや海底遺跡、テレビドラマ「Dr.コトー診療所」のロケ地としても話題となった国境の島だ。ここになぜ自衛隊誘致話が浮上したのか。

 話は平成8年にさかのぼる。台湾総統選で3月に李登輝氏の優勢が伝えられたところ中国軍が反応。突然、軍事演習を強行し、台湾近海に向けた弾道ミサイル発射を通告してきた。総統選を快く思わない中国の威嚇だった。

 通告された危険水域は与那国島に近い。島民は困惑した。付近はカジキマグロの絶好の漁場だが、弾道ミサイル7発のうち、1発が与那国島の沖合約20キロの近海に着弾。与那国防衛協会の副会長、糸数健一(56)は「漁師たちは出漁できず困っていた。ひどい話だが、ショックだったのは、われわれの苦悩を誰も取り合ってくれないことだった」

 自民党総裁、麻生太郎は20日、鹿児島県内でインド洋での給油活動に関する民主党代表、鳩山由紀夫の発言をやり玉にあげ「ぶれている」と批判した。防衛問題が民主党の「アキレス腱(けん)」とみた麻生は攻勢を強め「日本を守るのは自民党」とアピールした。

 一方、民主党は論戦への深入りを避ける。党内の意見の隔たりが大きいからだ。12日の党首討論でも麻生は盛んに民主党を追及し続け、鳩山の防戦ぶりが目立った。

 しかし、こうした場で取り上げられるテーマはインド洋の給油活動やソマリアでの海賊対策、集団的自衛権など自衛隊の海外での活動に絡むものが目立つ。街頭で候補者が「国の守り」を正面から口にする機会は少ない。むしろ話題は年金や子ども手当など耳目をひく「暮らし」のテーマに向けられがちだ。

 航空自衛隊元南西航空混成団司令、佐藤守(69)は「中国の台頭で米国は中国の顔色をうかがうようになっている。そういう状況で、日本をどう守るか。自衛隊をどう整備するかが重要なはずだが、肝心の議論は乏しい」と嘆く。

さらに「国民がこういう話を避けている。自民党が国防にどこまで真剣だったか、怪しい点が多々あるし、民主党にいたってはマニフェストのどこにも『自衛隊』『防衛』の文字は見あたらない。これで、どのように対等な日米関係を構築するつもりなのだろう」と話す。

 与那国島にはかつては1万2千人が暮らしていた。が、今は過疎化が重くのしかかる。航空自衛隊のレーダーサイトは宮古島にあるが、陸上自衛隊は沖縄本島以西に拠点はない。島内にある武器といえるものは町内3集落のうち2集落に配置された2人の警察官のピストル2丁だけだ。

 元航空幕僚長、田母神俊雄(61)は原爆忌の8月6日、広島市での講演で南西方面の防衛に「中国は日本の顔色をうかがいながら徐々に手をのばしている。昨年12月の調査船は9時間半も領海侵犯した。明らかに意図的だ。日本は毅然(きぜん)と対応するのが大事で、増長を許すと、いずれ実効支配されかねない」と警鐘を鳴らした。

 田母神は“米国頼み”の防衛状況にも「日米同盟に一定の抑止力はある。が、他国から攻撃を受けたさい『日米同盟に基づき米国が守ってくれる』と信じて疑わないのはどうか。たとえ同盟国でも『自分の国民を自分で救おうとしない国』を米国が助けることなどできるはずがない。拉致問題を見ればそれは明らかではないか」。

 与那国への自衛隊誘致はこうした危機感が背景にある。糸数はこう強調した。「与那国を守るのは日本を守ること。自衛隊配備へのためらいや外国への気兼ねは必要ないんだ」

 =敬称略(おわり)

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最終更新:8月23日0時12分

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