「…………」
「…………芽衣?」
「…………」
「さ、さっきからどうしたの? 芽衣……。ぼうっと窓の外見たりなんかして……」
「…………あ」
「あくびなんかして……眠いの? んー……。今は他の生徒会役員がいないから良いけど、いつ人が来るかわからないんだから。もっとしゃきっと――」
「…………はぁ……」
「たっ、溜め息っ……!? め、芽衣っ、何があったの芽衣っ!?」
「窓の……外……。……はあ……」
「窓っ!? 窓の外に何があるのっ!? ――っ……!?」
(バッ!)
「…………芽衣……」
「はぁあ……」
「芽衣ってば……もう……驚かさないでよ……」
「……あっ……。行っちゃった……」
「めーい」
「あっ、でも後ろ姿も……かわいい……はぁああ……」
「聞いてないし……。重症ね……」
「ペンギンさん……!」
ペンギンさんが好きになったのは、いつのころからだろう。
小さい頃からずっと好きだった気がする。
・
・
・
「ごめんねひびきちゃん……とりみだしちゃって……」
「いいのよ。落ち着いた?」
「うん。お茶ありがとう。…………ん。おいしい」
「どういたしまして。でも、本当に芽衣ってペンギン好きよね」
「うん」
「ふふ。幸せそうな顔しちゃって。……さっきのってよく学園内を歩いてるペンギンよね? 誰が飼い主なのかしら……」
「知らない。……けど、男の子……ひとつ下の学年の子のと一緒によく歩いてるから……」
「あ……」
だから……いくら好きでも……近づけない。
「芽衣は男性恐怖症だものね……」
「うん……」
うう。
でも、でもっ……! ペンギンさんかわいい……かわいいっ……!!
一度でいいからぎゅってだっこしたい……触るだけでもっ……ううん、なんなら一緒に歩くだけでもっ……!!
「……芽衣、考えてることが顔に出てるわよ」
「えっ……!!」
「仕方ないわね。そこまで言うなら私が生徒会権限として飼い主から借りて……」
「ひっ、ひびきちゃん良いよっ! そ、そこまでしちゃ悪いし……!」
「そう?」
「うん。私、見てるだけでも……」
「…………芽衣。顔がそう言ってないわよ……」
「あ……」
「手もなんかうずうずしてるし……」
「う、で、でも本当に良いからっ! そ、その。飼い主さんにも悪いし、ペンギンさんにも悪いから……ね?」
そう。私は見てるだけでいいの。
あのかわいい後頭部を。くるんとしたまるっこい体を。
つぶらな瞳とか、ぴぅぴぅ鳴く声とか……チョココロネを頬張ってるところとか、中庭でぐーぐー寝てるところとか……
「廊下をぺたぺた歩いてるところとか、購買でチョコチョコしてるところとか、グラウンドを全力疾走で両手を振りまわして走ってるところとか……!!」
「芽衣、芽衣! 思ってることが全部口に出てるっ!!」
「え。あ。……あぅ」
「ほらもうっ。ちゃんと座って! テンション上がりすぎて立ち上がるなんてもうっ……!」
「ご、ごめんねひびきちゃん……」
「もう。だから謝らなくてもいいってば。それで……どうする? 今日はもう終わりにする?」
「うん、そうだね。一応今日の仕事は全部終わったし……」
(ガラッ)
「失礼します。会長、この資料の件なのですが……」
あ……。
「…………」
「すみません。至急目を通して修正していただきたい部分があるのですが……」
「いえ、大丈夫ですよ。どれですか?」
「…………」
・
・
・
「ふぅ……」
「芽衣、お疲れ様」
「ひびきちゃん、最後までいてくれなくても良かったのに」
「迷惑だった?」
「ううん、すっごく助かったけど……」
「頼ってくれていいっていつも言ってるでしょ?」
「うん、ごめ……」
「めーい?」
「……う、うん。でも、やっぱり、ごめんね? それと……」
「それと?」
「ありがとう。えへへ……」
「…………! べ、別にそれも良いのよ! わ、私が好きでやってるんだから……! 芽衣のサポートをするのが、副会長で、幼馴染で、友達の……私の役目なんだから! ね?」
「ひびきちゃん、顔真っ赤だけど……」
「あ! あ。き、今日は暑いわね! ほんっともう! さすがそろそろ夏よね!」
「ひびきちゃん、ちょっと日本語おかしい……」
「あ、暑くって! ほんっと暑いのは嫌ねえ!」
「うん……私も暑いのは苦手だけど、嫌いじゃ……ないな」
(バタン!)
「え? 最後なんて言ったの? 芽衣。よく聞こえなかったんだけど……」
「……ううん、何でもない。さ、早く帰ろう? ひびきちゃん」
・
・
・
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。あら? 今日はひびきちゃん、一緒じゃないの?」
「うん。私、日直だから……」
「日直って、アンタ生徒会の仕事もあって、日直もあるなんて……大変じゃない?」
「ううん。私の仕事だもん」
そう言って一人、家を出る。
私はお兄さんは弟がいない。居るのはお母さん、お姉ちゃん三人と、年の離れた妹が二人。
私はちょうど……真ん中。
お父さんは私が産まれてすぐに遠くの街に単身赴任中になっちゃって、めったに帰ってこない。
そんな家族に囲まれて……物心ついた頃から、男性が苦手になっていた。
周りに男の人がいないんだもの……。
そ、それに……何だかじろじろ見られる気が……するし……。
小さい頃から、ずっと恐怖の対象で。それは今も変わらない。
ずっと怖がってばっかりじゃ……いつまでもこんなのは良くないとは思ってるんだけど……。
「はぁ……」
こんな私でも、大丈夫な男の人っているのかな……。
普通に話すとかだけなら大丈夫だけど、二人っきりになったりとか、生徒会役員以外とか……とにかく初対面の男の人は、怖い……。
「ピウー!」
「!?」
いっ……今の鳴き声って……!!
「ぺっ……ペンギンさんっ……!?」
慌てて振り向くと……
「……!!!!!!」
ぺっ……ぺ、ぺぺぺぺペンギンさっ……!☆?×△※;@……!!
こ、こここんな近くからペンギンさんが見れるなんてっ……!!
しかも今日はお昼寝中のペンギンさんじゃなくて、ぺたぺた歩いてる……!! ぱたぱた羽根動かしてるううぅ……!!
「ピウッ?」
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「か、か、かわいい……かわいいです……っ」
ペンギンさん……。かわいい……かわいいいぃ……!!
「あのー……」
「…………はぁああ……」
「ど、どうしよう……。あ、あの……」
誰かが何か言ってるような気がするけど……聞こえない。
私はそのままペンギンさんに釘付けになって数十分後……ひびきちゃんによって撤去させられてしまった。
うう……ペンギンさん……。 |