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労働市場の問題を階級対立にするな - 池田信夫

2009年08月22日08時50分 / 提供:ニュースブロガー

ニュースブロガー

アゴラ

けさの朝日新聞の「にっぽんの争点」という連載は、雇用問題を取り上げています。「自民党は『行き過ぎた市場原理主義とは決別する』と表明したが、派遣の規制についての言及は、雇用期間が30日以内の派遣規制の原則禁止にとどまる」と自民党の「経済界への配慮」を強調し、それに対して民主党は「家計への支援策とともに、安定した雇用制度を主張する」と書いています。この図式によれば問題は、財界の利潤追求のために労働者を犠牲にしようとする自民党に対して、正義の味方の民主党が労働者を保護している、という階級対立になるわけですが、本当にそうでしょうか。
まず問題なのは、民主党など野党3党の主張するように、日雇い派遣や登録型派遣や製造業への派遣を禁止することが「安定した雇用」を実現するのかということです。こうした雇用形態を禁止すれば、今そういう契約で働いている労働者は確実に職を失います。民主党は派遣を禁止すれば、みんな正社員になるとでも思っているのかもしれないが、そういうことは起こらない。業界の調査によれば、派遣労働者が正社員になる比率は5%です。残りは失業者になるか、アルバイトなどのもっと不安定な雇用形態になるでしょう。

これは朝日新聞のいうような「経済界の利益」の問題ではありません。90年代以降の長期不況の中で、硬直化した日本の労働市場の欠陥を補う形で派遣労働の規制緩和が行なわれ、派遣が雇用の受け皿になってきたのです。派遣労働が不安定だといっても、失業よりはましでしょう。つまり派遣などの多様な雇用形態は失業を減らし、労働者の利益にもなっているのです。彼らの雇用が不安定なのは労働需要が不安定だからであり、その原因は財市場が不安定だからです。現在のような不況で、こうした不安定性を除去することはできない。

問題は、非正社員だけがそういう不安定性を吸収するバッファになり、正社員の過剰雇用が守られていることです。非正社員が労働人口の1/3を超えた根本的な原因は、OECDなども指摘するように、日本では解雇規制が非常に強いため、不況のときには企業が正社員の採用に慎重になることです。つまり規制によって労働市場が硬直化しているため、労働需給の調整が円滑に行なわれないことが、人的資源の配分をゆがめているという労働市場の効率性が問題なのです。

労働市場で超過供給(失業や非正規雇用)が存在するということは、正社員の労働コストが需給の均衡する水準より高いことを示しているので、解決策は基本的にはコストを下げるしかありません。解雇規制を緩和し、年功序列の賃金体系を改めて、生産性に見合った賃金を支払うしくみに変えるしかない。それによって正社員のコストが下がれば、派遣や請負ではなく直接雇用する企業が増えるでしょう。つまり労働市場を規制緩和によって効率的にすることで、企業も労働者も利益を得るのであり、問題はゼロ・サムの利害対立ではありません。それをメディアが「財界vs労組」といった図式にすりかえて政治的な対立をあおることが、問題の解決を困難にしているのです。

私も昔、取材する側にいたので、こういう対立を作り上げる記者の気持ちはわかります。労働市場の効率性などという話は、ある程度の予備知識がないとわからないし、地味です。連載を担当した記者は、おもしろい記事を書くことを求められているので、そういうときは「コンフリクトをつくれ」というのが鉄則です。対立とか闘争というのはスリルがあり、読者の興味をかきたてるから、何もないところにもめごとを作り出すのがジャーナリストの常道です。

そして不幸なことに、こうした階級闘争史観を信じる人は、年配の世代だけでなく、『蟹工船』ブームに見られるように若い世代にも増えています。このようにメディアによって演出された「格差社会」論が、必要以上に情緒的な対立を作り出し、冷静な議論を困難にしています。少なくとも政治家は、こうした図式にまどわされず、労使双方にとって望ましい制度改革を考えてほしいものです。

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