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きょうの社説 2009年8月23日
◎トキのケージ起工 環境教育に生かす工夫も
いしかわ動物園でのトキ飼育に向け、県が繁殖ケージの整備に着手した。同園の職員は
既に佐渡トキ保護センターでの飼育技術研修を終えており、受け入れの準備は着々と進んでいるようだが、それと同時並行で、トキを子どもたちの環境教育に役立てる準備も進めてもらいたい。トキはかつて、石川でもそれほど珍しくない鳥だった。それが徐々に減少し、昭和40 年代についに姿を消してしまったのは▽太平洋戦争中の強制伐採によって生息地の山林が奪われたこと▽ドジョウやタニシといった餌が農薬の影響で減ったこと―などが原因と言われる。トキが絶滅に至るまでの歴史は、石川の自然の変化を雄弁に物語っているのである。ふるさとに密着した環境教育を推進していく上で、これほど格好の素材はないだろう。 いしかわ動物園の繁殖ケージは11月中に完成し、早ければ年内にも2ペア4羽のトキ が移送される見通しだ。分散飼育の目的は、あくまでも感染症による絶滅を回避することであり、ケージそのものは当面非公開となるものの、監視モニターの映像は公開される予定である。 まずは一人でも多くの子どもたちに、久しぶりに石川に戻ってくるトキの姿を見てもら い、関心を持ってもらうことが大事だ。もちろん、ただ監視モニターの映像を流すのではなく、トキの生態や数が減った理由などを、資料映像やパネルを通じて詳しく、かつ分かりやすく発信する工夫も欠かせない。展示をより充実したものにするためには、県内に残っているトキ関連の記録などの収集にも力を入れる必要があろう。 いしかわ動物園がトキの分散飼育先に決まったことを受け、津幡高では、生徒たちによ って結成された「朱鷺(とき)サポート隊」が餌用のドジョウの養殖を始めている。こうした子どもたちの取り組みも大いに後押ししてほしい。トキとのかかわりを通じて、子どもたちにふるさとの自然の大切さを伝えていくことは、ケージの中だけではなく、空にもトキを復活させるという大きな夢を実現させる原動力にもなるだろう。
◎増える「限界集落」 超党派の新過疎法が鍵に
宝達志水町では、少子高齢化がこのまま進むと、10年後には65歳以上の住民が半数
を超える集落が全体の4割にも達する見込みという。過疎、高齢化が著しく進み、共同体として存続していくことが困難な高齢集落は「限界集落」とも言われるが、能登地域の過疎化を表す同町の現状は、従来の延長線上とは異なる新たな過疎対策の必要性をあらためて示していると言える。石川、富山県を含め過疎地域を抱える全国の自治体は、現行の過疎対策法が来年3月末 で期限切れになるため、新たな法整備を求めている。これを受けて自民党は、新過疎法の今年度成立を衆院選の政権公約に掲げている。総選挙後の新政権の下、これまでのように超党派の議員立法によって同法を制定できるかどうかが、今後の過疎対策の大きな鍵となる。 過疎対策法は時限立法として1970年に初制定されて以来、10年ごとに更新されて きた。4次40年にわたる対策で投入された公費は約80兆円で、道路などの社会資本整備は大いに進んだ。 しかし、全国で限界集落が増えている状況は、ハード事業を中心にしてきたこれまでの 対策法の限界を表してもおり、新法では従来の発想を超えた取り組みが必要である。地方側がたとえば、事業費を医療体制の整備や人材育成などにも使えるよう求めているのはもっともである。 自民党は新過疎法の考え方として、過疎地域の個性や資源を生かして活性化を図るため 、ハード面の支援に加え、医療の充実や産業振興などソフト面も含めた総合的支援が必要としている。 民主党は新過疎法の制定を明示していないが、過疎対策として、公共事業だけに頼らず 、地域の特色を生かして過疎地が自立できるようにすることを政権公約で強調している。ハード一辺倒の過疎対策からの転換を図る点で両党は一致できるはずであり、選挙後に真摯に協議してもらいたい。 財政資金を投入する過疎対策は都市住民の理解が不可欠であり、その支援を促す理念や 仕組みを考えることも大事であろう。
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