★アナザーストーリー★

☆ アナザー00 茶織編 「大切な幼馴染」☆

わたしと遼くんは、幼馴染。
家が近かったこともあったし、同じ学校ってこともあったし、一番身近な男の子だった。

遼くんは優しくて、いろんな話をしてくれて……。
ち、ちょっとかわいくてたまに……いや、かなり女の子と間違えられたりしてた子で……。
よく一緒に帰ったり、遊んだりしたっけ。

けれど……その一番身近だった男の子は、中学に入る前にはもういなくなってしまっていた。

遼くんも、わたしも、違う場所で、違う生活が始まって……かなりの月日が経って……。

けど、わたしは遼くんのことをずっと忘れられなかったし、今も……忘れられないでいる。

「…………」

(カタン)

小さな音をたてて、机の上の倒したままになっていたフォトフレームをたてる。
そこには、幼い頃一度別れた、大切な大切な幼馴染。

「……わたし、ずっと待ってるよ……?」

(パタン)

そうして、またフォトフレームを倒す。
幼馴染の写真が入った、大事なフォトフレームを。



「茶織ー。今日日直じゃないでしょ? 一緒に帰ろうっ」
「柚夏。うんいいよ……って、柚夏、今日は部活ないの?」
「ないの? って……、もうっ! 茶織ってば! 今日雨じゃんっ!」
「…………あ」

窓の外を見ると、パラパラと音をたてて雨が降っていた。

「やだ、いつの間に降り出したの? 気づかなかった……」
「いつの間に……って、結構前から降ってたけど」
「そうだったんだ……」
「あと朝、天気予報でも『今日は午後からぁ、雨ですぅ〜』ってお天気の……なんだっけ、アイドルの子。白なんとかって子が言ってるの、聞かなかったの?」
「う、うん。その天気予報、観たことないし……」
「まあ、あたしもたまたま今日の朝観ただけなんだけどね。……あ。じゃあ傘も持ってない?」
「うん。どうしよう……」
「だーいじょーぶだって瑞宮! ここに傘を持っている俺が居るじゃねーか!」
「え? 優二くん? ……あ。ほんとだ、傘持って居るね? だから?」
「…………。……え、えっと」
「優二くんが傘持って居るとどうして大丈夫なのかな……」
「さ、茶織……」
「…………」
「優二くん? 柚夏もどうしたの? あっ、柚夏も傘持ってるんだね。良かったら入れてくれないかな?」
「う、うん……それはいいけど……」
「ありがとう。それじゃあ、また明日ねー! 優二くんっ」
「お、おお〜……あはは……はは……は……」
「えっと……いや……優二。今回ばっかりはアンタに同情するわ……」
「ふっ……いいのさ……俺は孤独を愛する男なのさ……」



「それにしてもさ……明日も雨なのかなぁ。だったら転入生、大変だよね」
「ああ。そう言えば転入生が明日、来るんだよね……確かに雨の日に転入ってちょっとイヤかも……」
「どんな人だろ。ゆあちゃんにちょっとだけ聞いたら男子、とは言ってたけど、カッコイイかな〜?」
「え、柚夏ってそういうの気にするタイプだっけ?」
「やだ、茶織ってば! そういうのは転入生が来たときのオヤクソクって言うじゃない!」

そ、そうなのかな……。

「あ。あとね、ゆあちゃんがちょっと言ってたんだけど、以前、この街に住んでた人なんだってよ?」
「…………えっ?」

――ドクン、と大きく心臓が鳴った。

「ん、だから、前に未空市に住んでた人みたい。で、親の仕事の都合でこっちの親戚のお家に引き取られて……って感じで転入になったんだって」
「…………」

ドクン、ドクン。
……心臓の高鳴りがどんどん増していく。

もしかして……。

「遼……くん……?」
「……えっ? 茶織、今何て言ったの? 雨音で聞き取れなかったんだけど」
「えっ……あ、ううん。何でもないの。ちょっと……」

もしかしたら知ってる人かも、なんて。
そんな偶然あるわけ……ないよね。



「それじゃあ、あたしこっちだから」
「う、うん。けど……本当にいいの? 傘……」
「大丈夫だいじょーぶ! あたし自慢じゃないけどほら、足速いし! ちゃっちゃと家まで走ってくわ!」
「で、でも濡れちゃうし……」
「これもトレーニングだと思えば楽しいもんよ! それじゃーねー茶織っ! また明日ー!」
「う、うん。またね。柚夏っ」

柚夏ってば……。
トレーニングになるとかちゃっちゃと走るとか言ってたけど、ここから結構遠いのに……。
雨に濡れて、風邪とか引かないといいけど……。
って言うか、本当に傘借りちゃって良かったのかな。

「…………」

まあ、もう柚夏の姿はとっくに見えなくなってるけど……。

「ふふ、やっぱり足、速いなぁ……柚夏」



(ピピーッ!)

「きゃっ!?」
「うわっ、すみませんっ!」
「い、いえ……わたしもちょっと歩道により過ぎてたし……」
「馬鹿! 何やってるんだ!」
「すいませんっ。この辺来たことなくって……えっと……この住所の通りだと……」
「あの……道がわからないんですか? よろしかったらわたし、案内しますけど、どちらへ行かれるんですか?」



「いやー、助かりました! 雨の中すいませんでした!」
「いえ、プルミェールでしたら近いですし……ここ、たまに通るんです」
「お知り合いがやられてるんですか?」
「あ。いえ、そういうわけでは……」

「ありがとうございましたー」と言ってトラックのお兄さん達がカフェ・プルミェールに入っていく。

「ふふ……」

……わたしがここをたまに通る理由。
それは、プルミェールが遼くんの親戚のお家だから。
宙さんと慧ちゃん、遼くんが引っ越しちゃってから全然会ってないな……。

「元気かなあ……」

久し振りに行ってみようかな。
晴れの日に、学校帰りに柚夏と優二くんも誘って。

「お疲れ様です」
「はーい。麻倉さん本人だよね?」
「はい」
「あ。それはこっちへお願いします。けーい! 手伝ってちょうだい〜」
「はい、姉様」

…………え?

「うそ……」

この、声。
懐かしい――以前と変わらない、優しい声。

「遼、くん……?」

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